【鋼のFanClub シリーズ】(外伝)

天然素材

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― それはとある日の司令室での事。

 

 

 

 

 

「鋼の。私と付き合ってくれないか。」

 

 

 

 

 

 

 自分の想いを自覚したロイは、エドワードに告白をした。

 

 

 

 

 

 

 勿論、相手の気持ちあっての事。独り善がりにならない為にも、エドワードが自分をどう観ているのかサーチし、脈在り!と見たからこその告白だ。

 

室内に居たメンバー達は、この日を首を長くして待っていた。

 

アルフォンスは、兄の時折見せる不可解な行動が『ロイ=マスタング』に繋がっていると解かって居た為、

 

 これでメデタシ!メデタシ!!

 

と、変わらない表情を綻ばせその光景を見ている。

 

 

 

 

 

 

 ロイの座る椅子の前に立って居たエドワードは、その告白を意図もあっさりと受け入れた。

 

「いいぜ。」

「は……鋼の。」

「で、何処かに視察でも行くのか?それともテロ退治?」

「は?」

 

その場に居た全ての人間が固まった。

 

顎に手を当てて床を見ながら考え込むエドワードには、室内の風景は目に入ってはいない。

 

「でも、俺の等価は高くつくぜ!そうだなぁ〜、文献にしようかなぁ……、それとも錬金術師紹介してもらおうか??」

「鋼の?」

 

ロイは、僅かに首を傾け自分の想い人を呼ぶ。しかし、エドワードは、自分の思考の世界からは帰っては来なかった。

 

「どっちにしても……、で?何時出発??………???皆何か有ったのか?」

 

エドワードが顔を上げ室内に目を向けた時、そこに見えたのはボロボロと崩れる人の姿。

余りのお約束な展開に皆、その場で息すらする気を失せた。

 

ホークアイは、ティーサーバーからカップへと注いでいた紅茶が、カップからソーサー、そしてトレーへと滝の様に流れている。

ハボックは、フィルターに火を付け必至に落ち着こうと努力する。が、火が付く訳が無く無意味に終わる。

犬嫌いなブレダは、そこで寝ていたブラックハヤテ号を起こし、躾を始めた。

ファルマンは、読んでいた本を真っ二つに裂き先程まで読んで居たのだろう内容を何度も口の中でブツブツと唱えている。

フェリーは、直して居た無線のコードを引き千切り、それを再度近付けスパークさせていた。

 

屍累々状態を暫らく眺めていたエドワードは、首を傾げ

 

「大佐?皆、どうしたんだよ?」

 

と質問を投げると、ロイも首を傾げこめかみを押さえながら

 

「……………………どうしたのだろうね?」

 

と返答するに留まった。

 

満足のいかない返答が来た為、小さく舌打ちしたエドワードは、窓辺に立たずむ弟の傍に行く。

 

「アルゥ〜、皆どうかしちまった………?アル??」

「兄さん………。青い空ってなんだろうね?白い雲ってなんだろうね?何処から風の歌が聞えて来るんだろう?」

「…………アル…?アルフォンス君??大丈夫か???」

 

意識を別世界に飛ばした弟を、エドワードは呆然と見詰めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― それは数ヶ月前の司令室での事。

 

 

ロイは、ポケットの中に忍ばせた小箱を握り締め、有らん限りの勇気を持ってエドワードに話し掛けた。

 

「鋼のは、目的を達成したらその後はどうするつもりだ?」

 

司令部メンバーと和気藹々話て居たエドワードは、イキナリ振られた質問に振り向き首を傾けながらも、隣りに居たアルフォンスの顔を見て恋人に視線を送るりふんわり笑って答えた。

 

「うん〜、まだ決定!って話じゃないけど、俺は暫らく『国家錬金術師』を続け様と思っている。ほら、色々文句言ったって俺、未成年だから身分証明する物これしかないし、金とか無いと困るしね。」

 

少し困った表情を見せたエドワードに、ロイは先程から握り締めて居たそれをエドワード前の机上に乗せた。

 

「まだ決定していない選択肢の中に『私の元に来る』事を入れては貰えないか?」

 

 

 

 

 

 

――― 大佐!エドワード君(大将)にプロポーズした!!

 

 

 

 

 

その場に居た誰もが驚き、その後の展開を固唾を飲み、影を潜め見守った。

 

「えっ!?それって………」

 

驚きの表情のエドワード。ロイの真剣な眼差しを受けとめ暫し言葉を無くしている。

 

アルフォンスも傍でワクワクとしながら兄の快い返答を楽しみにしていた。

 

軍部メンバーもそれに劣らず、二人の幸せを思い浮かべ気は早いが心から祝福を贈り・・・・・・。

 

「それって………、軍に入隊しろって事?まぁ、考えておくわ。」

 

 

 

 

 

――― 違うだろーーーーっ!!

