皆さ〜ん!お時間ですよ〜!! |
|
−−−良く晴れたこの日。 ここ中央司令部では、毎年恒例の『健康診断』が行われる。 「診察内容は、『一般計測』主に、身体測定、視力、眼圧、聴力などの検査を行います。『呼吸器系』これは、胸部レントゲン、肺機能検査、聴打診です。『循環器系』は、血圧測定、心電図。『尿検査』。『血液検査』。それと『検便』を提出します。」 「ファルマン……解かっているからイチイチ全てを説明するな。そう言う事だ、エド。」 「なーにが、『そう言う事』何だよっ!!」 エドワードは頭を抱え、ロイを睨めつける。 よりにも寄ってなんて日にここへ入ってしまったのだろう。…と、後悔をするがその時期は完全に逸し、何故か軍人では無い自分も『健康診断』を受けるはめになってしまった。 「兄さん。この頃咳込んで居たから丁度良いじゃん!診てもらいなよ。」 「アルッ!俺を裏切るきか!?」 「人聞きが悪いなぁ。僕は、兄さんの身体を心配しているんだよ!」 「そうだぞ。アルフォンス君の言う通りだ。そして……『上司命令』だ!」 「………卑怯者。」 「大将!オプションとして『婦人科健診』も有るっすよ!!」 「誰が受けるかぁーーー!!」 何時もは忙しい司令室も、今日は検診の順番待ちの為気が抜けた状態になっている。 ホークアイは、女性という立場から別室での診断となりここには居ない。気の抜けた室内は、『お目付け役』が居ない事も有りだらけきっていた。 そんな穏やかな空気の中、司令室の扉がノックされ1人の看護師が入って来た。 「健康診断の順番が来ましたのでお願いします。……名前を呼ばれた方、書類を取り来て下さい。診断を受けるさいはこの書類を提出して下さい。……では、」
そう言って名前を読み上げ、書類を渡す。その時、軍の者達は皆ある小さな容器を看護師に渡している。 「……最後に、『エドワード・エルリック』君ね。えっと、君は『検便容器』貰っていなかったわよね?悪いけど出来れば今日中に『便』を採取して来てくれる?ヨロシクね!……では、皆さん行きましょう。」
看護師の案内でゾロゾロと歩く司令室の面々。最後尾からエドは、容器を見詰めたまま付いて行った。 「今日中って言ったって…俺、朝『快便』しちまったし。」 「エド。何かあったのか?」 「あぁ…大佐。あのさぁ……検…イッ…イイやっ。何でも無い!」 エドワードは、容器をズボンのポケットにしまい込み小走りに皆の元へと行った。 「毎年の事なので説明は要らないとは思いますが、空いている所から検査を受けて下さい。……今は、う〜ん。『一般計測』が空いていますよ!」
その言葉に、司令室のメンバーは『一般計測』の部屋へと入って行く。 室内は看護師の言う通り若干の人が計測を受けていたが、全ての器具に人が待つ程の混み様ではなかった。 「今入っていらっしゃった方はこちらからどうぞ!」 声を掛けて来た看護師の方に進むと、そこは『身体測定』と『体重測定』をする場所だ。 「上着だけ脱いで頂ければ結構ですが、ズボンのポケット内の荷物は出して下さい。では、靴と靴下を脱いだ人から『身長測定』をして下さい。」 「『身長測定』!!」 過剰に反応したのはエドワードだった。その声の大きさに看護師は驚いた様子だったが、司令室メンバーは笑いをかみ殺していた。 「これで大将の秘密がわかるっすね!」 「凄く楽しみです!!」 「−−−−−っ!!俺は計測しないぞーーー!」 「いい加減にしないか!!」 ギャイノギャイノと騒ぎ始めたメンバー達をロイの一喝が制止する。 「エド。皆に知られるのが嫌なら、私達がこの部屋から出た後に計測してもらいなさい。お前達は、さっさと『健康診断』を終わらせて仕事に戻れ!」 「なぁ…。今、一番仕事してなそーな奴から『仕事しろ』って聞こえなかったか?」 「大将…。