も〜っと!『鋼のFan Club』。

 

 

 

 

 

 

 

 気の早いクリスマスソングが流れるここイーストシティー。

 

 厳しい冬を迎える前の賑やかな繁華街とは別に、本日も激務に追われる東方司令部内の司令室は新たな問題を抱えていた。

 

 前回撮影したエドワードの『軍隊志願者募集』ポスター効果のお陰で、今年の軍志願者の数も増えた上、士官学校に入学の問い合わせも増えた。軍としては調子に乗りエドワードの撮影写真を1冊の写真集として発売し大きな売上金を得ていた。

 そして、年4回発行の『鋼のFan Club』略して『鋼Fan』は、前回のポスター撮影時のモデルがエドワードだったと解かると会員数が激増し、今や『鋼Fanに入っていない軍人(男性限定)は遅れている!』とさえ言われる程の熱狂ぶりだ。

 

 エドワードが不本意ながらも『女性』になった事は一部の秘密である為公表されていない。勿論、あの姿は『錬金術』で模造した『胸』を着け、『女装』したエドワードと解釈されているが、熱狂したFanには『男でも!』と危ない思想が渦巻いていた。

 

 

 そんなエドワードから、三日前にロイ宛に電話が有り『相談があるから時間をくれないか?』と告げてきた。ロイとしては、受話器越しのエドワードの声が深刻だった事も有るが、本人に直接会えると有って二つ返事で了承した。

 そして、エドワードがここ司令室に顔を出したのは、昼を過ぎての事だった。

 

 ロイと司令室のメンバー、エドワードとアルフォンスと言う面子が揃い、苦虫を噛んだような表情のエドワードが重い口を開いたのは、ホークアイが用意した珈琲を飲み終えた頃だった。

 

「……あのさー。この頃、色んな軍施設に入ると……妙な視線感じるんだよ。なんか、纏わり着くって感じの。この部屋はそうじゃ無いんだけど、やっぱり東方もそんな感じがするんだ。俺……何かヤバい事でもしたのか?」

 

 エドワードの質問内容に、ロイやホークアイ達は一瞬シナプスが繋がらなかった。『ヤバい』も何も、現在のエドワードの立場は『そこらのアイドル』など太刀打ち出来ないほどの人気だ。まさかその事を自覚していなかったとは……。

 

 アルフォンスの隣りに立って居たフュリーは、小声でアルフォンスに質問を投げた。

 

「ちょっと聞くけど、まさか……写真集の事知らない!なんて事無いよね。」

「兄さんは、知らないと思います。」

「えっ!? アレだけ売れている写真集だよ!」

「兄さん……そう言う事って興味無いから。書店に入っても真っ直ぐ目的の場所に行くタイプなんです。きっと知らないと思います。」

「って事は、アルフォンス君は知っているんだね。」

「……一応見ました。」

 

 目頭を摘み頭を抱えたフュリーだが、兎に角、上司にこの事を告げねばとエドワードの後ろへ回り込み、口パクとジェスチャーでエドワードの前に座るロイに事実を伝えた。

 

『エドワード君 写真集 知らない!』

 

 このメッセージを読み取ったエドワード以外のメンバー全員は、呆気に取られ暫らく開いた口が閉まらなかった。『軍以外の一部国民でさえも知る『エルシナ写真集vol.1』の存在を知らないとは……。』メンバー誰もがそう思っていたのだ。

 

「視線……感じるのは、歩いていても飯食っててもそうなんだけど、この頃俺の周りで奇妙な事が連発して……、何だろう?兎に角、気持ちが悪いんだ。」

「エド。『奇妙な事』とは?」

 

 ロイの声に椅子の背凭れから身体を離し、前屈みでロイを見詰めるエドワードをメンバー全ての視線が注がれる。

 

「例えば、『物がよく無くなる』んだ。ペンとかもそうなんだけど、まだ飲んで居たはずのコップとかストロー。片付けていなかったはずのフォークとかスプーン。歯ブラシ・タオル……。宿舎に干しておいたパンツも無くなった。」

 

 ロイは『パンツ』の一言で怒りを表しそうになったが、なんとか止めエドワードの話の続きに耳を傾けた。

 

「……無くなるだけじゃないんだ。後少しで終わるはずだったジュースが増えていたり、買った覚えの無いパンツや洋服がトランクの中に入っていたり。フー………。俺、疲れてて気のせいか?って思ったけど、何かこんなに続くと怖くなってきてさぁ。」

 

 これは、間違い無く『犯罪』だ!とロイは叫びそうになった。しかし、今、エドワードにエドワード自身の立場を説明しても『笑い話』や『おふざけ』としか取らない事などここに居る誰もがよく知っている。だから、アルフォンスもエドワード自身が気付くまで『放置』しているのだが……。

 

「他には……何も無かったか?」

「ん〜〜〜。軍の人が妙に触ってくるんだよな。肩とか…髪の毛とか。」

 

――― バンッ!!

 

 座って居た横にあった机を握りこぶしで叩いたロイは、恐ろしいまでの形相でエドワードの目前まで詰め寄った。

 

「どう言う事だ!?

「どう言う……って言っても、『飯食おう!』とか『写真を一緒に撮ろお!』って来りするから…。」

「で!そいつらの言う事をイチイチ聞くのかっ!?

「……別に、写真ぐらいなら良いんじゃないか?」

 

――― それが『一番危険』なんだー!