 

 

 

 

 

その場に居た誰もが例外無く崩れ落ちた。

 

 

このシュチエーションでこの返答。何処まで天然なのか!皆心の中で絶叫した。

 

ロイもこの展開に成るとは思ってもいなかった。

 

目の前に置いた物は、何処をどう見ても『ジュエリーケース』だ。この小さな箱からすれば『指輪』それも婚約指輪と誰でも想像する。

イヤ、エドワードは所詮エドワードだ!どんなに複雑な構築式を簡単に考えようと、どんなに難しい論文を意図も容易く書き上げ様と、恋愛音痴のエドワードにこのシュチエーションどうのこうのと思う方がいけなかったのか?

 

兎に角、エドワード以外白け切り脱力しきった人間達は、各々仕事へと散って行く。

 

そんな中、エドワード一人皆の行動の意味を掴めず、周りをキョロキョロと見まわしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして今日。

 

「報告書早く読め!俺は忙しいんだ!!」

「来た早々イキナリだな……鋼の。」

 

困った表情を浮かべるロイに一瞥を食らわすと、エドワードは司令室の空いた席に身を投げ大きく息を吐いた。

 

 

イキナリの訪問は何時もの事とエドワードは、挨拶もそこそこ珍しく司令室に居たロイを捕まえ定期報告書を渡す。

その後ろでは大きな鎧の身体を小さく丸めエドワードの代わりに挨拶をするアルフォンス。何時も決まった風景に軍部メンバーは苦笑いを浮かべてしまう。

何せ、前回訪問時エドワードはとてつも無い天然を皆に見せつけていた。

 

プロポーズ事件である。

 

あの後、エドワードが旅立つとそれまでポーカーフェイスを貫いていた上官が、見事に撃沈し暫らく浮上しなかった事は記憶に新しい。

しかしそれはそれ、エドワードとアルフォンスが来てくれれば、職場も和やかになり癒される。どんなに憎まれ口を叩こうとその愛らしい心遣いを心から感謝している。

 

しかし、ロイとしては久し振りに会った恋人のつれなさに、いささか寂しさを覚えてならない。

エドワードの座った席の横へと歩み寄り、疲れた表情を浮かべる愛しい人の顔を見詰め、何処から出るのだろう甘い声でロイはエドワードに声を掛けた。

 

「こちらにはゆっくりして居られないのかい?」

「あぁ、明日の朝までに中央へ入らないとイケナイんだ。」

 

少し眉を潜めロイの顔を覗う様仰ぎ見るエドワードは、予想以上に落胆させる冷たい言葉を発する。

ロイは、その理由を暫し考えてみたが思い当たる節が無かった。

 

「やけに急いでいるな。何か情報でも掴んだか?」

 

上官らしいキツメの瞳をエドワードに向けたロイは、業務的な声で質問をした。が、受けたエドワードは、渾身の限りで嫌そうな顔をロイに向けた。

 

「違うんだよ……、大総統から呼び出し食らった。」

「大総統?」

 

ロイは僅かに首を傾け視線を天井へと向ける。

エドワードは、幸せがマッハで逃げるであろう超巨大な溜め息を一つ付き上目使いでロイを見上げた。

 

「実は……、前回の査定………期限切れててさぁ。大総統に借りを作っちゃって。」

 

左指で頭をワシワシと掻くと再度溜め息を落とす。

 

「今回『それ』で帳消しっって事に成った。」

「『それ』と言われても見当が付かないのだが……」

 

ロイの話はもっともである。『それ』とは言われても何が何だか解からない。

その部屋に居たアルフォンス以外は意味が解からず、近くに居た仲間の顔を見合い首を傾げた。

 

「うん〜……」

「兄さん、どうせ何時かはバレるから……、話した方が良いよ。」

 

やんわりとエドワードに声を掛けたアルフォンスも何か含みを隠せない。

益々もってエドワード達が呼び出された理由が皆目見当が付かなくなったロイは、エドワードに真剣な眼差しでその理由を聞いた。

 

「あのさぁ〜、……セントラルに『ホテル・セントラル・ハイアット』って在るの知ってるか?」

 

そこは駅前に聳え立つ超高級ホテル。上流階級の一部の人間のみが使用できる会員制ホテルである。

ロイは、何度か軍のパーティーで入った事がある。そこは、煌びやかさは押えてはあるが、優雅な調度品と時間が支配した快適なホテルであった記憶は残っていた。

 

「確か、軍に莫大な献金をしているホテルだな。」

「そっ!それ。そこでさぁ……今度『Bridalfair(ブライダルフェアー)』を遣るんだって。そのパンフ写真のモデルが交換条件。」

 

 

 

 

 

――― オッサン!またエドワード君(大将)を使うのかっ!

