本気に本心?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エド、可愛いよ。」

「……ありがとう、大佐も……カッコイイよ。」

「エド。」

「なっ…なんだよ……?」

「愛しているよ。」

「お……俺も………」

「ん?」

「………好きだよ。」

 

『本気に本心?』

 

「なっーーー、なんなんっすか!あれはっ!!」

 

入室して来たハボックが指差す先には、エドワードを自分の膝に乗せ仕事をしながら戯れる?ロイの姿があった。

副官ホークイアは、その世界を思考の済みから消し自分の仕事を黙々と片付けている。欲しい返答の貰えないハボックは、入室して来た扉の前から動く事が出来ず、暫し異常な光景を口を開けながら眺めていた。

 

「エド、そこの書類を取ってくれないか?」

「俺、邪魔だろう?退くから……」

「こうしてくれていると仕事も捗るさ。」

「………これか?」

「あぁ、有り難う。」

 

頭一つ小さなエドワードが、机上隅から未決済の書類を一部取り自分の前に置く。その顔は真っ赤に染まり、恥ずかしさと怒りと色々な感情が入り混じった表情で、それでも大人しくロイの膝上に乗っていた。

ロイは?と言えは、こちらも少し表情が引き攣っている。何の為にここまでヤルのか!?疑問が尽きないハボックは、再度ホークアイに声を掛けた。

 

「ちゅーいー……。」

「賭けよ。」

「賭け?」

 

書類チェックをしながら返答するホークアイは、表情を変える事無くハボックに言い渡す。

 

「『どちらが、忍耐力があるか?』で口論になったのよ。それが脱線して『どちらが、恥ずかしい事をしていても表情を変えずにいられるか?』が、『どちらが愛の言葉を素直に口から出せるか。』に成って、勝った方が相手に好きな事をさせる事になったの。」

「……なんだかなぁ〜、用は惚気ですか。ほっといて良いんすか?」

「大佐が真面目に仕事をこなしているわ。だから問題無いわね。」

「………。」

 

ハボックは副官の強さに脱帽した。そして、その異様な光景を視界に入れないよう努力しながら机上に書類を置き逃げるようその部屋から退室して行った。

 

――― だからアルフォンスがこっちにいる訳だ。

 

決して兄に近付こうとはしない弟を不審な目で見てはいたが、これでは近付けと言う方が罰ゲーム、鬼だ。

 

「仲が良いから問題無いのか?まぁ〜どっちが勝つかこれでトトカルチョだな。」

 

頭を掻きながら廊下を歩くハボックは、部屋に戻り皆にどう説明するか?賭け率はどのくらいか等、不謹慎なことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺、喉乾いたんだ。ここで飲んで珈琲零すとイケナイからあっちで飲むけど。」

「そうだな、私も喉が乾いた。中尉。」

「二人分用意します。」

「俺、自分の分ぐらい煎れるしっ!」

「私達の分のついでよ。気にしないで。」

「……有り難う。」

 

ロイの膝に乗るエドワードという光景を捨て、ホークアイも部屋から出て行く。

二人きりに成ったこの部屋で気まずい空気がゆっくり漂い始めた。

 

 

エドワードはそれまで耐えてはいた。しかし、自分のやっている行動が、恥ずかしさの限界を超えているこの状態を何とかしたいっ!と、考え始めていた。

だが、今ここから理由も無しに降りれば、ロイに丸め込まれ負けを認める事を口走るかもしれない。

 

エドワードは、ロイが嫌いではない。

どちらかと言えば好き……アルフォンスとは別な一番を持っているその男との、たまにしか会えないこの時間すら掛買いの無いものである。

現に、昨日着いたこの街でその夜の内にお互いの熱を分かち合った。こんな行動は唯一の弟ですらしない行為なのだから、そう言った意味ではこの男の方がより強く自分の唯一なのかもしれない。

 

――― しっかし、この男の余裕が気にいらない!

 

昨日の夜も自分独りが切羽詰った状態にされ、慣れなのか余裕なのか?男は飄々と自分を翻弄してくれた。

自分のプライドが目茶無茶高いとは思ってはいない。他人からはそう見えるらしいが、エドワード自身はそう感じてはいない。だが、昨日のことを考えると、そのプライドが傷付けられた感もあり、負けたくは無い!!と訳の解からない意固地さが生まれてしまった。

 

――― 勝ったら絶対文献取り寄せさせてやるっ!

