ロイと猫とエド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

引っ張って伸ばして、指先でくるくる回してまた思いきり引っ張った所で、その輪ゴムはその伸縮性に限界を来たし、当然ながらプチっと切れて弾け、その手の主、ロイ・マスタングの顔にペシッと音を立てて当たり机に落ちた。

 

−痛っ!!

 

と顔をしかめたのは、それぞれの席からそっと上官の様子を伺っていた部下達。

輪ゴムの直撃を受けた当の本人はというと、数日前からの口許の閉まらない呆けた表情のまま、ほんの一瞬赤く痕のついた頬に手をやったかと思うと、落ちた輪ゴムに視線を落とし『はぁ〜〜〜っ』と朝からおよそ30回目の溜め息を吐いて目を伏せた。

そして椅子の背もたれに背中を預けて椅子ごと回転、窓の外を向き部下達には背を向けてしまった。

 

−おい、誰かあれをどうにかしろよ!

 

−いい加減、仕事をして貰わないと…。

 

−早くエドワード君が帰ってきてくれたら良いんですけど。

 

−輪ゴムが減りますね。

 

部下達は雨も降っていないというのに無能と化した上官について囁きあってはみるものの、現状を打覇する案は浮かばない。

原因は分かっている。

エドが3ヶ月前に中央を発ったきり一度も帰ってきていない事だ。

元々、マメに連絡を入れるような性格ではないが、それでも奇跡的にも2ヶ月前に一度電話をくれたのを最後に、その後2ヶ月ロイはエドの声すら聞けず。

行方とて、ようとして知れない。

そんな状態でロイの精神がそう長く正常を保てる訳がなかった。

 

『せめて中尉がいてくれたら、もっとマシなんですけどね…』

 

フュリーが呟く。

そう、今日はリザは休みでここにはいない。

昨日と今日の一日でロイの中の荒み具合いがそう大して違うとは思えないが、やはりお目付け役がいるといないでは明らかに違う。

リザが横にいると形だけでもペンを握り書類に向かって、仕事をしているフリだけはしてみせる。

しかしリザがいないとなると見た目に仕事を放棄している。

まあ、どちらも仕事をしていないのには変わりないのだが。

何にせよ、元が怠け癖のある上官が手の届かぬ世界へ行ってしまっているのを、こっち側に連れ戻してくるなど部下達には不可能に違いない事だった。

 

☆★☆

 

『何ですか、これは?』

 

朝からロイの執務室に詰めていたリザが昼前に司令室に戻ってくると、見慣れないものがそこにいた。

 

『あの、すみません。僕が拾ってきたんです』

 

フュリーがそれを抱き上げる。

 

リザの目がそれに釘付けなのをみてファルマンが口を開いた。

 

[ネコ]。食肉目、猫科の哺乳動物。主に愛玩用として家に飼われ…』

 

『そんなことを聞いているんじゃないのよ、ファルマン准尉』

 

『失礼しました』

 

ファルマンは敬礼して一歩下がる。

 

『どうしてこんな所に猫がいるの』

 

リザの質問に、フュリーがすまなさそうに言った。

 

『僕が巡回の途中に拾ったんです。最近この辺り、野良犬が多いでしょう?放っておくのが心配で』

 

見たところそれは産まれてまだ間もない子猫だ。

金にも見える薄茶色の毛並がフュリーの腕の中で僅かに震えて見える。

 

『だからってオフィスで飼う訳にはいかないでしょう?』

 

流れをみると過去に同じような事があったようななかったような…。

 

『外に離すのも心配ですし…どなたか子猫を飼える方はいらっしゃいませんか?』

 

フュリーが順にその場に居合わせた者達の顔を見回した。

最初に見たブレダはというとフュリーと目があった瞬間にまるで背後にバネでも取りつけられていたかのように軽く3メートルは後ろにとびすさった。

そして行き当たった壁に背中をベッタリと張り付かせながらガタガタ震えている。

 