 

 

 

 

毎度毎度…毎度毎度毎度!何故エドワードを使うのかっ!!

その場に居た皆は頭を抱えた。

 

ロイは僅かだが顔を引き攣らせエドワードに自分の持つ疑問を投げる。

 

「モデルは男性として ―――」

「な訳あるかよっ!何でも軍のポスターだか見たホテルオーナーが指名して来たらしい。」

「という事は?」

「ウェディングドレス着るんだぜー!面倒臭せー。」

 

あっけらかんと爆弾発言をするエドワードを、皆一斉に注目した。その中でも逸早く、ホークアイは声を掛ける。

 

「面倒臭いって……エドワード君?ウェディングドレス着るのよ……。」

「それが?」

「普通……そう言う物って『好きな人と特別な日に』って思わない?」

 

キョトンとした瞳をホークアイに向けたエドワードは、直ぐに悪戯好きな顔になり更なる爆弾を落とす。

 

「そうなのか?俺、そんな事今まで考えもし無かった。」

「女の子ってそうでしょう?」

「だってさぁ〜、俺、一五年間『男』だったんだよ。今更『女』になったからって言われても解かん無いよ。」

「…………」

 

エドワードの言いたい事は、解かる。しかし、ロイはそれでは収まらなかった。

その場に膝を折りエドワードと同じ目線になると、渋い表情を向けた。

 

「鋼の、聞いて良いか?君一人がモデルになるのか?それとも、他に女性モデ ―――」

「あっ、えーと、男性モデルの人が来るって言ってた。そいつと二人で撮影だって。」

「!!!」

 

ロイは胸の奥から沸々と怒りが込み上げて来た。

 

 

どうして愛しい人の、それもウェディングドレス姿の横に自分以外の男が立つのだろうか!?

まだ婚約をした訳では無い。

ロイは結婚を前提に付き合っているが、当のエドワードはどう思っているかは解からない。

しかし、写真撮影とはいえ嫌なものは嫌なのだ!

ロイは、目頭を摘み頭を垂れると小さな溜め息を付いた。

 

出来れば行かせたくは無い!我が侭かもしれないが、本心は縛り付けてでもそんな写真撮影になど行かせたくは無い!!

そんなロイを心配そうに見詰めたエドワードが、肩に手を置こうとしたその時、ロイはガバッと顔を上げ、鋭い目つきでエドワードに言った。

 

「私以外の『男の横』で、ウェディングドレス姿なんてするな!」

「えっ?」

「エドワードは、私の横でその姿になれば良い。」

 

 

 

 

 

 出た!大佐二回目のプロポーズ!!

 

 

 

 

 

室内は水を打った状態になった。遠まわしでは有るがこれはプロポーズ以外の何物でもない。

驚くエドワードも少し頬が赤く染まっている。

 

 

 

 

 エドワード君(大将)も今回は気付いたか!?

 

 

 

 

 

皆期待を込め成り行きを見守る。

エドワードの左手を取ったロイは、その薬指に小さくKissを贈る。

そして、真剣な表情で熱い眼差しをエドワードに向け確定的な言葉を口にした。

 

 

 

「エドワード、私と結 ―――」

「大佐もモデルしたかったのか?」

「・・・・・・・・・は?」

「俺と結婚式パンフレットの撮影したかったのか……。今から連絡取れば間に合うかな?」

「エドワード?」

 

身体を三〇度傾げ目を点にするロイ。

 

「大佐ってそういうの好きなんだ!」

「ち……違う!私が言いたいのは、エドワードと教会で ―――」

「教会をバックにした写真撮るの?我が侭だなぁ〜。」

 

 

 

 

その場はブリザードに襲われていた。

エドワード以外全て固まった。コチンコチンに固まった。

 

「今から電話してみるよ!あっ!!私用電話だから受け付けに行って来るなっ!!」

「………………エドワード、私の話を………最後まで…」

 

ロイが言葉を掛けるよりも早く、エドワードは室外へと飛び出して行った。

 

 

 

 

 

椅子座って居たメンバー全員、そのままの体制で椅子から落ちた。

それは、誰一人漏れることは無くボトッと。冷静なホークアイも弟アルフォンスも皆床に崩れた。

 

呆然と恋人の後姿を見詰めたロイは、

 

「…………誰か、鋼のを止めてくれ。」

 

と呟くが、誰一人起上って来る者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教訓!エドワードにはストレートに素早くプロポーズしよう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

End