 

エドワードは机下で機会鎧の手をグッと握り気合を入れた。

 

小さな野望が渦巻くエドワードの心境をどう捉えているのか?ロイは、エドワードの頭を見詰め心の中でため息を付いていた。

 

――― 売り言葉に買い言葉!ではないが。

 

普段のエドワードは決して恋愛を口にしない。ロイと付き合う切っ掛けすら済し崩しに始まったような感もあり、先程の様に『好き』と言う言葉は半分意識が無い所で聞く以外無いのだ。

 

――― 本当に私の事が好きなのだろうか?

 

少し自信を無くしてヘタレている自分にとって、今日はエドワードの本心を覗う絶好のチャンス!ロイはエドワードの本気を見る事が出来るなら負けを認めても良い。そんな事を考えていた。

 

先程までの副官から送られる視線は、氷の様に冷たく何時激が飛ぶか解かったものではない。流石にエドワードが膝の上にいるのだから、威嚇射撃などと言う恐ろしい行為は無いだろう。

その上、ハボックにまでこの状態を見られてしまった。

自分達の関係を隠す必要は無いのだが、今頃は司令室に詰めている部下達と『賭けの対象』に成っている事は確実で、その事が嫌で仕方が無い。

 

そんなロイの思考をどう捉えたのか?エドワードは身体を捻りロイの顔を覗く様に見詰め声を掛けた。

 

「あのさぁ、中尉は良いって言ってくれたけど、司令室にも飲み物持って行くだろう?二度手間になるから取って来るな。」

「そうか?」

「………椅子。」

 

エドワードの胸にピッタリと着いている机がある為、ロイに椅子を動かしてもらわないと降りる事が出来ないエドワードは、言葉少なくそれを促した。

 

「――― っ!!」

「何!?」

 

痛そうな声が頭上から聞え、エドワードはもう一度ロイの表情を覗く。そこには、眉を顰め奥歯を噛み締めたロイの表情を捕らえる事が出来た。

 

「おいっ!どうした!?」

「何とも無いよ。」

「何とも無くは無いだろうっ!?痺れたのか?俺がアンタの膝に乗ってたから―――、俺、重いだろう、何で早く言わなかったんだっ!!!」

「たいした事では無いよ。第一、鋼のは機械鎧込みでも軽い。」

「軽いとか言うなっ!!」

 

キャスター付きの椅子だった事を思い出したエドワードは、机の縁を押し椅子を後ろに下げる。慌てて飛び降りたその膝をそっと生身の手で触れようとした瞬間、ロイはその手を掴んだ。

 

「そっとして置いてくれた方が助かるのだが。」

 

その言葉の中に何か腑に落ちないモノを感じ取ったエドワードは、その手を振り切ると再度ロイの左太腿をそっと触れた。

その感触は座っている時は気付かなかったが、明らかに包帯らしき物が巻かれている形跡がありエドワードはギョッと目を見開きロイの顔に視線を向けた。

 

「どうしたんだよっ!怪我してるって言ってくれれば俺はアンタの上になんて乗らなかった ―――」

「掠り傷程度の物だ、気にする必要は無い。」

「気にしないでいられるかっ!何時やったんだよ?昨日までは……今朝出勤する迄はこんな怪我無かっただろう!」

自分を睨み怒鳴り上げるエドワードを、ロイは不思議な気分で見詰める。

 

――― こんなに怒ったエドを見るのは初めてかな?

 

「アンタ聞いてるのかよっ!!」

「聴いているよ、そんなに怒鳴るな。可愛い声が擦れてしまう。」

「男に向かって可愛いとか言うなっ!まだ賭けの続きでもしているのか!?」

「これは、本当にたいした事は無いんだよ。ただ、私がミスをしてね。」

「何処で!」

「午前の会議で、今度新たに開発された『軽量の刃物』を扱っていたのだが、うっかり手を滑らせて机に落としてしまったんだよ。バウンドして私の足へと刃先が向かった。……それだけだ。」

 

エドワードは、ロイの瞳から視線を逸らす事無く、その言葉の信憑性を伺った。ロイも隠しても仕方が無い真実を口にしたが、エドワードが信じるかどうかは怪しいもので、暫らくその視線を静かに見詰め返した。

 

小さく溜め息を付き、床に膝下ら崩れる様座り込み両手を床に付け俯いたエドワードは、バッと音が成りそうな勢いで顔を上げると再度ロイに近付きその襟を掴み握り締めた。

 

「アンタにとってどの程度の傷かは知らないけれど、怪我は怪我だろう!」

「………心配してくれるのか?」

「当たり前だろうっ!」

 

旅をしている最中のに絶えないエドワード自身の怪我は棚に上げ、大声を張り上げるエドワード。何時もはツレナイ恋人の行動が嬉しく、ついつい口元を緩ませたロイに、エドワードは怒りを更に増大させた。

