鋼のFan-Club vs 焔のGroupies |
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と在る軍事施設の休憩室。 仕事の合間を縫った人々が思い思いに休憩を取り、引き続く業務の活力元を得る為何かしらの気分転換を図っていた。 そんな中に男達の吹き溜まりがあった。 1冊の本を何人かの男達が囲む様に眺めるその姿は、何も知らない人達から見れば一種滑稽なほどだ。在る者はその本にウットリとした眼差しを送り、在る者は興奮を顔全体で表現している。10代の少年達が1冊の本で興奮するのは、ある程度の成長過程として多めに見れるが、20代後半を過ぎた男達が大勢で1冊の本を眺め興奮する様は正に異様である。 そんな姿を傍観していた女性陣の一部が、興味本位でその本を盗み見た事が今回の事件の始まり。 たまたま覗いたその頁に掲載されていた写真は『焔の大佐と鋼の錬金術師』が仲睦まじく抱き合って見詰め合う写真であった。 数ヶ月経った東方司令部の司令室。 何時もの様に何時もの如く修羅場と化したこの部屋は、主が陣頭指揮を取る中当たり前に仕事が進められて行く。後少しで定時も終わり、その後訪れるであろうパラダイスに向かって各々仕事を着実に進めていった。しかし、悪戯好きの神様は些細な幸せをもぎ取る様に事件を送り込んでくる。 室内に慌しく飛び込んで来た神様の使いは、今日も金髪をなびかせ勢い良く部屋へと入って来た。が、その様子は何時もと異なっている。何時もはキッチリ縛られている三つ編みが乱れ頬には赤い引っ掻き傷のような跡さえある。肩で息をするエドワードは、アルフォンスが入室した瞬間思いっきりドアを閉め、その身をドアへと押し付け更なる入室者を拒んでいた。 「エドワード君?」 ホークアイに呼ばれたエドワードは、一瞬その身を硬くさせた後、床に落していた視線をゆっくりその声の持ち主に移した。 「わ…っわりー、仕事の邪魔しちゃったよな。直ぐ出て行くから。」 「別にそんな事は良いのよ。それより血相を変えて、何かあったの?」 まだ肩で息をしているエドワードに近付いたホークアイは、エドワードの頬に残る傷跡を指差し事の真相を聞き出そうとする。 エドワードは、一瞬バツの悪そうな表情を作ると、隣りで心配そうに見詰めるアルフォンスへその視線を移した。 「えっと…中尉。ここに来て最初に受付に顔を出したんですけど、いきなり大勢の軍の人達が兄さんを取り囲んだんです。色々一斉に質問攻めにあってしまって……その雰囲気が怖くて理由も解からないまま逃げ出したら……。」 「追っかけられて、髪の毛とか服とか掴まれて。」 「……こうなっちゃったのね。」 ボロボロのエドワードを不憫な目で見詰めるホークアイ。そして、その後ろに座るロイは、書類に視線を落したままフルフルとその肩を振るわせている。 ――― 嵐………到来??? そこに居たロイの部下達は、一応に怯え上官の行動に繊細な意識を払う。ここでまた発火布で『ボンッ!』っといかれて見ろ!今日の残業終了は、明日の朝になってしまう!! 祈りにも似た切実な思いは入口で室内を見ているエドワードに伝わった。 「大した事ねーよ。ただ、チョットばかし人数多かったし、怪我させるのも悪いからさっ、手を出さなかったんだ。」 「そうだね、兄さんがちゃんと理由を聞けばこんな騒ぎにはならなかったよね!」 「悪かったよ…俺が浅はかなんですっ!! 」 やんわりとエドワードとアルフォンスがフォローをいれた為、険しかったロイの表情は一応に落ち着き、本来エドワードを見る優しい瞳へと変わっていく。部下達は安堵の溜め息を付くが、何故エドワードが軍人達に追い掛けられてしまったのか?、その原因を早急に把握しないと何時また上司の嵐が吹き荒れるか解からない。 