青春だっ!『アタック No.1』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故か、エドワードは『バレーボールコート』に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

経緯は知らないが、たまたま中央に寄った時、ロイ達に掴まり『強制的』にこの馬鹿げたバレーボールの試合に出されたのだ。

 

何時のもエドワードなら、軽くかわしさっさと次の旅に出掛けただろう。

しかし、ロイの必死の形相から何と無く「捨てては行けない。」と同情し参加となった。

 

 

 

 

自分のチームメイトは『東方司令部』のロイ・ハボック・ブレダ・ファルマン、そして、余り見慣れぬ軍人が1人。相手のチームは、ヒューズ・アームストロング・ブロッシュ他、中央の司令部面々。

ベンチには、ホークアイとアルフォンスやヒュリーとロスにヒューズの妻子グレイシアとエリシア……と見知らぬ軍人達と大勢の人間が声援を送っている。

エドワードがコート内からベンチを見ると一種異様な盛り上がりで、思わず目線を逸らしたくなる程だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合は既に第二セットに入っている。

 

 

 

 

第一セットは『中央司令部』にとられていた。

 

中央司令部チームは、ヒューズの知的なパス回しとアームストロングの長身から繰り出される豪腕なスパイク。ブロッシュのコート内を明るくするムード作りとチームワーク&コンビネーションとも完璧だった。

 

一方、東方司令部チームは、本来のメンバーが怪我の為参加できず急遽エドワードが即席で入ったことから察する通り、コンビネーションはファルマンらの『Aクイック(セッターの目の前でジャンプして打つ速攻攻撃のこと。)』『Cクイック(センターのすぐ後ろでジャンプして打つ速攻攻撃のこと。)』を囮にしたロイとハボックのエース角からの攻撃が主である為、相手チームに攻撃を読まれていた。

セッターであるブレダもなんとか捻った作戦を考えるが、ブロックが高い為何度かシャットアウトを食らっていたのだ。

 

 

 

エドワードは、背の低さをスピードでカバーしていたが、やはり、大人のネットの高さは半端ではない。ローテーションで前衛に来ても相手のスパイクをブロック出来なかった。

 

「――― このままでは負けてしまう。」

 

苦しいロイの声がエドワードの耳に届く。

 

――― このままじゃ大佐が可哀相だ。

 

エドワードは、アームストロングの打ったスパイクを、身体を後方に倒す事でその威力を殺し、セッターのブレダへと繋いだ。

すぐさま立ち上がったエドワードは、一緒に後衛に居たロイに声を掛けた。

 

「大佐!! 行くぞっ!少尉!こっちだ!!

「――― エドワード?」

「――― 大将?」

 

エドワードはアイコンタクトでブレダとロイに合図を送る。その意図を読み取ったロイとブレダは行動に出た。

 

エドワードとロイは、後方のバックアタックラインから同時に『バックアタック』の体制に入った。センターで跳ぶファルマン。エース角からスパイク体制に入るハボック。四人が同時に跳ぶ事で、中央のメンバーは撹乱されてしまった。

 

ブレダは相手のブロックの位置を瞬時に判断し、マークの薄いエドワードにトスを上げる。エドワードは小柄な身体からは信じられない程のジャンプ力で跳び上がり、身体を弓なりに逸らせるとしなる鞭の様にスパイクを相手コートに叩き落した。

 

「凄いぞ、エドワード!さすが未来のエースだっ!!

「ナイスアタック!エドワード君!! 私は信じていたよっ!」

「希望の星だ!スーパーエースだ大将っ!!

「兄さーん!すっごーい!!

 

皆からの激励の言葉を貰っても、何故か的外れな誉め言葉を選んでいるチームメンバーやベンチを見てエドワードは小さく溜め息を付いた。それでもロイが嬉しそうに笑う顔を見て更に『スパイク』『レシーブ』そして『ジャンピングサーブ』にと有りっ丈のパワーを使った。

 

 

 

 

エドワードのバックアタックで波にノリ、本来の調子を取り戻した東方司令部は、ロイとハボックのスパイクが決まり始める。

普段はディスクワーク姿を見ているだけのエドワードに取っては、司令部メンバー達の姿が頼もしく見える。そんな中にいるロイに至っては、一際エドワードの目を引いた。

言葉にも態度にも示そうとは思わないが、ロイの姿を追ってしまっている自分に気付き、少し恥ずかしさを感じていたエドワードだった。

 

