報告書シリーズ 外伝 

 『ロイの長〜〜い一日。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『好きだよ。……ずっと前から君だけを見て来た。愛しているよ、エドワード。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陳腐だが、一世一代の『愛の告白』は、エドワードの怒りを生み、冗談で片付けられた。

 

 

 

 

薄暗い廊下の壁に凭れ、ズルズルと力を無くし座り込む鋼のの背中は、何時もより小さく、寂しげだ。急ぎ過ぎた私の言葉に動揺し身体を小刻みに震わすその想い人を出来るだけ優しく抱き締める。

鋼の錬金術師は、人見知りをしない物言いで直ぐに仲間を作る印章が有る。しかし、実際は、自分と人とを一線置き、微妙に距離を開けていると知ったのはつい最近だ。それを解かっていて自分の想いを口にした私は『愚かな大人』なのだろうか?

 

「すまなかった、私が急性過ぎた。エドが、他人と微妙に距離を取っている事は知っていた。だが、時々見せる君の表情が…幸せそうに静かに笑っているエドの顔がもっと見たかった。」

 

そう言って鋼のの顔を覗き込めば、下唇を噛み締め今にも血が出るかと思うくらい強く両手を組み握り締めていて。

実際に機械鎧の手で生身の手を握り潰す事など訳が無いのだから、私は抱き締めた両腕を滑らせ機械鎧の手へと添え優しく引き離した。今だ小刻みに震える身体は何を思っているのだろう。言葉も無く俯くその瞳は涙を流さずに泣いている感が拭えなかった。

 

 

――― 苦しめたい訳では無い。ただ……鋼のに幸せになって欲しい。

 

 

そんな善良な思いとは別の、薄汚い自己中心的な想いが私の中で増幅して行く。この気持ちを言葉に出し、相手に押え付ける事が鋼のを苦しめると知っていながら、それを止める事も出来ず気持ちをぶつける。

 

「私の本気を『冗談』で片付けないで欲しい。私の気持ちを押し付けるつもりは無い。」

 

気持ちとは裏腹の偽善者ぶった振りで言葉を続ける。

 

「だが、冗談で片付けないでくれ!真剣なんだ…本気なんだ。私の気持ちが受け入れられないのなら諦められる…諦める。しかし、冗談で交わされれば私も先に進めない。」

 

血を………、血を吐くかと思った。

実際、血を吐いたのかもしれない。

自分の心を偽らずその思いの丈を相手にぶつける行為は、自分の心を傷付け血を吐かせる……。

私の言葉にピクリと反応した鋼のは、腕の中で小さく身体を動かす。そして、少し声を掠れさせ震える声で呆れるまでに寂しい言葉を吐き出した。

 

「俺が……仮に、大佐の気持ちに答えたとして、それでどうなる訳?何時かは離れて行くんだ、必ず関係に終わりが来る。辛い思いをするなら始めから離れていたほうが良い。」

「……それが君の考えか?」

 

 

――― なんて愚かな人間なのだろう。なんて孤独な人間なのだろう。

 

 

背負う事しか知らない小さな身体は、人を頼る事も知らず弟すらもその範疇に無く、孤独と孤立の中で生きている。慣れ合う事を罪として人を寄せ付けず、人と別れる事を前提として接するから……仲間を作れない。

 

 

 

人を愛したくても……愛せない。

 

 

 

悲しくて……、哀しくて……、

 

 

 

 

美しい人。

 

 

 

 

「何時か別れるから人と接しない。深く付き合わない……君は馬鹿だ。」

「ばっ…!!」

「あぁ、馬鹿だ。可哀相なくらい馬鹿な子だ。」

「馬鹿馬鹿言うな!本当に馬鹿になった気がする!!」

 

先程まで見せていた儚くて小さな壊れ物の様な魂は、何時もの罵声と共に息を吹き返す。思わず笑いが込み上げ喉で殺したが、結局の所、それは音と成り鋼のの耳に届いた。

 

「笑うな!!ってゆーか、何で俺が馬鹿なんだよ!!」

「これからゆっくり解かるよ。エドは生き急いでいるんだ、だから極論の答えを出す。」

 

私にも覚えが有る感情だ。

イシュヴァール終戦後、人を信じる事が出来なかった。それ以上に人を穢れた自分へと引き付ける事が罪と思った。

 

 

――― 仲間は要らない。

 

――― 心も要らない。

 

――― 愛も要らない。

 

 

ただ、冷徹に自分の野望に突き進むだけだと『自暴自棄』に成っていたあの頃と今のエドワードは一緒なのかもしれない。

 

「はぁ??言ってる意味がわかんねーよ!?」

「エドの本心は…君の左腕が示している。自分の左腕を見てごらん。」

 

しかし、誰よりも『愛』に餓えている少年は、心の何処かで『愛』を求めている。だから、言葉とは裏腹に左手は私の腕に添えられていた。

 

「大佐の腕掴んでるな。どこが俺の気持ちなんだ?」

「何故私の腕を解かない?」

「投げ技を繰り出す為とか…?」

 

 

――― 鈍感?

