ロイの華麗なる(?)日常 |
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今年もやってまいりました…『上官査察』。 「…去年は散々だったなぁ。」(ハボック談) 「今年は頑張って査察しましょう。」(フュリー談) 「…出来れば遠慮したいっす。」(ブレダ談) 「取りあえず1日目ですね。…あっ!大佐が来ましたよ!!」(ファルマン談) 『0815 大佐が来た。相変わらずやる気のなさそうな顔で司令室に入って来た。いつもの様にコートをハンガーに掛け所定の場所に座る。目はやる気が無い雰囲気だが、口元がニヤケている。…今日は何かいい事があったのか?』(記:ハボック) 『0818 今日は午前中に『鋼の錬金術師』が来るそうだ。…嵐の予感がする。』(記:ファルマン) 早朝、ロイ・マスタングは軽い挨拶を部下達にしながら司令室に入って来た。先に来ていた者達は、皆席を立ち挨拶をする。 普段と変わらない朝の風景だ。 …顔のニヤつきさえ除けば。 ロイが席に着くと、待ち構えた様にホークアイが机の前に立った。 「大佐、おはようございます。」 「おはよう。中尉何か用かね?」 「早速ですが今日の予定です。午前11時から『連続婦女強姦事件』の捜査の為、大佐には『囮』になっていただきます。」 「……はぁ?」 ホークアイを見上げるロイは、大きく口を開いたまま抜けた声で返事をした。 「中尉…私が『囮』と言ったな。…事件は『婦女』なはずだが?」 「はい。大佐には『女装』で『囮』になっていただきます。」 「……はぁ?何故私が『女装』して『囮』にならなければイケナイのか?」 「……大佐ご自身がおっしゃった事ですが。」 ロイは、眉間に皺夜寄せながら記憶の糸を手繰り寄せていた。 2日前…誰が『囮』をやるかでもめたさい、くじ引きでブレダが『女装』する事になった。 しかし、ブレダでは犯人が『その気にならないだろう』と結論が出てもう1度くじを引く事になったのだ。…そして、何故かロイがその『当り!!』を引いてしまったのだ。
「……何故司令官である私が『囮役』にならねばいけない!!」 「大佐…本当はこの『囮役』女性である中尉1人にやらせて、自分はサボるつもりっすね。」 「うるさいぞ!ハボック!!」 「大佐。大佐より女装が似合って、犯人との格闘技術に優れている人を見つければみんな納得しますよ。」 「…ならばフュリーお前がやれ!」 「…僕が『格闘』ですか?」 「……無理だな。」 「「「「「…決まりですね。」」」」」 机にうっ潰して頭を抱えたロイを無視してホークアイは話しを続けた。 「着替えは用意してあります。後ほど着替えてください。」 「……はい。」 「それと1つ、本日午後3時、エドワード君が司令部に入るそうです。」 「そうかありがとう。……3時か。」 …ロイは机の下で小さくガッツポーズをつくっていた。 『0903 あれから大佐は書類にサインする事無く、ひたすら何かを作っていた。さりげなく覗いて見ましたが隠されてしまった。気になります。』(記:フュリー) 『0905 それしってますよ!大佐の作っている物は『ミサンガ』です。金糸と黒糸のミサンガでした。大佐ご自身が着けるのでしょうか?』(記:ファルマン) 『0910 …金糸……エドにでも渡すんじゃないっすか?それより大量の書類整理しないとそろそろ『東方の鷹の目』が動きそうっすよ!』(記:ブレダ) 朝からロイがやった事は、『新聞を読む』 『珈琲を飲む』 『ミサンガを作る』 だけだった。 仕事にはなーーーーんにも関係が無い事をしてばかりだ。 ロイの机上には山と積まれた『子供達(書類)』がある、が、今日は未だ1枚も手に触れていなかった。 「大佐、本日11時迄にこの書類にサインを下さい。」 と、冷静なホークアイの声がロイの前から聞こえてきた。 その声に顔を上げたロイの見たものは、ホークアイが抱えきれない量のファイルの山。現在机の上にある書類と合わせれば…数えるだけで一仕事になりそうな量である。
