ロイと『鋼のファンクラブ』 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハボックがその事に気づいたのは、無能な上司のおかげで1人遅い昼ご飯にあり付いている時だった。

 必ず何処かに『サボり癖』のある奴は居る。現にここ軍の食堂は昼時をかなり過ぎているにもかかわらず、3人の下官達が食堂隅の机にたむろし何やら楽しそうに話し込んでいる。

 

 『おい!最新号見たかよぉー。スゲ―ぞ!!』

 『俺の所にはまだ届いてねえよっ。』

 『今回は何処で撮られた写真なんだ?』

 

 ハボック自身、他人の話しは盗み聞きしたくは無いが、人気の無い広いホールでは声が響いて勝手に会話が聞こえてくる。

 気にしなければ話は終わりだが、なぜか妙な胸騒ぎを覚え下官達の話しを聞く事にした。

 

 『今回は南方周辺だったぞ。』

 『イイナー。俺も南方行きてえ〜』

 『前回は東方だったけど、俺・・・生で見れなかったぁ』

 

 ハボックは会話の流れから『誰か慰安で周っているアイドル』の事かと思ったが確証が無い為もう少し話しを聞く事にした。

 

 『南方編は凄いぜー!見てみろよ!!』

 

 本を開く音が聞こえてくる・・・

 

 『『おおおおぉぉぉぉぉ・・・・・・!すっげー!!』』

 『なっ。すげ―だろ?俺これで3回は頂いちまった!!』

 

 (・・・頂く?いい年した大人がアイドル本で何してるんだ!!)

 ハボックは食事をしながら呆れた表情を浮かべた。

 

 『この表情・・・そそるよなぁ』

 『金髪綺麗だし!』

 『大人に成らないで〜!!てやつよ。』

 

 (・・・そそる?・・・金髪?・・・大人に成らない??誰の事だ?)

 

 『うっすら開いた金の瞳が良いんだよ。』

 『むしゃぶりつきてー!!』

 『僕らのエディーちゃんはやってくれますよっ。しっかし・・・生で会いてー。』

 

 (・・・金の瞳!・・・エディー!!・・・大将か?)

 ハボックは、後ろでたむろしている下官達に問い詰めたかったが、更に辛抱を重ね様子をうかがった。

 

 『すぐ来るさっ。またマスタング大佐に呼び出されるんだろ?』

 『大佐か〜・・・。ヤバイよ、エディーちゃんに手を出してるんじゃないのか?』

 『大佐は女に不自由してないからエディーちゃんの魅力に気づいていないって!!』

 

 (・・・もう・・・手・・・出してるよ・・・。)

 話の内容に頭を抱え込み唸るハボック・・・。

 

 『『『鋼ファンクラブ万歳!!!』』』

 

 下官3人は声を合わせて両手を上げている。

 

 

 

 

 

 

 ハボックは次の日から、極秘に『鋼ファンクラブ』について調べを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから2ヶ月が過ぎ、ハボックのもとに郵送されて来た3冊の『鋼のファンクラブ』なる会報は驚愕に値する内容だった。

 

 年間4・5冊程度発行される『鋼のファンクラブ』なる会報は、早い話『鋼追っかけ本』!

 主に盗撮されたであろう写真と、エドの行動を追いかけたであろう観察レポート、エドの私物をどこでゲットしたのか・・・所持品自慢。・・・軽犯罪クラスの内容が30ページ位の薄い本にビッチリ書き込まれていた。

 

 「・・・・・・これは・・・大佐に言うべきか・・・?」

 

 内容の強烈さに下手すれば執務室内に嵐を起こしかねない上司を思い悩みつづけた。

 しかし、エドは現在わけあって『女の身体』になっている。その事は『トップシークレット』である為、ごく一部の者のみが知っている状態だ。

 もし、この『鋼のファンクラブ』によってこの事が明るみになったら・・・。

 

 

 ハボックは、嵐を覚悟して上官に報告する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、ハボックは朝から暇そうに新聞を読んでいるロイに神妙な顔で話しかけた。

 

 「・・・大佐。チョットお時間頂けますか?」

 「・・・気持ち悪いな。何かあったのか?」

 

 ハボックはロイの机に行き、これから起こるであろう嵐を覚悟しながら話しを始めた。

 

 「実は、エドワード大将の事なんすけど・・・」

 「鋼の・・・?何だ?」

 「・・・・・・これ・・・・・・」

 

 ハボックは脇に抱えた封筒の中から1冊の本を出しロイの机に置いた。

 

 「・・・『鋼のファンクラブ』??」

 「はあ・・・。俺もつい最近知ったんですが、大将けっこう人気ある見たいなんすよ!軍内部で大将の情報を交換するっつうか・・・会報を出してまして。・・・とにかく組織としてはかなりの人数でして・・・危ないんすよ・・・。」

 

 ハボック自身何をどう話せばロイの機嫌を損ねないか考えながら話すので訳が解からない会話になってきている。

 ロイは、渋い顔をしながら差し出された1冊の会報を開いて見た。

 

 「・・・・・・。」

 

 今まで自分の席で仕事をしていたホークアイ・ファルマン・ブレダ・フュリーが、興味深げにロイの机を取り囲み『鋼のファンクラブ』会報に目を向けた。

 

 

 

 

 −−−『鋼のファンクラブ』今回、エディーちゃんが現れたのは『北方司令部』だよ〜!