 

 

 

その言葉が私の脳内を駆け巡った。

 

「……違うと思うが。」

 

呆れた声を出した私を、鋼のは少し不貞腐れた表情でその気持ちを表現する。

 

 

 

 

場所をリビングのソファーへと移動した私達は、隣同士に椅子へと腰掛け話しの続きをし始めた。私が隣りに腰掛けた事が気に食わなかったのか?頬を赤く染めながらも睨む眼差しを向けて来る。それさえも可愛いと思う私は、もはや重症なのかも知れない。

 

「エドと話しをして解かったよ。…エド『等価交換』をしよう。」

 

大人は汚い生き物。自分の都合が良い方向へと、子供を巧みに誘導する。

 

「あんたの言ってる意味の半分もわかんねーよ。」

「単純な話しだ。私はエドの心に触れたい。…エドにとって等価は何だ?」

「俺の心の等価?」

「そうだ。私を仲間以上に受け入れてくれる為にはエドは何が欲しい?」

「欲しい物?…文献とかって言う事か?」

「違う。私にして欲しい事だ。」

 

そう、心に触れなければ何も始まらない。『友情』『愛情』……、ありとあらゆる『情』を得る為に、そして、向けてもらう為には、心に触れ、想いに触れそして始まるのだ。その為ならば、私の持っているありとあらゆるモノを差し出そう。

私の顔を眉をひそめ泣きそうな表情で見詰めるエドワードは、金の瞳を巡回させると瞳を僅かに逸らし、小さく頼りの無い声を私へと向けた。

 

「俺の…欲しい物は、『俺の為に不幸にならない自分を持っているヤツ』『俺の為に傷つかない強いヤツ。』。それと……『俺の前からいきなり消えないヤツ』。」

「消える?」

「…………これ以上置いて行かれる苦しみは入らない。」

 

傷付きそれでも前へと進むその子供が、一番欲しがっていたモノは『揺るぎ無い存在』。決して裏切る事の無い確定された『情』であった。

口角を僅かに上げた私は、それ以上に幸せを心で噛み締めていた。単純で難しいそのモノは、自分の心掛け次第でどうにでも成る。

 

 

 

だから、もう離す気には成らなかった。

 

「解かった。……等価交換成立だ。」

「……………!?!?!?!?」

「私はエドを逃がす気は無い。君がいくら逃げても追い掛ける!物理的ではない…精神的な話しだ。だから、エドからは離れない。必ず捕まえる。」

「さっき諦めるって…。」

 

私の言葉に驚き声を荒げる鋼のは、それから直ぐに力を抜きフニャフニャとソファーの背凭れへと凭れかかった。

 

「エドが私を受け入れられない時の話しだ。しかし、先ほどの話でエドの心を少し掴めた。エドは馬鹿だから…私から捕まえに行く。」

 

私の言った『馬鹿』発言に、僅かながら顔を歪めたが、それでも小さく微笑み尚も困った表情を浮かべる。

 

「……俺、自分の気持ちよくわかんねーよ?」

「急ぐ事は無い。私に対するその思いを『焦らず』『迷わず』正面から見詰めて考えてくれれば。今は、私をどんな形でも受け入れてくれれば良い。」

 

その言葉に幸せに……、本当に柔らかく静かに微笑み思いに耽る鋼のは、それから急激に訪れた睡魔との格闘の為、何度も瞼を押し上げる仕草を見せた。

 

「解かった。等価交換成立なんだな?」

 

そう言うと、小さな欠伸を一つ着く。私は彼の小さな肩を抱き寄せ腕の中に納めると、眠りに就く身体を温める為傍にあった私のコートを引き寄せた。

 

「寝なさい、明日は早い。」

「明日の…朝、珈琲入れ…るから……トーストよろしく…。」

 

それが、その日の最後の言葉。オヤスミの詞ではなく、強気ながら相手を思う心がくすぐったかった。

 

「おやすみ、良い夢を………」

 

眠ったエドワードに軽くKissを贈ると、私も身体をソファーへと預け目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、あの日、エドワードが再び復興から帰って来た日は、私の人生が大きく変わった日だった。

予め電話で連絡があった為、駅迄迎えに行かせた部下からの報告では、気を失い生気すら無くした少年が、弟に抱かれ汽車から降りて来たと言う。脱水の為唇も荒れ、僅かながら体温も高かったと言う。

 

早めに帰宅した私は、起きていた少年の逃げ道を塞ぎ、追い詰め……抱いた。

 

 

 

 

 

 

それから、私達の関係は始まった。

久し振りに顔を出したエドは、歳相応の笑顔を私に向けその魂ごと私に預けてくれる。

 

「よう!相変わらず忙しそうだな。」

 

そんな大人びいた言葉を胸の中で囁くのは、彼なりの愛情表現。今この瞬間にも一回り大きくなった君の存在を確かめたい。『顔』も『手』も『腕』も『背』も……、身体のパーツ一つ一つ感じたい。そして、魂ごと私を感じさせたい。

 

「……ただいま。」

 

帰る場所を無くしたエドが照れながら言う。彼が私を『帰る場所』と考えてくれている事を実感する瞬間が堪らなく好きだ。

 

 

 

 

だから私もこの言葉を口にする。

 

 

 

 

私も、そしてエドも一番好きなこの言葉を添えて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり。

    愛しているよ、エドワード。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モバイルサイト100,000hit企画『ロイの長〜〜い一日』でした。

報告書シリーズは、エドワード視点からお話が成り立っています。出来るだけライトにその少年の年代を主観にいれて書き始めたのが第一弾『エドの長〜〜い一日』です。

第3弾まで来ると当初のライトな感覚は無くなり、シリアスが主になりますが、基本はギャグ!←真面目。

ロイ視点もギャグ満載を狙っては見ましたが、私の書くロイは『ヘタレ度、高。ギャグ度、低。』と成ってしまっているので旨く書けませんでした。

 

このサイト全ての作品を読んで下さっている方はおわかりかと思いますが、南は基本的に『○○視点』で書くほうが好きvv っつーか、書きやすいのもあります。()

読むならば全体から見たお話も好きですが、私が書くと支離滅裂になってしまう。何故?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■