ホークアイ達はアイコンタクトでその事を確認仕合、翌日【エドワード追い掛け捲くり事件】を調査する事となった。 その日の定時を過ぎたとある会議室。 【関係者以外入室お断り!】の紙が張られたドアの向こうでは、30人ぐらいの女性軍人達が席に着き、半紙を持って声を揃え何かを読んでいる。 「@ 【焔のprince】に、むやみやたらと声を掛けない!」 「A 【焔のprince】に、色目を使わない!」 「B 【焔のprince】と、two-shotで話しをしない!必ず3人以上で話しをする事。」 「C 【焔のprince】の自宅に、押し掛けてはいけない!」 「D 【焔のprince】に、悪い虫が着いた場合速攻で除去する事!」 「本日も復唱ありがとうございました。」 リーダー格の女性軍人が仕切る中、この会議室では本日【焔のprince愛好会・東方支部部会】なるGroupiesの集団が顔を揃え、本日のロイ=マスタングについての報告と話し合いが行われている真っ最中だった。 今日の議題は、先日から問題視されている【鋼Fan会報に掲載されたラブシーンの写真】について。 とある軍事施設で発覚した【princeと抱き合う鋼写真】は、全軍事施設を網羅する【焔のprince愛好会】にとて大きな問題となっっている。ロイ=マスタングにとって、鋼の錬金術師事エドワード=エルリックは大層なお気に入り。そして、その親密振りは、前々から色々な噂を巻き起こしている。特にここ東方司令部では、2人で楽しそうに歩く姿を何度も目撃しているとあって、今回のこの写真はGroupiesの心を大きく傷付ける結果となった。 例え『国家錬金術師』であろうと、『少年』であろうと『私達の【焔のprince】と特別な関係を築かせてはならない!』彼女達には、殺気に似たエドワードへの感情がここ数日芽生え始めていた。そんな矢先、エドワードが東方司令部に入って来たのだから、事の真相を確かめない訳にはいかない!! 今日の暴走はその結果だ。 もし、エドワードが女性の身体を持っている事を彼女達に知られてしまえば、本日エドワードの身は引っ掻き傷だけでは済まなかっただろう。幸いな事にエドワードの性転換は『トップ・シークレット』だった為、この司令部内で知る者はロイが信用するごく一部の者達のみが把握する極秘事項となっている。 エドワードが何かしらへまをしない限り、今後もこの事は極秘中の極秘で進む事だろう。 そんな事とは知らず、彼女達の暴走は続く。兎に角、あの写真の真相。そして、エドワードとの関係を明確にする事!鋼の錬金術師が、また旅に出てしまう前に必ずや確かめて見せると意気込む人々であった。 翌日、エドワードとアルフォンスは、司令部内の受付で必要書類を貰う為に声を掛ける。しかし普段は優しい女性軍人が殺気のこもった瞳をエドワードに向けて来ると、2人は顔を見合わせその意図が解からないと表情と雰囲気で語り合った。 すれ違う女性軍人全てが、エドワードに向け殺気にも近い視線を送る。国家錬金術師は、訳無く人に恨まれる事がある。実際に何度か『魂を売った軍の狗』と罵られ、襲撃を受けた事もある。 ――― 何故軍施設でこんなにも疎外感丸出しの視線を受けなければならないのか? ――― 昨日の追い掛けられた件と関係があるのか? 様々な可能性が、エドワードの頭を過ぎる。しかし、手掛かりも確証も無い今、悩んでいても始まらなかった。 そんな様子遠くからハボックが眺めていた。 上官に頼まれた仕事を終え司令部に帰る途中だったが、悩む表情を浮かべたエドワードを見てその理由を観察しながら見ていたのだ。 そんな時に事件が起こった。 数名の女性軍人が、アルフォンスを突き飛ばしエドワードに詰め寄ると、何処かへとその身を連れて行こうとしている。