風車

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは、シンより更に東から来た島国の移住民族が寄り集まって出来た小さな村だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風 車

  by 南玲奈

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地図にも描かれてはいないその村に辿り付いたのはほんの偶然だった。

簡素な建物が密集するその村は、この村独特の建築様式でここが他国と錯覚するほど見慣れない風景。

木材建築、藁葺きの屋根、紙の窓……。軒下で風に揺れる小さなガラス細工の鈴。

 

村の人々全てが黒髪と黒い瞳。その為か、どこか知人を思い出す。

 

 

 

 

 

『鋼の……、君が好きだ』

 

 

 

 

あの言葉は戯れ?

何時もと変わらない言葉遊びの中で発せられた一言に俺は囚われている。

 

 

 

 

 

 

ブラブラと一人散策する村の中で、それは異質な空間に俺は迷い込んだ。

 

その人型の石造は、どこか滑稽な程丸みを帯びていて、頭に赤い独特の帽子を被っている。屋根の下、階段状に設置されたスペース。その石造は数十体整然と置かれ、静寂と緊張をこの空間に生み出している。

そして、所々置かれた紅の風に回るプロペラ………。

 

「……?なんだアレ」

 

呟いた俺の独り言を拾い上げたこの村に住んでいるのだろう老人は、紅のそれを「風車」だと説明した。

 

「カザグルマ?」

 

聞き慣れないそれを俺は遠目からマジマジと見詰めた。

 

 

 

 

青く遠い秋の空と、板張りの屋根に不思議な石造と紅の風車。

 

 

 

生い茂る緑の空間に流れる肌寒い風……ザーッと音を立てる木々、カラカラ小さな音を立てて回る風車。

それは、焔に焼かれ逃げ場を失う人々の姿とダブって見えた。

 

 

 

ここから少し離れた場所にあの惨劇は今も放置されている。『殲滅』と言う名の『虐殺』。

人々はどんな思いで戦い…殺され…焼かれたのだろうか?

 

 

そして、アイツは生きる人々をどんな思いで焼いたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

『君が居れば私は迷わない』

 

 

 

 

 

あの言葉に真実が在るのか?

俺には解からない。

 

 

 

放たれた焔、行き場を失いただ焼かれる為に立ち尽くす人々……紅色の風車。

 

カラカラと回るその音が、木々の揺れるその音が、ここに居る石造の声に聞こえて、俺は暫し動くことを忘れた。

 

 

その時、どんな思いで焼かれたのだろうか?

その時、何を思ったのだろうか?

その時、誰を思ったのだろうか?

 

 

 

憎しみ…哀しみ…それは理不尽な殺戮者への思い。

 

家族…恋人……。それは愛しい人への思いだったのだろうか。

 

 

 

そして、アイツは何を思ってその手から焔を生み出したのだろうか?

 

 

 

全てを背負ってテッペンを目指すその瞳に迷いは無い。

なのに何を俺に求めているのだろう?

 

 

 

 

瞳に焼き付く紅の風車。

まるでそれは、煽られて勢いを増す焔に似ている。

 

 

………恐ろしいまでの紅。

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん」

 

捜したよと後ろから声を掛けて来る大切な存在。

何時も傍に居る事が当たり前の魂は、何処までも温かく、何処までも愛しい。

 

 

 

さり気無く隣に立ち言葉を止めたアルフォンスは、俺が今まで見ていた風景を一緒に見ている。

 

「……綺麗な赤だね」

「綺麗?」

 

弟の言葉に俺は驚き、表情を変える事の無いその顔を仰ぎ見る。

 

「うん……、温かい赤。優しくて強くて……揺るぎの無い赤。……でも、少し寂しい孤独の赤」

 

俺はもう一度風車を見詰めた。

 

 

 

力強く温かく優しく……寂しい。

まるでそれは ――――――。

 

 

 

 

 

ザーッと風が鳴る。

カラカラと風車が回る。

 

俺の髪を撫でる冷たい風。

 

 

 

 

その存在を近くで護りたいと思う人がいる。

 

 

そして、

 

 

その存在を近くで見詰めたいと思う人が出来た。

 

 

 

 

 

 

「アル」

「……うん」

「イーストへ『帰ろう』」

「………うん」

 

 

 

俺は始めてあの場所を『帰る場所』と認識した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ろう……大佐の所へ」

 

 

 

 

 

 

この想いを伝える為に………。