貧乏武勇伝

 

 

 

 




トレーニングルームに入ったバーナビーは、誰もマシーンを使ったトレーニングをしていない事に首を傾げた。と言うより誰も居ないし。
何時もこの時間ならば、誰かしら居るのだが。
そもそも、今日は、単独取材があったため夕方近いこの時間帯にここへ来たが、バディの虎徹は先に来ているはずである。

瞬間の思考を破ったのは、元気な少女の声。カンフーマスター・ドラゴンキッドのパリオンである。それに続き折り紙事イワンの興奮した声が聞こえる。
そちらへと視線を向けたバーナビーの視界には、床に座り円座を組むようにして集まるヒーロー達の姿だ。

その円陣に虎徹を見つけたバーナビーは、ふわりと微笑み輪へと歩み寄った。



「おっ、バニーちゃんお疲れさん。」

トレーニングルームへと入って来たバーナビーを見つけ、破顔した虎徹。その声に反応したヒーロー達は、顔をバーナビーへ向けた。

「お疲れ様でした。」
「今日の取材はなんだったの?」
「あら、いらっしゃい。遅かったじゃない。」
無理に来ることなかったのに。」
「皆揃ったね。そして、お疲れ様。」
「おお、終わったのか。」

皆、様々な声をかけながらバーナビーが座る場所を空けてくれる。もちろん虎徹の隣だ。



虎徹とバーナビーは、云わば『恋人』同士だ。バーナビーの熱烈で必要以上な口説きに虎徹が折れた形でスタートした関係だが、現在のところその関係は良好である。
文化的な問題もあるが、人前でイチャイチャとしない逃げ腰気味の虎徹だが、バーナビーを見る目線は優しく。どちらがどちらを甘やかしているか判りにくいが関係でもヒーロー仲間ではそれも虎徹やバーナビーらしいと温かな気持ちで応援していた。一部生温かい視線も混じってはいるが。




「皆さん集まって何の話ですか?」

盛り上がっている会話を中断させたことを詫びながら、バーナビーは虎徹の隣に座る。
肩が僅かに触れる程の距離にいる虎徹は、頬を掻きながらヘラリと笑った。

「うん、アントニオ、ネイサンがヒーロー2…3年目ぐらいで、キースが新人とかルーキーとか言われていた時代の話だよ。」
「その頃はねハンサム、ヒーローって職業は華やかにみえて『3K業務』って言われていたぐらい待遇は酷かったの。」

虎徹の言葉を受けてネイサンが先程迄の話をした。

今では考えれないぐらいにヒーロー環境は酷かった。
給与も生産性の無いヒーロー職務は期間雇用者として雇用され一般社員より手取金が低く、活躍しても雇用契約の差もあるが、だいたいは1回の出動につき僅かな『危険手当金』が支給されただけだった。その上、トレーニングセンターは無く、自腹でクラブハウスやジム等に通い身体を鍛えていた時代。
ヒーローをサポートするチーム体制も現在の様なフルサポートとして確立してはおらず移動も基本自力だった。
特殊な危険業務である事から、民間保険に入る事はできず、怪我をしても労災保険から出る支給金と貯蓄を崩して入院や通院する日々。その事もあり、基本給から医療代の積み立て貯金が天引きされ手取金は更に下がってしまった。
スポンサーからのお金は、全て企業が吸い上げる為、自分たちに還元される事は少なかった事もある。

ネイサンのように財力とオーナーの地位があればまだしも、虎徹やアントニオ、キースのように一般家庭からヒーローに成った者達は、お金の面ではかなり苦労したのだ。

「ヒーロースーツも今みたいに立派な『クリーナー設備』があったわけじゃないからなぁ。」

アントニオが遠い目をして呟いた。

「出動して汗をかいた後、今はメンテナンスをしながら『クリーナー設備』で外側の汚れを落としたり、中側の汗の臭いも消しているけど、当時の技術はまだそこまでなかったから……。」
「中側が湿っていた時もあった、そして、臭かった。」