『や、やめろ!俺、猫、アレルギーなんだよ!』

 

犬は恐怖症で猫はアレルギーなんて、動物運がないと言うか何と言うか。

フュリーはファルマンを見たが『すみません、寮生活なので』と首を振って却下され、フュリー自身もまた寮生活の為、自分で飼ってやれない不敏さもあって子猫を抱く腕に僅かに力を込める。

続いて流れでハボックの顔を見て、目が合ってから慌ててそらした。

 

『何だよ。「焼いて食うと美味い」なんて言わねーよ』

 

前例のせいですっかり信用を失ったハボックは最初から子猫の飼い主候補からは外されていた。

そしてフュリーは次にリザと目を合わせたが、リザは既にブラック・ハヤテ号を飼っている。

更に猫まで押し付ける訳にもいかず。

 

『…どうしましょう』

 

少なくともこの中には、この子猫を養える者はいない。

フュリーが悲嘆に伏せて居ると、突然部屋のドアが開いた。

何となく皆の視線が集中するそこに現れたのはロイ。

皆が一ヶ所に集まっていた事もあり、部屋に一歩足を踏み入れたロイも自然その方向に目をやる。

そしてその目はフュリーの腕の中の小さな存在に留まり、固まった。

ロイは一心にそれを見つめながらツカツカとフュリーに歩み寄ってくる。

…以前に一度あった風景。

 

−大佐、猫も好きなのか!?

 

−猫には犬並の忠誠心はありませんよ!?

 

−また振り回す気?

 

−大佐ほどの財力なら猫の一匹や二匹…。

 

各々に複雑な思いで見守る中、ロイはフュリーの前に立つと、その腕からむんずと子猫を摘み上げた。

それを上に掲げ、クリクリとした毛並と同じく金の目を見つめ、ロイは暫し動かなかった。

まるで品定めをして居るようなロイの様子に、皆が焦りを感じ始めた頃、耳を疑うロイの言葉に一同反応が出来なかった。

 

『エド!やっと帰ってきたのか!』

 

...大将?どこに?

 

皆が慌てて見回すも、当然ながら部屋の中にエドの姿はない。

しかしロイの目は、顔の正面に抱き上げた子猫に釘付けのままだ。

 

『心配したんだぞ?電話も寄越さないから』

 

−猫?もしかして、猫に!?

 

考えたくはないが、ロイは目の前の子猫をエドと見て会話をしている?

 

『いやいや、そんな事を言うな。私の身にもなってみなさい』

 

しかも、皆には聞こえない声まで聞いてしまっているようだ。

 

−大佐が…大佐が!

 

−とうとう錯乱したか。

 

エドに会えない寂しさが募りすぎて常軌を逸してしまったようだ。皆、不測の事態にただ狼狽するだけで、敢えてロイに提言する者などいない。

恐ろしすぎて声などかけられるものではない。

しかし当のロイは幻の世界にドップリ浸ってしまっている。

部下達の顔色に気付くはずもない。

 

『…そうか。疲れてるんだな。少し休むと良い』

 

ロイは、その子猫を抱き締めヨシヨシと背中を撫でた。

子猫の方は元々おとなしい気質なのか、あまり動きもせずにされるがままになっている。

ロイは、その子猫に頬擦りし愛しさが溢れんばかりの勢いで抱き締めていた。

 

『…しかし暫く会わない内に更に小さくなったようだな』

 

いや、それは猫ですから。

誰もが突っ込めないで居ると、ロイは幸せ一杯の微笑みを湛えたまま猫を胸に抱いて部屋を出ていった。

執務室に連れていくのだろう。

ロイの姿がドアの向こうに消えても暫くは誰も話す事も動く事も出来なかった。

とうとう誰もなんの突っ込みも出来ないままに見守っていたに過ぎない訳で、だからと言ってこれから上官の執務室に向かって『大佐、それはエドワードではなく子猫ちゃんです』なんて言えない。

