リフレクトゥ |
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ゾロはサンジに惚れている。 どのくらい惚れているかと聞かれれば、 「コックの顔見ながら酒が3本ぐれー軽く呑める!」 と、狙撃士がツッコミ所満載で喜ぶ事間違いないだろう台詞を吐く。 そんな気持ちはこの船のコックには届いていない。 いや、届いていない所かマトモに取り合っても貰えない。 本気で惚れているのだと理解しているのは、ルフィーとナミ、ウソップにチョッパー。それとロビン。 様はサンジ以外ゾロの気持ちを理解している。 自慢じゃ無いがゾロは、女にモテル。 上陸して適当に安い居酒屋で呑んでいれば勝手に言い寄ってくる女は数知れず。その中から好みの女をチョイスして抱けば向こうも喜ぶ。ゾロ自身若い男だから抜けてサッパリする。 そんな男をサンジが信用する筈が無い。 この船のコックはラブコックと言われるが、真は身持ちが固い人間だった。 遊びや処理に女を抱く男を『女至上主義』のこのコックが良く思う筈が無い。無論仲間としては信用しているだろう。しかし、男としてはどうだろう? 『男に成れるんなら成りてーな』 今だサンジは公言する。 『悪魔の実』でも『名医の開発した薬』でも…。 永遠と男で居られるならこんなに嬉しい事は無いと公言する。 そんなサンジを落すのには、一山も二山も越えなければならないらしい。 リフレクトゥ ラウンジで小さな船医が泣いている。 エグッ…エグッ…としゃくり上げるその姿は痛々しい。 泣いているその横には、腕組みをして怒りを隠さない航海士の姿。椅子に座る船長も今日は真剣な顔で相手を見詰める。 椅子に腰掛け頬杖を付く考古学者もジッと見詰める。剣士は床に座り壁に背を預け、顔には青筋をたてている。 「サンジ…」 何時もは饒舌な狙撃士も、今日のこの場では言葉が出ない。 皆、表情も行動も違うが、サンジの身を心配しての行動だ。 朝食も終わる頃、食後の珈琲をサーブしていたコックに船長は今だ肉と格闘しながら暢気な口調でこう言った。 「なぁ、サンジ。お前、まだどっか具合でも悪いのか?」 「あ?別に俺は何ともねーぜ?」 「そっかー???」 お茶を飲むチョッパーは、船医として聞き捨てならない言葉に反応してルフィーに声を掛ける。 「どうしてそう思ったんだ?」 「だってよー、サンジ、毎日薬飲んでんだ」 その言葉に船医は目を何度か瞬かせた。 「サンジ、調子が悪いのか?」 「……何ともねーって」 罰が悪そうに視線を逸らし、業とらしくシンクへと身体を向けるコック。 「頭痛薬だろう?」 ウソップが言う。 「俺は酔い止めって聞いた」 肉を咀嚼しながらルフィーは言葉を口にする。 「海育ち船育ちのサンジくんが船酔いするわけ無いでしょっ!」 ナミの鉄拳が船長の頭にヒットする。 「私は肩凝りが酷いから船医さんに処方してもらったって聞いているわ」 珈琲を口にしながらロビンは冷静に言う。 「本当は菓子だろう!」 「お前じゃねーんだッ!!」 年少漫才コンビのボケツッコミが見事に決まる。 その言葉の遣り取りに、明らかな動揺を背中に見せるサンジ。 「何を飲んでいるんだ?」 今までその流れを静かに見ていたゾロが、低い声で固まるサンジへと質問を投げた。 「てめェには関係ねー!」 振り向きやさぐれるサンジ。 「サンジくん!」 「はぁぁぁぁぁ〜い!ナミシャァーーン。何の御用ですか?」 「本当の事を言って!」 「…………」 「サンジ!俺はこの船の医者だっ!!」 「………」 女に弱い…子供や動物に弱いサンジは、ヘニョンと特徴在る眉を下げ言葉に詰っている。 「その薬何処?」 「なっッナミサンッ!!」 「ウソップ、取って来てっ!!」 「俺がかよっ!!」 「じゃぁ、俺が取って来るなっ!!」 ルフィーは言葉とは違い、ウソップの襟首を掴むと脱兎の如く男部屋に向かって走り出す。 「テメーらッ待てッ!!」 悲鳴と破壊的な足音を残した年少組みを、慌て負い掛けようとするサンジの腕をゾロが掴み、幾つもの手がサンジを部屋へと繋ぎ止めた。 