アントニオの後に続きキースがぼやいた。
スーツボディー部分も勿論だが、ロックバイソンやスカイハイの様なフルフェイスのメットは特に臭いが酷い。

「夏場はメットの中でゲロ吐きそうに成ったよ。」

苦笑いを浮かべるアントニオの言葉に眉を潜めたバーナビーは、キースにも視線を向けた。

「本当に夏場は特に酷かった、そして酸っぱい臭いがした。」
「酸っぱいんですか。」

その臭いを想像しようとしたバーナビーだが、想像の範囲を大きく外れていて理解が出来ない。
複雑な表情のバーナビーやイワン、パリオンそしてカリーナを見た年長組のヒーローは、顔を見合せ笑った。

「ヒーローを辞めた何人かのOBが、雇用改善の為に動いてくれたのよ。政界や財界、司法なんかに身を置いて残されたヒーローや新たなヒーロー達の為にって。」
「サポート体制やクリーナー技術なんかも先輩ヒーロー達が奔走してくれたお陰だなぁ〜」
……ボクたちはその人達のお陰でしあわせなんだね。」

パリオンが素直な一言を漏らす。
バーナビーは、華やかなヒーロー業務の裏に苦労があった事を初めて知り、隣に座る虎徹を見つめた。

「僕は知りませんでした。皆さんそんな苦労をしていたんですね。」
「ん?苦労っちゃ苦労だけどな、それなりに苦労の絶えない貧乏生活は楽しかったんだよ。」

その言葉に嘘はないのだろう。皮肉でもなく笑いながら虎徹は言った。

「住宅に係る電気代にガス代、水道代と家賃。生活雑貨費に食事代カツカツの生活だったな。」

当時を振り返りながらだろうか、目を細め口角を上げながら笑うアントニオにも貧乏時代の暗さは無い。むしろ楽しげに話す。

「服とかトレーニングウエアは、先輩ヒーローから貰ったり。後、ファンからのプレゼントは助かったよな。だけど、サイズがなかなか合わなかったのは辛かったよ〜。」
「洗濯物は、1週間分溜めて皆で金出しあってコインランドリーでやった。たまに下着の予備が足りなくてな、汚くなさそうなのを裏返して着たっけ。」
「シャワーは、基本ジム以外は入らなかった。自宅は水道代やガス代が掛かるから。冬場は髪が凍った。そして、風邪を惹いた。」
「俺今だから言うが、隣の家に電気コード繋いで勝手に電気貰ったり事もあったよ。」
「だっ!それ犯罪だろう!」

命懸けの入浴に唖然とする若いヒーロー達。そして、会話の中に耳を疑う内容もありツッコミをするべきか悩めば、次の話題へと移っていく。

「パーティーなんかあると、隠れて持って来た容器に食事詰めてさぁ。持ち帰って冷凍保存とかして何日間かしのいだよなぁ〜。」
それ、ありなんですか?」

イワンは虎徹の話しに引き気味ながら質問をする。
胡座をかいた虎徹は、イワンから視線を反らし苦笑いを浮かべネイサンに目で訴えた。

「駄目に決まっているじゃない。でも、残す位なら持ち帰って食べても良いと私は思っていたわ。私や先輩ヒーローが来客の気を引き付けて、その間に」「俺やアントニオ、キース達が飯を詰める!」
「あれは助かった。そして、美味しかった。」

年長組ヒーローは、当時を思い出し笑いあったが、バーナビー達年少組ヒーローは、憐れんだ表情を浮かべた。

「俺の場合は、賠償とか仕送りで金無かったからまあ、今も無いんだけどね。でも、一番貧乏していたっーか飯に困っていたのはアントニオだな。」
「スポンサーから食材は貰うんだが、何せ料理ができなかったからな。材料を持って虎徹の家で作ってもらったよ。」
「キースも呼んで、時にはネイサンに酒の差し入れしてもらいながら食べたよな。」
「えっ、虎徹さんは炒飯しか作れないんじゃないんですか?」

虎徹の手料理、それも炒飯を1度しか食べたことが無いバーナビーは、驚きの表情を浮かべるも僅かな嫉妬心を抱えながら隣に座る虎徹の顔を見た。

「あのなぁ〜、俺だって365日炒飯ばっかりじゃ……炒飯は手軽で安価で完全栄養バランスな食事なんだよ。米に卵、野菜のみじん切り入れて。ハムとかあれば豪勢だし、チーズ入れれば乳製品も採れるだろ。出動した後飯を作るの疲れていて大変だし。」