それより、執務室で二人きり…いや、一人と一匹になったところでロイは何をするつもりだろうか。

ただ休ませてやるだけなら構わない。

しかし、まさか猫相手に一線を越えてしまうような事は…。

 

−いや、まさか猫相手には…

 

頼むからそれだけは、と上官に一縷の願いをもって、今度は別の意味で本当に早いところ本物のエドが帰ってきてくれることを祈るしかなかった。

 

☆★☆

 

『なんだ、エド。もう満腹か?』

 

『ニャー』

 

ロイの机の上には、処理待ちの書類を傍らに退けて作ったスペースに子猫が一匹。

どこからか持ってきた皿にミルクが注がれていて、エドは今までそれを舐めていたのだ。

 

『それにしてもエド、牛乳嫌いを克服したんだな。偉いぞ』

 

『ニャー』

 

−それはエドじゃないですから。

 

皆、今更訂正する気にすらなれず朝からロイと一定の距離を置いて眺めていた。

昨日は猫を飼うかどうか、拾ってきたフュリーが聞くまでもなく当然のようにロイはそれを抱いて帰ってしまった。

まあ、本人としてはそれをエドと思っているのだから『飼う』ではなく『泊まらせる』つもりで連れて帰ったのだろうが。

そして今朝は猫と共に出勤。

朝から机や膝の上に子猫を乗せては頭や背を撫で、話し掛けては仕事を中断している。

 

−誰か、なんとか言ってやれよ!

 

−大佐、ホントに…おかしくなっちゃったんですか?

 

−本物の大将が見たらどうなるんだろうな…。

 

取り敢えずは窓の外を眺めて日がなボンヤリしている事はなくなったが、代わりにとても見るに耐えがたい奇行だらけで誰もまともに接することが出来ない状態だ。

しかも。

 

『ほら、エド。ほ〜ら、ほら』

 

−何で猫じゃらしなんか、ここにあんだよ!

 

ロイの手には黄色い猫じゃらし。

その先を子猫の前にちらつかせ、左右に振ってやると、長い尻尾を高くあげてそれに飛びかかる。

その爪が猫じゃらしの先にかかる前に、ロイは左右にそれをかわしてみせる。

 

『まだまだだなぁ、エドは』

 

ロイ・マスタング、久々に訪れた至福の時。

可愛い我が子を見守るような、愛しい恋人を見つめるような、そんな柔らかい眼差しを子猫に向けているロイは、ここが職場で今が勤務時間だという事を完全に忘れている。

 

−いつまで放っておく気だよ!

 

皆が言えない言葉を胸に、必死で見ないフリを決め込んでいる中、立ち上がった人物が一人。

 

−中尉!

 

そうだ、この人の存在を忘れていた。

逆に、今まで何も言わずこの場に居たことが信じられないくらいだ。

リザは果敢にも真っ直ぐに躊躇する様子も見せずに、机を挟んでロイの前に立つ。

さすがに正面に立たれてロイも気付き、顔をあげた。

 

『大佐』

 

リザの第一声。

彼女がどう出るのか、皆の関心が集まった。

するとリザは、次の言葉を発するより前に、子猫をすっと抱えあげた。

 

『大佐。今日のお仕事が片付くまで、エドワード君はお預けです』

 

『な…』

 

ロイは開いた口が塞がらないといった風に唖然としていた。

そのロイをそのまま残し、リザは子猫を抱いたまま司令室から出ていってしまった。

残されたロイはと言うと。

リザが出て行った後暫くは呆然としていたが、突然スイッチが入ったように傍らに積み上げていた書類の山をたぐり寄せ、猛スピードで片付け始めた。

 

−すげえ…。

 

−大佐を、たった一言で…。

 