本当の事は口に出さない方がイイっすよ。」 無駄口ばかりで中々進まないメンバーだったが、何とか『身長』と『体重』を測り、視力・眼圧・聴力などの検査をする為部屋を後にした。残されたエドワードは、自分と看護師以外にはこの部屋に居ない事を確認して、上着を脱ぎ、靴を脱ごうとした。 「おっ!ここ空いてるじゃん!!」 エドワードが器具の方に行こうとした時、何人かの軍人が測定の為部屋に入って来てしまった。 「あぁ…。お……お先どうぞ。」 入って来た軍人達に声を掛け、エドワードは仕方なく部屋の隅っこでチャンスを覗う事にした。 一方、司令室メンバー達は『一般計測』を終へ空いていそうな場所を捜し廊下を移動していた。 「僕…また視力落ちちゃいました。」 「俺…また体重増えちまった。」 「皆、不摂生だからだ。」 「そう言う大佐だって視力が去年より落ちましたよ。」 「『老眼』っすよ。老眼!!」 「ハボック!減俸!!」 皆『健康オタク』では無いが、やはり数値の変動は気になる。去年の数値が書かれている書類を手に、皆ブチブチと言いながら移動している。 トイレの前に差し掛かると、1人の恰幅の良い看護師がメンバーを呼び止めた。 「あんた達!『お小水』は採ったの?採ってないならこのコップに入れてこの紙を浸して持って来て頂戴。」 有無を言わせない迫力に圧しきられ5人揃ってトイレへと立つ。言われた通り検査紙を浸し看護師に提出すると、その紙の色を表に当て嵌めながら先に受け取った書類に数値を書き込んで行った。
「えっと…。フュリーさんとファルマンさんは問題無しね。ブレダさん!『糖』が検出されています。」 「ブレダ!お前食い過ぎなんだよ。」 「ハボックさんは人の事を言えません!僅かですが『たん白』が出ています。」 「お前達は不摂生過ぎるぞ!」 「マスタングさん。あなたも『たん白』が出ていますよ。どうせ、外食ばかりして高カロリーの食事をしているんじゃないんですか!?良いですか?仕事が忙しいと言うのは言い訳にもなりません!ちゃんとカロリー計算をして−−−−」 「……准尉。僕達先に行きましょうか?」 「……そうするか!?」 看護師の怒涛の説教を食らう3人を残し、フュリーとファルマンは次の検査へと向かった。3人が看護師の説教から開放されるのは、それから20分してからだった。 一方、エドワードは………まだ、『身長測定』の部屋に居た。 人が入れ替わり入ってくる為、チャンスが中々訪れない。アレからずーーーと部屋の隅で様子を覗って居たのだ。 「エドワード・エルリック!何故ここに?」 「アームストロング少佐!いや…たまたま今日ここに来たら『検診』受けて行けって大佐に掴まっちまって……。ほら、俺仕事してねーし、皆に先にやって貰おうと……。」 「遠慮する事は無いぞ。」 「いいんだよ。少佐、先どうぞ。」 「……では、遠慮無く!−−−はっ!!」 エドワードに促されたアームストロングは、何故か上半身裸になりその筋肉を看護師の女性に見せつけて居た。 「身長測るだけなのに何で脱ぐ?」 呟くエドワードの言葉など無視をして、アームストロングは盛盛と筋肉を隆起させていた。 看護師から開放された3人は、先に移動を開始したファルマン達と廊下ですれ違った。 「大佐。やっと開放されたのですか?」 「酷い目に合った。」 「僕達『レントゲン』終わったんですよ。次、『血液採取』に行こうかと…ご一緒します?」 ロイ達は、去年の事をフト思い出し丁重に断ると『レントゲン車』へと向かった。 ……暫らくすると『採血室』からフュリーの大絶叫が建物に響き渡った。 ロイ達3人は、『レントゲン車』の前まで来ると、ホークアイとロスに出会った。 「大佐達も『レントゲン』ですか?」 「あぁ。中尉達もか?」 「はい。……えっと、お先にどうぞ。」 