「……」 「こちらの書類は午前中までに、こちらは今日中にお願いします。終わらない場合『残業』してでもサインして頂きます。」 「…夕方は用が。」 そう、夕食はエドワードと食事に行こうと『勝手な想像』に浸っていたのだ。…その後は『あーんな事』や『こーんな事』になって ……妄想爆走中!! ――― 久し振りに会えるのだ。残業なんてとんでもない!! ロイは顔面蒼白になりながら、万年筆を取りすざましいスピードで事務処理をしていく。 ……その光景に腹心が小さく溜め息を付いたことなど本人は気づきもしなかった。 『1109 現在大佐の護衛で街の中を巡回中。ウエッグを付けた大佐は、少し背の高いスレンダーな女性にしか見えない!人選は間違い無かった。』(記:ブレダ) 『1110 先ほど変装した大佐を見てハボック少尉が泣いていました。…昨日別れた彼女に似ているそうです。』(記:フュリー) 『1138 婦女暴行犯と見られる不審者が大佐に掛かりました。』(記:フュリー) 『さすが大佐!『揺り篭から墓場まで!』女性にモテルだけあるっすね!!』(記:ブレダ) 『しかし…相手は男ですよ?』(記:フュリー) 『…今度から『揺り篭から墓場まで。男から女まで!』と改めよう。』(記:ブレダ) 「逃げたぞ!追え!!」 狭い路地にロイの声が響く!不信な男は、ロイを裏路地に引き入れたさい『囮捜査』と気づき人通りの多い大通りに向かって走り出した。 人が多ければ無暗に銃撃は出来ない!もちろんロイの『焔』も危険があった。ロイ、ブレダ、フュリーは犯人を追って大通りに飛び出る。
その時不審者は、通りを歩いていた通行人とぶつかった瞬時に人質を取り、喉元にナイフを突きつけていた。 「来るな!!来たらコイツを殺すぞ!!」 不審者の金切り声が大通りを歩いていた人達に恐怖を与える。 通りは一瞬にしてパニックとなった。 ロイ達もしばらく不審者の様子を見ようと人ごみをやり過ごしていた。 そして…気づいた。 犯人が人質に取っているのは『子供』だ! 金髪に黒い上下のスーツ……?? 緊張感も無く唖然と見開いた瞳のは『ゴールドアイ』…。 「……鋼の?」 「…た…いさ?」 ロイは固まっていた。仕事とはいえ女装姿を恋人に見られているのだから心情的に来るものがあったようだ…。 エドワードはしばし固まっていたが、突如弾かれた様に笑い始めた。 「ハハハハ…大佐…ハハハハ…そんな『趣味』があったんだ!!」 「ちっ違う!これは仕事だ!!」 人質になっている事を忘れたかの様に笑い続けるエドワードに怒りを覚えた不審者は、エドワードの首筋に当てたナイフをさらに食い込む様力を入れ叫ぶ。
「いい加減にしろ!こいつの命がどうなってもいいのか?俺からハナ…?」 不審者が気づいた時には、エドワードが『機械鎧』の右手でナイフの刃を掴んでいた。 「…やんなっちまう。こういう時『機械鎧』だと便利だなー。生身じゃ怪我しちまうし。」 エドワードは刃先を掴んだまま不審者の後ろに廻り込み、女装姿のロイの近くに蹴り飛ばす。不審者は、蹴られた勢いで地面に倒れその場でブレダに拘束された。
「……」 「クックック……大佐…似合っているぞ!」 「……笑うな。」 「わりーわりー…。…プッ…あんまり俺の事…見ないでくれるか?」 出来るだけ顔を見ないで喋るエドワードにショックを受けたロイの落ち込み様は半端ではなかった。 「…今日3時にイーストに入るのではなかったのか?」 「…1本早い汽車で来た…ブッ……やっぱ駄目だ!!」 涙を流しながら笑うエドワード…。 近くに来たアルフォンスがエドワードをたしなめた。 「兄さん大佐に失礼だ……プッ」 アルフォンスにとどめを刺され…ロイは、道路と同化するぐらいの落ち込み様だった。 『1434 エドとの約束まで後『30分』。昼食も食べず仕事をしている大佐は不気味だ!』(記:ハボック) 『1448 雲行きが怪しくなってきた。かなり強い風が吹いている、やはりなれない事をすると雨が降る。という迷信は本当だったようだ。』(記:ファルマン) 『1516 約束の時間が過ぎてもエドワード君が来ない。外は大降りの雨と強風だ。……大佐のイラツキも最高潮だ!!』(記:フュリー) 「わりー!大佐。遅刻しちまった。」 たいして悪びれる様子も無くエドワードは司令室前の廊下から顔だけを出した。髪の毛を見るとずぶ濡れだった。多分服も濡れているのだろう、司令室には入ってこない。