ケータリングや外食がほとんどバーナビーからすると、『お前もそうだろ?』と虎徹から可愛らしく同意を求められても、曖昧に首を傾げるしかないのだから眉を下げ言葉に困る。
カリーナは、親と共に自宅で生活しているから食事を作る煩わしさがわからない。
パリオンは、親元を離れてはいるが、衣食住及び学習に関しては徹底的に管理されている。スタッフ達ナターシャ達の愛情と共に恵まれた環境に身を置いて。

唯一同意したのはイワンだ。アカデミー卒業後独り暮らしの彼は、3食キチンと自炊生活をする苦労を知っている。
疲れた時は、弁当や惣菜を買い適当に済ませる事も多かった。
野菜不足気味の時、体調が崩れ身体がだるい時期がありそれを虎徹に心配され怒られた記憶も新しい。
それ以来、時間がない時は野菜ジュース等で補ってはいるが、気が付けばジャンクフードやインスタントに流れがちになってしまうのだ。
しかし、お金がないから偏食になっているわけではないので、余りに哀しい貧乏話しは若干退いている。

「もやし1週間強化週間!とか言って、もやし以外食べられない日もあったな。」
「オリエンタルタウンから大量に送られてきたから『大根まつり』もやったし。」
「トルティーヤ具なしパーティーは楽しかった。そして、具がなくて淋しかった。」

貧乏だからこその知恵がある。笑ってしまう内容だが、自炊生活をしているイワンには参考になる箇所が多々あり、彼は遠慮がちに手を上げて先輩ヒーロー達に質問をした。

「出来れば簡単に作れるメニューを教えてもらえませんか?出来れば安い材料で出来る物が助かるんですが。」

猫背になりながらイワンがチラリと見たのはネイサンで、視線を合わせると彼女(?)は無理無理と手を交差させた。
アントニオは先程の話しで既に料理下手とわかっているが、イワンは敢えて視線を向ける。

「おっ、俺か?俺は焼き肉100グラムでどんぶり飯3杯の男だから、料理には無理だ。」
「焼き肉100グラム?」

カリーナなが首を傾げる。

……本当に料理が出来ないんだよ。一度コイツの家にキースと行った時、スゲーもの喰わされた!」
……全力で料理してアレだからね。」

虎徹とキースは顔を見合せ揃って盛大なため息を吐き出す。
その様子にパリオンとカリーナが視線を合わせると、それぞれ虎徹とキースに『どんな料理だったの?』と視線で質問をした。

眉を寄せて首を降る虎徹と、視線を天井に向け両手を上げたキースにバーナビーは再度質問する。

「聞くのも怖いんですが、いったいどんな料理だったんですか?」

一瞬肩をピクリとさせた虎徹は、上目遣いでバーナビーを見つめた。

「聞きたい?」
「はい。」

可愛い顔で『話したくないんだけど』と訴える虎徹を問答無用で切り捨てる。しかし、虎徹は煮え切らない言葉をゴニョゴニョと口の中で呟く。

「聞こえませんよ、貴方は斉藤さんですか?」
後悔しない?」
はい。」
……アントニオの見る目変わっちゃうよ?」
……大丈夫です。多分。」

怖いものみたさ、とでも言っておこうか。食い下がるバーナビーに何度目かのため息を着いた虎徹は、頭を掻いて項垂れた。

……俺が見たのは、キッチンで料理しながら牛を食う牛だったんだが、」「牛いうな!」
「まぁ、うん、フライパンに肉焼きながら、ご飯?バターライス?食ってた。」

別にそれの何が問題なんだろう。多少行儀は悪いが虎徹とキースが言う『酷い』とは思えない。バーナビーは、虎徹の目を覗き先を促す。

「一緒に食おう!って言われて、キースと俺と牛とフライパンの前にどんぶり飯持ってさぁ
「まず1杯目は『肉を焼く匂い』でご飯を食べた。そして、みんなでご飯をおかわりさせられた。」
「「「はっ?」」」
「で、2杯目は『焼き肉のタレを付けた焼肉を飯に一度乗せて、またフライパンに戻して付けた肉汁だけご飯』を食う。」
「「「!!!!!」」」
「3杯目は、フライパンにご飯を入れてこびりついた肉汁とかタレを混ぜて食べる。」