「ここはレディーファーストで。」 そんな譲り合いをしていると、中からレントゲン技師が姿を出した。 「すいませんが、女性の方優先でお願いします。」 「では、先に失礼します。」 そう言うと、ホークアイとロスはレントゲン車に入って行った。暫らくすると、車中から先ほどの技師の声が聞こえて来る。 『ネックレスなどの金属は外して下さい。それとブラジャーも外して下さい。』 その言葉に車外で待つ3人の男達は色めく。 「少尉も中尉も美人っすよね…。」 「スタイルもイイっよ。」 「何を考えている!」 「「ノーブラですよ!!」」 「いい年した大人がっ!」 「胸がデカイとレントゲンに影が写るらしいっすよ。」 「「「……………。」」」 果てしない妄想が爆走する男3人。そんなエロ妄想が暴走中、隣りの『心電計測車』から技師が声を掛けて来た。 「そこの3人さん!こっちには誰も居ませんから来て下さい。」 呼ばれるまま足を運んだ妄想エロ星人3人は、『血圧測定』と『心電図』を採った。 ……しかし、先ほどの妄想の際どさから血圧は高く心電図は乱れ、後日再検査を言い渡された事は言うまでも無い。 ところで、エドワードは、まだ『身長測定』の器具がある部屋に居た。 目下の悩みはズボンのポケットにしまった『検便採取』だ!大体、今日の予定は資料室で『アサル』筈だった。……と、堂々巡りの考えが脳内を駆け巡る。しかし、悩んでいても『出ないものは出ない』のだ! そんな事を悩み、部屋から軍人達が居なくなるのをただひたすら待って居た。 心電図を計測し終えたホークアイとロスは、採血室へと足を向ける。そこには、先に心電図とレントゲンを撮り終えたロイ達が採血をしようとしていた。 奥の長椅子に目を向ければ、何故か倒れて寝ているフュリーの姿が見て取れる。フュリーは目を覚ましたのか、ゆっくり身体を起こし辺りを見回す。そこには、今正に採血をされているロイ・ハボック・ブレダの姿があったのだ!! 「ぎぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!!!ぁぁぁぁぁ…ぁぁ……ぁ・………」 声がか細く消えて行くと、フュリーは再び意識を失い長椅子に倒れ込む。 そしてイキナリのフュリーの絶叫は採血をしていた看護師を驚かせた。ロイは採血の為腕に巻く『駆血帯』のチューブを外している最中だったが、チューブを挟むクリップに肉を挟まれ絶叫を上げる。ブレダはビクツキ、看護師が固定していた注射針を更に深く腕に刺し込んでしまった。ハボックは、針を刺そうとした瞬間だったが、間違え足に刺されてしまった。
「中尉……ここは後にしませんか?」 「ロス少尉……そうね、後にしましょう。」 ……暫らく採血室は修羅場と化し誰も入って来る事は無かった。 昼が過ぎ、それでも全員が各診察を終え部屋に戻ってくる。 平常のファルマンとホークアイとは除き、ロイ・ハボック・ブレダ・フュリーの顔色は非常に悪かった。 「大佐、お疲れ様です。……所で、エドワード君は?」 「……?私は知らないぞ??」 「……兄さんなら『身長計』の前に居ました。」 「「「「「………まだ頑張って居たのか!!」」」」」 朝から4時間。エドワードはひたすらあの部屋に居た事となる。 検診結果は、3週間後自宅に郵送される。それを見た何人かの司令室メンバーは『これからの生活に気を付けねば!!』と、心を入れ替えたとか…入れ替わらなかったとか…。 ちなみに、当日どうしても『検便検査』をしなければイケナイと勘違いしたエドワードは、軍の庭にしてあった『野良犬』の便を採取し提出した。 検査した保健所は、エドワードの便に大量の寄生虫が居た為パニックを起こす事となったが、よくよく検査すると『人糞』では無いと解かり、後日コッテリとエドワードを説教したそうだ。 |