激流の中に

 

 

 

 

 

 

薄暗い室内

 

 

 

 

「それは…反則だろう。」

 

 

 

 

吐き出した俺の悲鳴はじみた言葉は、静かな部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ハリケーンの町で】

       激流の中に

 

 

 

 

 

 

 

ゾロの部屋に入れば鼻に付くカビ臭さと埃の臭い。

ここ数日窓も開けてないだろう事は、部屋の惨状を見れば一目瞭然だ。

一つ一つ部屋の状態を確認する為と換気の為に歩く。

 

飲んだビール缶が放置されているシンク。

寝室は、起きたままの形をそのまま残すベットに、床は脱いだ服が脱いだ形で置きっぱなしだ。フローリングなど見える場所が無い…気がする。

男の一人暮しなんてこんなものかと?と思い直しても気が滅入る。

 

「だからアイツはミドリマンなのか?」

 

ニヤ付く顔で独り言でぼやきながら、洗濯物を回収して歩き回った。

 

 

脱衣所には、ここ数日の洗濯物が僅かだが入っていた。

 

『タオル』『トランクス』『靴下』『シャツ』

 

それ以外の洗濯物は無い。

ここ数日寝る為だけにここに戻った事が覗える。

 

「こんなに溜めたらカビ生えるぞ!」

 

怒りも空しい……。

 

洗濯機に洗濯物を仕分けしながら入れる。

その時洗濯籠にミドリの物体を見付けた。

 

「カビ…か?」

 

恐る恐るそれを摘み上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

タップリ5分笑わせてもらった。

 

「はっ……は……ハラマキ〜〜ッ!!!」

 

使い古した緑色の腹巻。

腹を抱えて床に転がりのた打ち回る。酸素不足で頭も痛い。

 

あのクールな眼差しの男は、その形に似あわずこんな物を愛用していたのだ。

何処まで可愛い男なのだろう。

 

 

真っ直ぐで…

 

刃金のような鋭さで…

 

信念持ってて…

 

温かくて…

 

迷いが無くて…

 

 

迷子で…

 

惚けてて…

 

寝腐れてて…

 

やっぱ、どっか惚けてて…

 

 

何処かほっとけなくて…

 

でも、一人で戦っていて…

 

 

「でも…抜けてんだよな……」

 

顔が綻ぶのが解かる。

 

 

自分に無い信念持ってる奴に惹かれてならない……。

 

アイツがレディーなら間違い無く惚れている。速攻口説く。

 

「でも…、何処どう見ても野郎なんだよなぁ…」

 

自身、その溜め息の理由を知っている。

きっと死ぬまでこの想いを隠し続け、苦しい恋心を悟られず傍にい続ける道を歩むだろう。

 

 

 

 

 

 

洗濯機をまわして部屋の片付けへと向かう。

ヌル付いたシンクを磨き、部屋の埃を払い掃除機をかけ拭き上げる。少しは見れる状態に成って来た。

 

寝室で転がっていたペンを蹴飛ばしてしまい、それがコロコロとベット下へと入り込む。

慌てて覗き込めば、そこにマニアックなエロ本……。

 

「クソ笑える」

 

多分、ゾロの友人が悪戯において行ったんだろう事が想像出きる。

 

この男は、こうやって仲間に弄られて…愛されているんだろう。

 

 

寂しい…。

 

 

そう思う。

 

俺一人のアイツでは無いことが寂しいと思う。

 

本を引きずり出して悪戯心にマガジンラックへと立て掛ける。

その時フト視界に入った1つの封筒。社名が鷹の目製薬と書いてある。

それは、今、自分が侵略している会社の名前。

 

 

 

中身が僅かに覗いている。

 

 

人の物を勝手に見るなんて許されない事だとは理解している。

しかし、封筒の会社名がこれからする行為を促す。

 

 

 

 

 

ゾロの事を少しでも知りたい心がそれを促す。

 

 

 

 

 

中身をそっと見る

 

 

 

 

 

『メインコンピューター【七部海vol.A】 ファイアーシステム考案』

 

 

 

 

 

見出しを見て固まった。

 

振るえる手を押え切れず…それでも……見る。

 

 

 

 

 

 

 

『立案者 ロロノア・ゾロ』

 

 

 

 

 

バサリと床に落ちた書類。

 

 

 

 

 

 

そこには、俺を叩きのめすだけの内容。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゾロ……、てめェが『スリー・ソード』だったのか」

 

潤む視界を天井に向ける。

 

「それは……」

 

掠れた声…

頬に伝う涙…

 

「それは……反則だろう。」

 

 

 

後戻りできない道を歩み始めた自分の前にいるのは、他の誰よりも傍にいたいと願うその人。

 

 

後に引けない。

足を止める事も出来ない。

自分の行いを世間にばらす事は、養父に迷惑をかける。

 

 

 

 

いっそ、いっそ、この身が業火に焼かれてしまえば良いのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

誰か

 

誰か

 

誰か

 

 

 

 

 

 

誰か俺を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………殺してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

End