ここで当事者と目撃者2名を除いた皆は大爆笑だ。
パリオンは、お腹を抱えながら床を転がり回る。カリーナは、アントニオを指差し涙を流しながらケラケラ笑い、ネイサンは男言葉になりながらアントニオの背中を何回も叩いている。
イワンは、笑っては失礼とは思ったのだろう。脱兎の如く輪から飛び出し、ソファーの影で身を丸めながら声を殺し笑い、バーナビーは、虎徹の肩口に顔を埋めて。やはり必死に笑いを堪えているのだろう、身体がブルブルと小刻みに震えていた。

「馬鹿だわ〜。そもそも料理じゃないじゃない。」
「食えるから良いだろっ!モウ!」

未だにアントニオの背中を叩くネイサンは、呆れ顔で笑い続ける。
あまりにも皆から笑い続けられたアントニオは、ションボリと項垂れて独りボソボソ言い訳をした。

……後は、モバイルアプリで『焼き肉を焼く映像と音』で飯を食っていたよな。エア焼き肉?」

虎徹の言葉は皆の腹筋に止めを刺した。












「で、先輩の質問に戻りますが、簡単・安価で美味しい料理は何ですか?」

皆の腹筋が疲れはてしばらく休憩をとった後、脱線した話しをバーナビーが軌道修正した。
勿論質問を投げた相手は虎徹だ。と言うか、虎徹以外でまともな家庭料理が出来る年長組ヒーローはいなかったのだ。バーナビーを含めて。

「う〜ん、簡単で栄養バランスが良くって旨いと言えば『鍋料理』なんだけど。アレ、独りでするとちょっと寂しいんだよね。」
「鍋料理ってなんなの?」

カリーナが首を傾げる。頭の上に『?マーク』が出ているカリーナとイワン、そしてバーナビー。3人揃って同じ表情を浮かべる後輩ヒーローを見た虎徹は、小さく吹き出た。

「アントニオとキースとネイサンは、食べた事あるから知ってるよな。ホァンも郷土料理に『鍋料理』あるだろ?オリエンタルとは少し違うが似たような料理だよ。で、『鍋料理』は、鍋土鍋って言って土を焼いて作ったなべを使って作る。」

鍋の中で煮ながら食べる料理だから、片付けも楽々だし。と付け加えて虎徹は説明する。
醤油ベースや味噌ベース、カレーにトマト。様は好みのたっぷりスープに、白菜やキャベツ、人参・大根、葱にキノコ類や豆腐、肉や魚を入れて。

「熱々をフーフーして食べる。具を食べ終わったら、シメに麺やご飯入れてスープも残さず食べちゃうんだよ。」
「私は『蕎麦』が好きだわ〜」

虎徹の説明にネイサンが身をくねらせて割り込む。

「俺は飯だなぁ、玉子上からかけて!」
「ソレは雑炊な。」
「それそれっ!アレは旨い。」
「私はうどんが好きだ、特に細めのツルツルした麺は最高だ!そして、ワイルド君の鍋料理は絶品だ!」
「ありがとーよ。」

虎徹の家で鍋料理を食べた事があるメンバーは、うっとりと表情を弛ませ生唾を飲み込む。
まだ食べた事がないメンバーも、その料理を想像して目を輝かせた。





グ〜〜〜〜、グ〜〜〜〜!





賑やかに雑談するメンバー全員に届いたのは、腹の虫が絶叫する音。
慌ててお腹を押さえたのは……

「あぁぁぁ!あっだからっ、仕方がないじゃないですかっ!!取材が立て続けで昼食も適当でっ!!だって、虎徹さんが作る鍋料理の話があまりにも美味しそうでっ!」

真っ赤な顔で怒るバーナビーは正に逆ギレ状態だ。らしくない彼の行動に笑いや揶揄を飛ばされてバーナビーの行動はエスカレートする一方で。
それでも情けなさに半泣きのヒーローは、視線で拗ねて虎徹に助けを求めている。