その様子を見たハボックは、エドワードの所へ走り寄ろうとしたが、その前に若い男性軍人数名がエドワードを連れ去ろうとした女性軍人に詰め寄ったのだ。 エドワードを中心とした二つの集団が、罵り合いエドわーどの身柄を奪い合おうといざこざが起き始める。ハボックは慌ててその集団の真中にいるエドワードの腕を掴むと、その身を引き寄せ騒いでいる軍人達を黙らせた。 「お前達何しているんだ?」 「――― !! 少尉、助かった。」 訳が解からず混乱しているエドワードは、この騒動をどうしたら良いか解からず唖然としている。 ハボックは、そこに集まった20人近い軍人達にこの騒動の原因を聞き始めた。 『エドワード=エルリックさんが危険に見えた為』(男性軍人A) 『エドワード氏を護ろうと……』(男性軍人B) 男性陣言い分……『エドワード氏が危険に見えた為、護った!』 『エドワード君に聞きたい事があって。』(女性軍人C) 『どうしても確認したくて……』(女性軍人D) 女性陣言い分……『エドワード君に確認し言わなければイケナイ事があった。』 ハボックは、女性陣のリーダー格らしき軍人に何を確認したいのか質問をした。女性は、手に持っていた1冊の雑誌を出し、ある1ページを開くとハボックとエドワードに突き付ける。 「この写真……知っていますか?」 見せられてのは、『焔の大佐と鋼の錬金術師』が仲睦まじく抱き合って見詰め合うあの写真である。 エドワードは、その写真をマジマジと眺め、暫らく何も無い空間を睨み写真に関する事を思い出そうとした。 そして、「あぁ……!」と呟くと、その雑誌を持つ女性軍人に笑いながら言い訳をし始めた。 「この写真……どうして雑誌なんかに載ってるの?……?? まあ……兎に角、その写真さぁ、多分『俺が階段から落ちた時、たまたま下に居た大佐にぶつかって助けられた時』じゃないのか?」 そう!『焔の大佐と鋼の錬金術師』が仲睦まじく抱き合って見詰め合う……、それは見る者の角度によっての事。実際は、階段から滑り落ちたエドワードを、たまたま通り掛ったロイが抱き止めエドワードに気を付ける様お小言を頂いていた写真だったのだ。 「あの時は散々嫌味言われて、お小言くらって…すっげー嫌な思いしたんだよっ!! で?その写真がどうしたんだ?」 エドワードの発言は、周りを囲んだハボックを含む軍人達を白くさせた。 【焔のprince愛好会】の女性軍人達は毒気を抜かれ、男性軍人達……実は【鋼のFan‐Clubu】会員達だったのだが、皆、一斉に安堵の表情を浮かべた。 「何でこんな写真が雑誌に載っているんだ?」 エドワードの質問にバツが悪そうな軍人達は、皆口を閉ざすだけで誰も理由は口にしない。不思議そうな表所を浮かべるエドワードは、真直ぐな瞳をハボックに向け小声で質問をした。 「なぁ…少尉。この人達って大佐のFan?」 「あぁ、そうみたいだな。」 「………ふーん。大佐って、男性からもスゲー人気あるんだ。」 「えっ??? 」 ハボックは、完全に何かを誤解しているエドワードに声を掛けようとしたが、エドワードが次に起こした行動に阻まれそれは叶わない。 そして、エドワードは純粋で後ろめたい事など何もない無垢さで、彼ら軍人達に最高の笑みを見せた。 「何か心配させちゃったみたいだな。この写真、そう言う事だから!」 天使が放った黄金の微笑みに、その場に居た多くの軍人達は目的も忘れ心を奪われる事になる。 そして数日後、東方司令部に新しい会が発足した。 ロイはその会の噂を聞くと、会に潜入捜査としてフュリーを送り込んだ。入会したフュリーには、後日正規会員として『アルフォンスの顔』を象ったピンバッチが送られて来たそうだ。 発足会名称……… 【鋼の操を守る会】 現在、激増する会員をロイは近い未来に叩きのめす事になるのは、そう遠い話しではない。 End. |