恐れ入るはリザの機転。

皆、大佐に仕事をさせる為に、どうやって正気にさせるかばかりを考えていたのだが、リザはその奇行すら受け入れ利用した。

長年副官として側に仕えただけあってロイの性格をよく理解しているからこそなのだろうが、リザはそれに加えて行動力がある。

人が変わったかのように一心不乱に書類を捌きまくり、普通であれば3日はかかるであろう量をそれからわずか半日で全て片付けたのには、さすがに皆、尊敬に値する目を向けたものの、『エド〜』と叫びながら部屋を駆け出していった上官の後ろ姿をみると、やはり単純なだけの人なのだと考え直した。

ロイは今日も猫を抱いて自宅に連れ帰るのだろう。

 

☆★☆

 

にゃ〜、ふにゃ〜

 

『アル!お前、またっ!』

 

『違うよ!ボク、今は猫は飼ってないよ!』

 

猫の鳴き声を側で聞くと、ついアルの鎧の中を疑ってしまうのだが。

 

『ああ…、そういや違う方向から聞こえたような』

 

ニャー。

 

『あっ、また!』

 

アルが振り返りながら、道端の草むらの中を覗いた。

 

『その辺にいるんじゃないかなあ?』

 

探そうとするアルに、エドは言う。

 

『やめとけよ!ほっとけ!』

 

見つけた所で、また『飼っても良いでしょ?』と始まるに決まっているから。

エドは強引にもその場を離れようと歩く速度を僅かに早めると、その瞬間に『あ!いた!』とのアルの声。

 

『兄さん。ほら、いたよ!』

つられて見ると、道端の草むらから上体を半分出すようにして猫が一匹、エドを見上げていて、エドと目が合うとニャーと小さく鳴いた。

月明かりだけを頼りに見える限りでは薄い茶色の生地猫。

 

『こんな所で何してるのかな』

 

アルの言葉に、エドはふと前を向き足を進める。

 

『関係ねーだろ、そんなこと』

 

『待ってよ、兄さん!』

 

構わず歩き始めたエドをアルは追い掛けた。

 

『大佐に早く会いたい気持は解るけど…』

 

『誰が、誰に会いたいって!?』

 

エドが怒鳴り散らす。

3ヶ月ぶりに中央に戻ったその列車は最終の便で、既に町は寝静まった時間帯。

いつも滞在する宿に向かいながらも、アルは気を利かせエドだけでも今夜はロイの自宅に泊まらせようと何とか説得し、二人は宿とロイの自宅までの分岐点まで一緒に向かっていたのだ。

 

『突然行ったら、大佐驚くだろうね』

 

アルの声は弾んでいる。

なにせ3ヶ月ぶりの再会なのだから。

 

『…何しでかすか解んねーな』

 

ロイのことだから、突然押し倒しにかかる可能性もある。

思えば、食われに行くようなものではないか。

 

−やっぱ…行くのやめようかな…。

 

エドが歩きながらもそう思った時。

 

『あれ?兄さん、あの猫、ついてきてるよ?』

 

振り返りながらアルが言った。

 

『ん?』

 

エドも振り向いてみると、4、5歩程度後ろを、さっきの猫が歩いていた。

エドが足を止めると、その猫も立ち止まる。

確かに自分達の後を追っているような気もするが。

じっと見下ろしているとその猫は左右をちらちら見回し始めた。

そしてまた小さくニャーと鳴いた。

 

『この猫野良猫かなあ?なんか探してるように見えない?』

 

『見えねーよ』

 

エドはブッキラボウ言い捨てて、また歩き始めた。

暫く歩いてからアルは宿へ、エドはロイの自宅の方へと別れ、それぞれに足を進めた。

一人になってもエドは歩調を変えるような事はなかったが誰もいないはずが、何故か背中に視線を感じる。

気になって振り返ると。

ニャー。

またも同じ猫だった。

 

『なについてきてんだよ〜』

 

エドが困り果てて溜め息を吐くと思いきったように前を向いて駆け出した。

猫を振り切る為に。

ロイの家までついてこられても困るから。

エドは振り返らずに走っていたが、しかしその足元を今度はその猫が追い越していった。

 

−え?