「朝も出動があったから、朝食ほとんど食べれなかったって言ってたっけ?うん、バニーちゃん、今晩家で一緒に夕飯食べる?鍋料理やろうか?」
「はい。」
「うん!!」
……えっ?」

バーナビーの火を鎮火したのは、揶揄的な言葉を出さず優しく笑う虎徹の気遣いだ。
しかし、『今晩家で一緒に夕飯食べる?鍋料理やろうか?』この言葉に間髪入れず返事をしたのはバーナビーとパリオンだった。だが、バーナビーとしてはパリオンの返事は予想外で、間の抜けた疑問符付の声が出てしまったのは仕方がない事だ。

「ボクも話を聞いてたらお腹ペコペコだよ!タイガー、ボク一緒に鍋料理食べたい!!」
……えっ?あっうん、別に良いよ。」
「やったー!」

虎徹の許しを得て大喜びで飛び上がったパリオンを、バーナビーは何とも複雑な表情で見つめた。

その表情に他者がコメントを付けるなら『やったー!、虎徹さんの手料理が食べられる!』や『えっ、何でドラゴンキッドが?』とか『虎徹さんと二人っきりじゃないの?』、『何で断ってくれないんですかっ!』など、たくさんのコメントが彼の前を流れていくだろう。

「あら、タイガーの手作り鍋料理。私も食べたいわ。」
「ワイルド君の鍋料理なら是非とも!」
………えっ?」

話の流れが予想外な方向に行き始め、今度は虎徹が疑問符付の間抜けな声を上げた。彼にもコメントを入れるなら『待て待て待て待て!』や『ホァンだけじゃねーの?』とか『バニーちゃん助けて!』など、圧巻な程大量なコメントが流れていくだろう。

「べっ別にタイガーの料理が食べたいなんて思わないけど、み……みんなが行くんなら行っても良いわよ。」
「僕に『鍋料理』の作り方教えてもらいます。」
「肉は俺がフランチャイズから安く買って来るわ。」

……まっ……待って」

片手を伸ばし固まるバーナビーと、何度もまばたきをしながら何か言おうとする虎徹を無視して他のヒーロー達は『鍋パーティー』の段取りをしている。

「じゃあ、私達女子組みは、飲み物とデザート、後、紙の器を買って行きましょうね。」
「だから、1人女子じゃないじゃない。」
ごめんね。もう少し女の子らしく見えるようにガンパルね。」
「だから、……もういいわ。」

そんな会話をしながら立ち上がったネイサン、パリオンとカリーナ。
虎徹に『後程ね』と挨拶をし、早々トレーニングルームを後にしていく。

「肉は何の肉をなんキロ買って来れば良いんだ?」
「バイソン君、私も運ぶのを手伝おう。」
「あっ、僕も一緒に!!」

アントニオは、購入する肉が決まったらメールしろよ。と虎徹に声をかけ、男3人和気あいあいとその場を後にした。






………………虎徹さん?」

トレーニングルーム出口を見つめたまま固まる虎徹の正面に座り直したバーナビーは、虚ろな目線をなんとか捕らえようと声をかける。
大きなため息を着いた虎徹は、ゆっくりバーナビーに視線を合わせると、向かい合ったバーナビーの肩に自分の頭を乗せ小さくゴメンねと呟いた。

「なせ謝るんですか?」
「ここ1週間、ずーっと忙がしかっただろ?取材とか取材とかうん、取材とCM撮りとパーティーと立て続けだったから。今晩は久し振りにゆっくりして欲しくてさ、おじさんの『老婆心』なんだけど。」

 

虎徹からはバーナビーの表情をうかがい知ることは出来ないだろ。


「虎徹さんを独占出来ないのは、ちょっと残念ですが。」

苦笑いを浮かべたバーナビーは、俯く虎徹の頭を抱え込みそのまま床へと押し倒す。

「その分、今虎徹さんを補充させてもらいます。」
「決定事項なんだ。でも、ここトレーニングルームで、いつ誰が入ってくるかわからなくて、それであのね」

「黙って」

床に寝かされ近付くバーナビー顔を見ながら眉を下げた虎徹は、雄の表情を隠さない相棒の行為にゆっくり瞳を閉じた。