 

 そこに居た誰もの叫びでも有った。しかし・・・…声には出せない。

 

「兎に角……何か情報有ったら教えてくれよ、気持ち悪くて嫌なんだよ。」

「……解かった。覚えておく。」

「サンキュー……助かる。で、ついでなんだけど、資料室見てってイイか?」

「構わないが…。」

「じゃあ、早速!アル、後で待ち合わせよう。何処がイイかなぁ〜?」

「アルフォンス君は別行動か!」

「……そうだよ。あそこ一般人立ち入り禁止だろ?」

「そうだが……。」

 

 確かにエドワードの言っている事は正しい。しかし、今、エドワードを独りに…それも、『誰も近寄らない密室』に独りは非常に危険である。かと言って、一般人であるアルフォンスを例外的処置として入室させる訳にもいかない。ロイはホークアイに目配せをした。

 

「大佐。お捜しの資料は『資料室』に有りました。お持ちしますか?」

「いや。私が見に行って来よう。――― すまないが『例の件』を頼んでイイか?」

「はい。それと、アルフォンス君。ちょっとだけ資料整理手伝ってくれる?エドワード君が帰って来るまででいいのよ。」

「僕で手伝える事が有るんなら。」

「では、エド。資料室に行こう。」

 

 エドワードを促し資料室に向かおうとしたロイにハボックは声を掛ける。

 

「大佐……『これ』気をつけて下さいよ。」

 

 ハボックは、人差し指を軽く曲げ『シャッターを切る』ジェスチャーをした。ロイは頷きエドワードと共に資料室へと向かった。

 

 

 取り残されたメンバーとアルフォンスは、大きな溜め息をつきヘロヘロと椅子に座り込んだ。

 

「大将って『天然』だったか?」

「ある意味『天然』ですよ。それより……『例の件』って僕が居たら困りますか?席を外しましょうか??

「構わないわよ。多分アルフォンス君は知っているんじゃないかしら?」

 

 ホークアイがそう言って机の引出しから出したのは『鋼FanXmas&年末年始スーパースペシャル特別特大号】』とふざけた銘がうたれた会報だった。今回はポスター撮影風景を主とした隠し撮り写真や、エドワードの私物Get状報など相変わらずの内容が掲載されていた。その中でも目を引いたのは『今回のNO.1』とされた写真。エドワードが巨大なクマのぬいぐるみと共に椅子に腰掛け凭れかかったまま寝ている写真だった。

 

「あぁ…この写真が1位だったんだ!」

「アルフォンス君、会報の事も知っているの?」

「僕は会員じゃないけど、写真は送った事があるんです。これも僕が撮った写真だから。」

 

――― おいっ!!

 

 もし、ギャグ漫画のように爆発して飛ぶ事が出来るなら正に今がその状況だった!まさか……兄を売っていたとは。『恐るべしアルフォンス!』メンバー誰もがアルフォンスに恐怖してしまった。

 

「これが何か問題が有ったんですか?」

「問題って……マンセキだろう!?

「兄さんの物が無くなるくらいで今の所実害は無いんですよ?」

「……アルフォンス。この状況を楽しんでいるだろう!?

「いいえ!『力イッパイ!!』楽しんでいます。」

 

 ある意味最強だった弟を横に置き、メンバー達は問題の会報に目を向けた。それは、今回特別号と銘打ってあるだけ気合が入っている『プレゼント企画』が問題なのだ!

 

『今回の鋼FanXmas&年末年始スーパースペシャル特別特大号】では、我らがエディーちゃんの私物&レア物を度ドドーンと三〇名に上げちゃうよーん!!』

 

 相変わらずの軽いノリで書かれた文章には、次号の投稿写真の優劣によって『プレゼントをあげちゃう企画』が載っていた。アルフォンスは、内容を一読した後メンバーを見詰めこう言った。

 

「プレゼントが欲しかったら僕の『とっておきの写真』をあげますよ!」

「違うでしょ!ここまで来れば立派な『犯罪』だ!と言う事なのよ!! 」

「中尉…落着いて。そう言う事だ。」

「そうなんですか?」

「アルフォンス君、ちなみに『とっておきの写真』ってどんな写真?」

「あっと…『兄さんのセミヌード。臍出し付き』です。」

「……No.1は確実だね。」

 

――― ドゴーーーンッ!!!

 

 そんなクダラナイ会話の最中、建物内からすざましい爆音と振動が司令部に響き渡った。皆、銃を手に音のした方へ駆け寄ると、左腕にエドワードを抱き締めながら右腕を伸ばし、正に『焔の錬金術』を使ったぞポーズを決めている上司の姿があった。

 

「大佐!何があったのですか!?

「中尉か。何、エドワードを付け狙う『虫』を始末しようとしただけだ。」

 

 ロイの前には、『錬金術』で驚いた下官が床に腰を抜かしへたり込んでいる。右手は少し火傷を負ったらしく、赤く腫れていた上、その横には先程までは『カメラ』であっただろう機械が煤けて転がっていた。

 エドワードはロイの腕から抜け出ると、腰を抜かす下官の傍に膝を付き少し困った顔を向けた。

 

「大丈夫か?……何が有ったかワカンネーけど、アイツやりすぎだよなぁ。カメラ壊れちまったし、火傷もしている……医務の奴呼んで来るから。」

 

 そして、その下官へとにっこり微笑むエドワードに、下官は感極まって涙と鼻水を流し喜んでいた。

 

「大将って……」

「ある意味……」

「『天然』っすね。」

 

 

 ――― 凄いぞエドワード!君はその『瞳』で何人の男を落とすのか!

 

 

 そんな『ロイチーム』vs『鋼Fan』の戦いはまだまだ続く……………………。

 

 

 

 

End

(Up 11.26.2004)