 

エドが速度を緩め、その場に止まっても猫はずっと先へ駆けて行ってしまった。

エドの後についてきた訳ではなく、たまたま進路が同じだっただけか。

やがて暗闇の中に猫の姿は見えなくなりエドは一人になった。

この時間になればいくら多忙とはいえさすがに残業も終えてロイは自宅にいるはずである。

たまたま夜勤だったりしたらそれこそ運の悪い話だが、どうか家にいるようにと願いながらエドは次第に足を早めていた。

やがて住宅街に入り、ロイの家が見えてくる。

その玄関が近付いてくるにつれ、エドは目を疑った。

 

−猫!?

 

間違いなく、さっきの猫が玄関のドアの下の部分に手を当ててカリカリと引っ掻いている。

爪研ぎをしている訳ではなく、エドにはそれが中に入りたがっているように見えて首を傾げた。

 

−なんで猫がロイの家に?

 

そしてさっきアルが呟いた言葉にエドは思い至った。

『なにか探してるように見えない?』との言葉は今の様子を見ると確かに頷けるような気がした。

探しものがロイの家の中にあるのだろうか。

エドが玄関前に立つと、その猫は一瞬手をとめてエドを見上げたが、エドが呼び鈴を鳴らすと再びカリカリと引っ掻き始めた。

 

−もう寝ちまったのかな…。

 

すぐにはロイは出てこなくて、エドはボンヤリドアを見つめていた。

すると中でガチャリと錠が外される音がしてドアが開けられた。

そこから身を乗り出すようにして現れたのはロイ。

開いたドアの隙間から猫がスルッと中に滑り込んで行ったのにも気付かない様子で、ロイは幻でも見るかのような顔でエドを見下ろしていた。

 

『よう!久しぶり…だな』

 

こんな時、どんな言葉をかけたら良いのかエドは解らず、無理矢理出した言葉はかなり不自然なものだった。

 

『エド…』

 

エドの言葉でふと我に返ったようなロイは、漸く焦点の定まった目でエドを見つめ返して、突然エドを抱き締めた。

 

『エド!定期的に連絡しなさいとあれだけ言っただろう!』

 

募る思いがそうさせるのか、ロイの腕の力は強く、エドの小さな体は締め付けられてギシギシと悲鳴をあげた。

 

『い…いで…苦し………』

 

それもかなり時間が経ってエドは酸欠でクラクラし始めていた。

そんな二人の足元を、生地猫の親子二匹がスルッと通り抜け、外に出て行った事になど二人は全く気付かなかった。

半分意識を失いかけたエドを支えるようにしてロイが家の中に入れてやると、そのままリビングに通され3ヶ月ぶりのその部屋で見慣れないものを発見した。

 

『なんだ、これ?』

 

テーブルの傍らに置いてあったのは普通の皿だったが、よく見るとそれにはほんの僅か、牛乳が残っている。

そしてソファの上には…猫じゃらし?

エドは何気無くその猫じゃらしを手にとって目の前に掲げてみる。

 

『なあ?これ何だ?』

 

エドがロイを見上げると、ロイは怪訝な顔をして首を傾げた。

 

『…?さあ…なんだろうな…』

 

解らないと言う返事。

それがとぼけていると言う風ではなく、本当に思いあたる節がないといった表情で、逆にエドの方が訳が解らなかった。

 

『自分ちの事をなんで解んねーんだよ…』

 

言いながらもエドは、ミルクと猫じゃらしと言えば、やっぱり猫だよなぁ?と、さっき見た猫を思い出していた。

 

−そういや、さっきの猫、どうしたのかな。

 

☆★☆

 

『で、なんでここにもこれが?』

 

エドが、司令室のロイの席にも昨夜ロイの部屋でも見た皿と猫じゃらしを発見して呟いた。

 

『それは大佐がネ…』

 