「……傘をさして来なかったのか?」 「出先からこっちに来たんだよ。いきなりこの雨じゃん!傘なんて無いし…風も強いし『ヒツジ』も飛んでいたぜ!!」 「……ヒツジ??そんなに風が強いのか?」 「ウソに決まってるじゃん!びしょ濡れだよ。」 「……シャワーを浴びてくれば良い。」 「んーーー、着替えねーからいいや。それより呼び出した用って何だ?」 「ユースウェルについてだ。鋼のが1番詳しいと思ってね。…取りあえず床を濡らすのは止めなさい。中尉、鋼のを頼む。」
ホークアイに連れられてエドワードはシャワー室へと向かった。 『1556 大佐とエドワード君が執務室で何やら会議中だ。先程までの人格と打って変わって、良い男モード炸裂中に違いない!』(記:ファルマン) 『1603 大佐の執務室の前を通ったらいやに静かだった。』(記:フュリー) 『大将のピンチか??』(記:ハボック) 『ピンチだろう!』(記:ブレダ) 『ピンチと取るかはエドワード君次第だろう?』(記:ファルマン) 『…みなさんで何を想像しているんですか!!大佐に限って!!!』(記:フュリー) 『何も想像してないぞ?フュリーこそ何想像したんだ??』(記:ハボック) 『……何も。』(記:フュリー) ロイの執務室内では、ロイとエドワードが『地図』と睨めっこをしている最中だ。 「ユースウェルは、軍人嫌ってるからなー。」 「酷い目に会っているからな。」 「でも、反乱を起こすようなヤツらじゃないぞ!!」 最近ユースウェルで駐在している軍人と、鉱山で働く一部の男達が衝突し死傷者が出た。 過去にエドワードによって悪政から開放された経緯が有る為、少しでも情報が欲しいロイは旅先のエドワードを呼び出したのだ。
「あいつらあの町が大好きなんだよ、無暗に自分達の住処を荒らすような事はしないぜ。」 「…駐在していた軍人が先に仕掛けたと?」 真剣な顔のロイは持っていた万年筆を、机にトントンと打ち付けながら机の隣に立つエドワードの瞳を見据えた。 エドワードもロイを見返し自分の考えに間違いが無い事を伝えている。 ロイは、フッと表情を緩めエドワードの頬に手を伸ばす。 「このユースウェルもそうだが、エドは『危ない橋』ばかり渡ろうとする…また無事に帰って来てくれて良かった。」 「……大佐、『ただいま』。」 …ロイの手がエドワードの身体を引き寄せる。 ロイの顔に、エドワードの顔が近づく。 エドワードが瞳を伏せ… お互いの唇が触れ合…… コンコン。 「……」 「……大佐、誰か来た。」 思いっきりしかめっ面をしたロイが、不機嫌に入室を許可する返事をする。 「失礼します。午前の不審者ですが……。」 入室してきたファルマンは、必死に地図を見詰めるエドワードと何故か自分を睨みつけているロイに、異様なまでの緊迫感を感じ部屋から1歩後退した。 『1805 大佐がエドを『お持ち帰り』して司令部を出て行った。』(記:ブレダ) 『あれだけの仕事をよく終わらせましたね。』(記:フュリー) 『いや、終わってないぞ!』(記:ハボック) 『でも中尉が何も言わなかったじゃないですか!』(記:フュリー) 『それは…大佐が『我が侭幼児』になったからだ……』(記:ハボック) 時刻は午後5時30分を過ぎていた。 エドワードと夕飯を共にしようと必死に仕事をしたロイだが、結局『残業』をしなければならない状態に追い込まれた。 しかし、ロイは諦めなかった! 「中尉。…6時には帰りたいのだが。」 「仕事が終わっていません。」 冷静な声と厳しい目線でロイを諌めるホークアイ。 …ペンを握り締め少しイジケ顔のロイ。 「……しかし」 「続きをなさって下さい。」 しばし沈黙が続いた……。 ロイは突然自分の机に抱きつきガタガタと机を揺らし始める。 「帰るぅ〜!帰るぅ〜!!帰りたい〜〜〜!!!」 ガタガタガタガタガタ………(机を揺すっています。) 「……お帰りください。」 『てな訳だ!!』(記:ブレダ) 『……大佐って…バカ?』(記:フュリー) 『……これも『査定書』に書くのか?』(記:ファルマン) 『『……書けるか!!』』(記:ブレダ・ハボック) 『兎に角、……明日の査定も…頑張りましょう。』(記:フュリー) 査定1日目、無事?終了……。 これが『若き司令官』の華麗なる日常(?) End (Up 2004/07/29) (手直し 2006/03/30) |