「クソマリモ、離せっ!!」 「断る」 「ロビンちゃん離して〜!」 「駄目よ」 行く手をナミが塞ぎチョッパーが下から睨み上げる。 八方塞のコックは、情け無い表情を浮かべた。 「サンジ!これは飲んじゃ駄目だって何度も言ったよなッ、俺説明したよなッ!!」 椅子へ座らされたサンジの前、怒りに振るえた船医はコックの飲んでいた薬ビンを眼前へと突き出し詰め寄った。 「……飲んでも…問題ないし ―――」 「問題だらけだっ!!」 男部屋から戻って来た2人がチョッパーに渡した薬は、男性ホルモン剤。 10歳を過ぎた頃、女にはチンコは生えて来ないんだとやっと知ったサンジは、その時から自分が女の子として生きる事を捨てた。 見兼ねた養父は、何度も女性らしく育て様と試みたが、なんの因果か一端の騎士気取りな男へとスクスク成長してしまったのだ。 その当時から、男性としての遺伝子に憧れたサンジは、パワーの底上げとして男性ホルモン剤を常用していたのだ。 その為か長期に渡る服用は、女性としてのサンジに弊害をもたらし今だ生理が来ない。 船医として女性と知っていたチョッパーは、一緒に航海士始めた頃、薬の恐ろしさをサンジに説明しその服用を止めた経緯がある。 しかし、なかなか訪れない女性としての成長に危惧していた矢先のこの事態。 船医は本気の怒りをサンジへとぶつけた。 「どうしてサンジは自分を大事にしないんだ?何で女性がそんなに嫌なんだ!?」 「……レディーは…凄く大事だ」 「お前も女だろう!」 ゾロがぶっきらぼうに言う。 「ウルセー。俺の何処がレディーに見えるっ!」 「サンジくん!」 「………はい。」 ションボリ項垂れるサンジにチョッパーは休まず怒る。 「薬を馬鹿にしちゃいけないとあれほど説明しただろう!」 「……別に…飲んでいても問題は ――― 」 「サンジ!!」 ボロリと大粒の涙がチョッパーの頬を伝う。 「サンジは…どうして……うっぅう……解かってくれないんだっ。……女性には女性特有の器官があって…それを抑制する事は……下手すると死んじゃう事も…あるって……」 涙に声を詰らせながらそれでも瞳を反らさずサンジを見詰めるチョッパーは、とうとう声を上げて泣き始める。 「何度も何度も説明したじゃないかーーー!!!」 小さな身体を折り曲げ叫ぶ様に声を荒げた船医は、そのまま悔し涙を流し続けた。 「……チョッパー」 小さな船医に泣かれる事は、サンジとしても辛いのだろう。そっと手を伸ばし、彼が気に入っているピンクの帽子を撫でた。 ――― パシンッ!! サンジの手を払い除けたチョパーは、怒りを増幅させ、 「馬鹿にするなっ!!」 と、再度声を荒げる。 「………すまない。そんなつもりじゃ…」 「じゃぁ、どんなつもりでその薬を飲みつづけてたの?」 泣き崩れる船医をフォローする様にナミが厳しくサンジに詰め寄る。 「ナミさん…」 座るサンジの前、立ちはだかり腰に手を当てた航海士は、事の成り行きを見てこちらも本気の怒りを見せていた 。 「そうだ、サンジ。俺は片足のオッチャンにサンジの事を任されてる。自分を粗末にするようなら俺にも考えがあるゾ!」 ドッシリ椅子に胡座をかいた船長は、真剣な声でサンジを窘める。 「考えって……?」 ウソップからの質問をルフィーは胸を張ってこう言い切った。 「今船に積んである肉。俺が全部喰う!!」 「「「アホかーーーーー!!!」」」 何人かのツッコミがハモッタが、本気でルフィーも怒っている事は一目瞭然だ。 仲間を誰よりも大事にするこの男が、自分を粗末にする事など許す訳が無い。 言葉は無いが、やはり怒っているロビン。 彼女もナミも、サンジの性別を聞いた時から女性といて全く成長の無いサンジを心配していたのだ。何かに付けて気に掛けて来たのだ。 知識の薄い医学書を見て、少しでもサンジの為と勉強した事も少なくは無い。 時にメロリンと成りながらも自分達に奉仕してくれるこの仲間を、大事に大事に思ってきたのだ。 