 冬の北方は寒いから風邪ひかないでね〜!!

 

 

 

 

 と、編集者のコメント付きで始まったその本には、エドの活動内容や写真が掲載されていた。

 ・・・しかし、その写真が問題だ。

 

 『資料室で探し物をしているエド』

 『サンドイッチを食べているエド』

 『アルと笑いながら歩いているエド』

 『街中で買い物をしているエド』・・・・・・。

 

 どう見ても『盗撮』写真を何ページにかにわたり掲載する本は・・・盗撮した本人の解説と、訳の解からない編集者のコメント付きだ!

 それもかなり可愛い写真ばかり・・・。

 例えば・・・

 

 

 

 写真:『湯気ののぼる珈琲カップを両手に持ち冷まそうとフーフーするエド』

 ペンネーム カップになりたい男:『俺の顔にフーフーしてくれ〜!』

 編集者:『私は珈琲になりたい!!』

 

 

 

 ハボックは先に見ていたので免疫はあったが、残る5人は見事に固まっていた。

 

 「・・・エドワード君・・・」

 「・・・大変な事になってますね。」

 

 ホークアイとフュリーが静かに感想を述べた。 ・・・ロイはファンクラブの存在に開いた口が塞がらない。

 

 「大佐に報告するべきか悩んだんすよっ。しかし、今大将は『トップシークレット』抱えてますから・・・一応報告を・・・。」

 「・・・・・・」

 

 ロイは返す言葉も無いまま次のページをめくる。 そこには、『今回この1枚!!』と銘打って見開きページでエドの写真が掲載されていた。

 

 その写真は、雪の降る中、両腕で自分の身体を抱きしめながら1人空を見上げて泣くエドの姿があった。

 

 

 

 これには5人そろって絶句した。

 エドを良く知る者ならエドが『決して泣かない』と知っているからだ。

 いつも生意気そうな口調と大人びいた行動。神々しいくらい凛と胸を張って生きているエドを見ている分ショックは大きい。 写真のエドは、今にも崩れ落ちそうなほど儚く消え入りそうなほど小さく見えた。

 

 ロイは、ギュッと自分の手を握り締め怒りに耐えていた。

 怒りの矛先は『1人苦しんで泣いている恋人を、その場に居て抱きしめてあげられなかった自分』でもあり『弟にも見せまいと1人静かに自分と戦っているエドを盗撮した男』に対してだった。

 

 

 そして、次のページをめくると暑かったのだろう

 

 『タンクトップ姿で水道の蛇口から直接頭に水をかぶるエド』

 『弟と芝生の木陰で昼食を取るエド』

 『弟と別れ1人になって本を読むエド』

 

 と連続写真が掲載されていた。

 

 そして・・・『エディーちゃんのサ−ビスショット』と書かれた見開きページには

 

 芝生の上で寝てしまったのだろう、『生乾きの髪が芝生に広がり、汗ばんで上気した頬に乱れた髪の毛が張り付いている。唇は小さく開き、人の気配で反射的に薄く開いたのだろう瞳の焦点は虚ろで潤んでいる・・・』。

まるで・・・事情の後の様で・・・。

 

 フューリ・ファルマン・ブレダは心の中で

 

 (・・・・・・誘っている・・・・。)

 

 と焦り、ホークアイは目が点になっていた。

 

 しばらく静かに本を見ていたロイは、いきなりワナワナと肩を振るわせ発火布を手にはめると、『パチンッ』と指を鳴らし目の前にあった本に火を付けた。

 

 

 

 ・・・・・・紙1枚を灰皿で燃やすのと訳が違う!燃え盛る炎は隣に重ねてあった書類にまで飛び火し始めた。

 

 「わあぁぁぁぁぁ・・・・!!」

 「バケツだぁー!水だー!!」

 「しょっ消火器だ!!」

 「消防に電話しろー!!」

 

 慌てふためく男性人を他所に、ホークアイはまだ燃えていない書類をかき集めていた。

 ロイは、椅子から立ちあがると

 

 「私はエドを捜しに行って来る!!」

 

 と壁に掛けてあったコートを取りに歩き始めた。その時・・・、

 

 

 

 −−−ガンッ ガンッ ガンッ・・・

 

 

 

 ホークアイがロイに向けて発砲した弾丸によって静寂に包まれた室内には、燃え広がる炎の音が響いていた・・・。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのころエドとアルは、次の目的地に移動する為汽車の中にいた。

 

 「ハッツクション!!」

 

 どこかのコメディアンの様なくしゃみをするエドに

 

 「・・・お大事に。」

 

 とそっけなく声を掛けるアルの姿があった。

 

 

 

 

 

 『鋼のファンクラブ』の暗躍は今日も続いている・・・・・・。

 

 

 

 

 

END

(Up 04.07.08)