 

「俺が怒っているのに何笑ってんだよっ!!」

「私の心配をしてくれるなんて、嬉しくてね。」

「バッ………心配なんてしてねーっし!!」

「さっきと言っている事が違うが?まあ良い、有り難う。」

「さっきのは間違い!失言!!」

 

胸座を掴んでいた手を引き離しグイッと引き寄せれば、その小さな身体は意とも簡単に自分の胸へと飛び込んでくる。尽かさず抱き締めれば、その小さな身体は身を捩り更なる大きな声を上げ始めた。

 

「離せっ!何してんだよ!!」

「おや?恥ずかしいのか?」

「当たり前だろう!ここを何処だと思っているんだっ!!」

「執務室だが?」

「公の場所で何してやがる!は・な・せっ!!」

 

抱き締められている今のエドワードには、ロイの表情は見えない。その顔が口角を上げ不敵に微笑んでいる事を見ていれば、今後の展開も大きく違っていただろう。

 

「では、賭けは私の勝ちだな。」

「えっ!………違うだろう!『どちらが脳味噌腐った言葉を素面で口から出して耳からスルー出来るか。』だろう!?言葉だけだ、態度じゃねーっ!!」

「脳味噌腐った……は無いだろう。」

 

エドワードの赤い顔を眺めながら、嬉しさ半分呆れ半分で言葉を出した。

しかし、折角抱き締められた小さな身体を離すのも勿体無いとばかりに、エドワードを更に近くへと腕に力を入れ、唇をエドワードの耳へを移した。

 

「君が私を心配してくれる姿が見れた。嬉しいよ、エドワード。」

「だっだからっ!」

 

弱い耳元で囁かれ、更に顔を赤らめるエドワードにロイは言葉を続ける。

 

「愛してるよ、今晩も家に来るだろう?」

「えっ!?」

 

僅かに身体を離しロイの顔を見たエドワードは、その少し困った表情を見て昨晩の事を鮮明に思い出してしまった。

 

「えっとー…あのさぁー」

「ん?」

 

瞳を覗かれ逃げ場の無いエドワードは、素直に次の言葉を出す事が出来ない。ゆっくり近付いて来るロイの唇に目を奪われながら、エドワードは観念し瞼を閉じ――――――

 

「失礼します、珈琲こちらに置いておきます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁーーー!!!」

 

 

 

――― バキッ!

 

 

 

――― グギッ!!

 

 

 

「大佐の馬鹿ぁーーー!!!」

 

「はっ鋼の?」

 

「エドワード君?」

 

中尉に見られた事に動転したエドワードは、ロイの顔に機械鎧の右拳を遠慮無く叩き付け、執務室の扉を壊し外へと飛び出して行く。

ホークアイはそんな恋人の姿を呆然と見送ったロイに、冷静な視線を送り机前迄歩みより珈琲カップを差し出した。

 

「どうぞ。」

「あ……ありがとう。しかし……首が元に戻らん。」

 

今のロイは、エドワードに殴られた事から首が不自然に傾き、元に戻らなくなっている。その状態を冷ややかに見詰めるホークアイは、呆れ言葉を吐いた。

 

「だから?」

「珈琲はおろか、これでは書類も見れん。」

「書類を傾けてお読み下さい。」

「医者に―――」

「反対側から殴りましょうか?」

「………遠慮しておこう。」

 

退室して行った副官を見送り、ロイは小さな溜め息を無様な格好で仕事をこなして行った。

 

 

 

その夜、不本意にも日中やってしまった行動に後悔と怪我を心配したエドワードが、ロイの自宅を訪ねその無様な格好に爆笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所でトトカルチョは?

 

「大将、半泣きで飛び出して行きましたよ?」

「じゃあ、賭けは大佐の勝ちですか?」

「そうなんじゃねーの。」

「じゃあ俺の一人勝ちか!?」

「しかたが無いですね。ほれ!クッソー今月の給料まで後何日有るんだよ〜!!」

「僕も……苦しいです。」

「あっ中尉!」

「さっきエドワード君が……」

「ええ、大佐がチョッカイ出したから、エドワード君の右ストレートをまともに貰って……プププ」

「「「「??????」」」」

「引き分けよ。」

「じゃあ、中尉の一人勝ち?」

「そうよ!」

「「「「やられた〜〜!!」」」」

 

 

 

 

(改稿 16-Nov-2008

 

 

 

 

 

 

携帯サイト111,111hitリクエスト作品でした。             

リクエスト内容は『ロイとエド、イチャイチャ甘甘』だったのですが、やはり……、主旨と違う流れになってしまっているのが不思議