青筋をたてて怒る三本刀の剣士は、遠慮なく舌打ちした。 「てめェは、どんなに足掻いたって女だろう。薬飲んでも男には成れねーだろう、このアホ眉毛!」 「カチーーーン!!てめェに何が解かるっ!寝腐れ腹巻!!!」 「サンジくん!!」 「コックさん」 「サンジッ!」 「辞めろよ」 「エッグ…エッグ…エッグ…」 「………はい。」 普段喧嘩両成敗のこの船で、一方的に怒られたサンジは再度俯く。 ラウンジは暫しチョッパーの鳴き声が響いた。 「サンジくん」 「…何でしょう……ナミさん」 腕組みする航海士を半泣きの表情で見上げたサンジを、ナミはゲインっと鉄拳を落した。 「愛の鞭をくれるナミさんも素敵だーーーー」 「茶化さないで!」 殴られた頭を押さえ、叱られた子供のような瞳を見せるサンジに、ナミは大袈裟な溜め息を着いて見せる。 「この薬、没収ね」 「えっっ!!」 「それで、チョッパーに診察して貰ってちゃんと女性の身体に成りなさい!」 「えぇぇぇぇぇっ!!」 「でないと……」 そこで妙な間を入れるナミ。 続く言葉にゴクリと喉を鳴らすサンジ。 「でないと、サンジくんのご飯食べてあげない!」 「えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーー!!」 顔面蒼白なサンジは、シオシオと椅子からずり落ちた。 「チョット…チョット…チョット……」 「それが脅迫に成るのか?」 「効果覿面ね」 「それなら肉全部喰っても良いのか?」 「エッグ………」 その日から、サンジはチョッパーの言われた事を大人しく実践し始めた。 それから数ヶ月。 上陸した島にある市の中を、これでもか!と目立つ人物が楽しげに歩いている。 襟足で短く切り揃えられた金髪。 海を切り取った蒼瞳。 透けるような白い肌。 小さな頭と細い首、痩身の身体を包むブラックスーツ。 咥え煙草と鼻歌でキョロキョロと品を見歩くその姿は、少し前は誰もが疑問を持たない男の姿だった。 しかし今は、どう見ても 男装の麗人 としか説明し様の無い姿。 荷物持ちのゾロの前には、数ヶ月真面目に船医の言う事を聞いたサンジが居る。 決して女性らしい服装をして身体のラインを出している訳では無い。 チャラチャラした装飾品を身につけている訳でも無い。 カッチリとしたスーツのサンジは、それでも女性と解かる。 まるで、少女が女性へと成長する様な儚い艶と、凛と立つプライドの高い眼差し。 脆くて強くて……気高い女性にサンジはその身を変えていた。 町を歩けば、何処かしこから遠慮無い視線がサンジへと向けられる。 これだけの美女はそう滅多にお目に掛れないから、男達は色めき立つ。 女達も、自分には真似できない美しさに目を奪われる。 ゾロはサンジに惚れている。 どのくらい惚れているかと聞かれれば、 「てめェオカズに飯は3杯喰える」 と、比較対照をどうすれば良いのか解からない返答が返って来る。 そんな気持ちはこの船のコックには届いていない。 夏島特有の日差しの中、商談を成立させたコックがご機嫌に振り向く。 「ゾロ、これだ」 大量の荷物を指差すサンジは、その瞳を迷う事無くゾロへと向ける。 綺麗な…綺麗な…空 藍 ブルー コバルト 碧 蒼。 ゾロが愛する 青。 その瞳に映るのは、今は間違い無く自分だと思うと腹の底が熱くなる。 「俺はてめェが好きだ」 数度瞬きして眉を潜めるコック。 小さく舌打ちしてその身を翻すと次の店へと足を進める。 「藻は…迷子になるなよ」 それでも仲間としてか、食料の為か、ゾロを無碍に出来ないコックは後ろに居る筈の剣士へと声を掛けた。 「ん?迷う訳ねーだろう?」 「迷子マリモは黙って歩け!ボケッ!!」 足を止めたコックは、僅かに身体をゾロに向けボソリと呟いた。 「良い子に着いて来たら、ご褒美にクソ美味いツマミと酒…用意してやる」 ゾロの頬が僅かに緩んだのは、酒の為では無さそうだ。 ――― ゾロとサンジ。 少しだがそのスタンスが変わってきた様だ。 End. (up 2006/06/30) |