言いかかったフュリーの口を横からハボックが手で押さえて制した。

ロイが子猫の面倒を見ていたことを話すとなると、ロイが子猫をエドと勘違いしていた事までバレてしまうことになりかねない。

勿論その事実をエドが知ってしまえば、間違いなくその『小さい』存在に結び付けて逆鱗に触れるだろうし、もしエドの機嫌を害って再び旅にでも発たれたら、ロイの寄行が再び激化してしまう。

エドが帰ってきたことによってロイの精神状態は普段通りに戻ったことはよいが、幸か不幸か常軌を逸していた間の記憶は全て忘れてしまっているようである。

その証拠は、出勤してきて朝一番に自分の机にあった猫じゃらしを見て『何だこれは?』と不思議な顔をしていたことにあるが、皆がエドが帰ってきた事実を知ると、上官の正常化も納得がいった。

しかし気になるのは本物と入れ替わりにいなくなってしまった子猫の存在。

記憶のないロイに尋ねる訳にもいかない。

 

『これ…あいつの部屋にもあったんだよなぁ…』

 

エドは、手のなかでクルクルとその猫じゃらしを回しながら呟いた。

ロイは今、リザと共に会議に出ていて席を外している。

部下達はその間にエドの口から何か知り得る事を聞いておこうと思った。

 

『大将、大佐のうちで猫見なかったか?』

 

ハボックが尋ねてみると、エドは少し考えた。

 

『あいつの家の中では見てないけど、中に入りたがってるのは見たぞ?あいつの家に入りたがるなんて物好きだよなあ?』

 

エドがハハハと笑った。

 

『それって茶色い…子猫だったか?』

 

ハボックの問掛けにエドはキョトンとして答える。

 

『いや。生地猫の立派な大人だったぞ?…そういや、その後見てねーな…』

 

エドの言葉に、周囲は皆安堵の溜め息を吐いた。

予想できる結果は一つ。

エドが見た猫は、あの子猫の親できっと子供を探して見付け、迎えに来たのだろう。

エドとロイの気付かぬ間に二匹は再会を果たし、そっと家を出て行ったに違いない。

 

−親子の絆って強いなぁ…。

 

−あの人はあの人なりに猫は助けをした訳だな。正気じゃなかったけど。

 

何にせよ人も動物も、子供の内は親に守られ育つのが一番だ。

皆、未だ目の前でクルクルと不思議そうに猫じゃらしを回して見つめるエドを遠巻きにみて、ふと和やかな笑みを漏らした。

大佐ではないが、確かにエドはあの子猫に似ている。

いや、あの子猫がエドに似ていたと言うべきか。

犬好きの大佐が猫似のエドに思いを寄せるのはおかしな話だったが、あの件以来暫く、ロイは道端で猫を目にする度、一瞬立ち止まっていたと言う。

そして意識下に僅にその時の記憶が残っているのか、エドに牛乳を差し出したり猫じゃらしでからかったり、寄行はまだまだ続いているようであった。

 

End.

 

2005.4.11.Mon.

 

 

 

 

 

…訳の解らない作品になってしまい申し訳ない。

この話は主旨がみえない…ですね。

まがいなりにも一応『安産祈願作品』なので、テーマは『親子愛』のはずだったんですよ…。

迷子になった子猫を親が迎えに来て『ああ良かったね』『親が子を思う気持は強いんだ』『絆が深いよね』的なストーリーにするつもりだったのに、何故かロイの気違いぶりが強調されただけの話になってしまいました…()

すいません。

これじゃ『安産』だの『出産』だの『慶事』とか『親子』にはなんの関連もない話です。

しかも前半は原作のパクリのような気が…。

能力が至らなくてすいませんでした。

とんだお目汚し、ダラダラと長いだけの文でした。

ではこの辺で…。

m(__)m

 

 

 

 

 

 

 

影王様!本当にありがとうございました。

 

ロイの壊れっぷりが見事vv感動で涙が零れます。()

誕生日プレゼントとして強引に送った作品の『等価交換』として頂きましたが、見事に南の一人勝ちとなりました。・・・・・・ハイレベルな文章勉強になります。

これからも宜しくお願い致します。