そして、東方司令部チーム全員がエドワードの『背の低さ』をカバーする動きと勢いに中央司令部チームが気迫で押され、第二セットを逆転で奪い取ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ベンチに戻った両チームは、次の最終セットを奪う為それぞれ円陣を組み話し合う。

しかし、東方チーム内では明らかにエドワードの様子がおかしかった。

 

大人用のネットを使っての試合は、エドワードにとってはカナリのキツサだった。

スパイクを打つのも1回1回全力での動きの為、体力が続かなくなって来たのだ。更に、ここ数日の徹夜などの不規則な生活がエドワードの体力を奪い、異様な汗と眩暈・吐き気が身体を襲っている。顔面は蒼白で、タオルを口に当て吐き気を堪えないと我慢できないほどの状態であった。

 

「兄さん……水分取らないと『脱水状態』になっちゃうよ!?

「……ん。今、いらねー。」

「大丈夫?顔色悪いよ。」

「……大丈夫だ。」

 

そんなエドワードの言葉に何時もの力強さが無い。心配そうなアルフォンスを他所にエドワードはロイを盗み見ると、1セットをとった事を満面の笑みで喜ぶ表情を捕らえた。

 

 

 

――― 交代要員も居ないんだ!俺が頑張らなきゃ!!

 

 

 

審判の笛の音がなり、各選手達はコート内へと戻って行く。エドワードも気合をいれ直し、ロイの笑顔を見る為再度コートへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3セットは両者『四つに組む』攻防戦だった。

 

アームストロングのスパイク、ヒューズの頭脳的なツーアタック、ハボックとファルマンの時間差攻撃、ロイのストレートへのスパイク、エドワードの回転レシーブ……。

息詰るラリーが続き観戦して居る者も手に汗握り、声がかれんばかりの声援が建物内に響いている。

 

 

 

それは、ブロッシュが打ったスパイクがエドワードの目の前に落ちた時に起こった。

 

何時もなら簡単にスパイクカットしていたはずのエドワードが、コート内に膝をガックリと落し両手をコートに付け荒い息を吐き始めた。

そんなエドワードの姿を見たメンバーは、慌ててエドワードの傍に寄り肩を抱き身体を起こし表情を見る。

その表情は体力の限界から、目が虚ろで顔色も悪く何時気を失ってもおかしくはない状態だった。

 

「大丈夫かエドワード!」

「たっ大将!!

「エドワード君!!!

「だい…じょう……ぶ。ちょっと……滑った。」

 

肩を抱くロイの手を払い、立ちあがろうとするエドワード。そんな彼にロイ達は励ましの声をかける。

 

「見てみなさいエドワード。あれが『バレーボールの星』だ!」

「大佐……室内だから見えないし。」

「大将!俺達はこの試合に勝つ為に、あんなに苦しい地獄の特訓をして来たんじゃないかっ!」

「ハボック少尉……今日、始めて試合の事知ったし。」

「大将!夕陽に向かって叫ぶんスよ!! 『海のバカヤロ〜!』って。」

「ブレダ少尉……今、昼だし、この国に海ないし。」

「立つんだ!立つんだエドワード君っ!!

「ファルマン准尉……俺、立ってるよ?」

「エドワードさん!『エースをねらえ!! 』」

 

 

 

 

「………あんた誰?」

 

 

 

 

 

 

ツッコミ所が少しズレテいるエドワードをカバーするように試合に臨むメンバー達。

しかし、中央司令部メンバーも、体力が落ちたエドワードの周辺を狙っての怒涛の攻撃をし掛けてくる。

 

エドワードも最後の気力を振り絞り、ふら付く身体でレシーブやサーブにと有りっ丈の力でプレーを続けた。

 

 

 

 

 

半分意識の無いエドワードに取っては、試合がどう進んでいるか解かっていなかった。ただ、目の前に来たボールを追い掛けた。『ロイの笑顔が見たい!』それだけの為に……。

 

 

 

 

 

 

 

エドワードの横をアームストロングが打ったスパイクが飛んでいく。とっさに手を出そうとした時、ロイの声が耳に届く。

 

「エドワード!アウトだ!!

「えっ?」

 

その言葉にガックリと膝をついたエドワードに、審判の笛の音が聞こえる。室内に響き渡る歓声……。

エドワードは、何が起こっているか解からず、床にあった目線をゆっくりロイへと向けた。

駆け寄るロイの顔は、惚れ惚れするぐらい眩しい笑顔でエドワードをときめかせる。

 

「やったぞ!エドワード!! 勝ったんだよ!私達が勝ったんだっ!!

「大佐……良かったな。」

 

駆け寄り抱き締められたエドワードは、喜ぶロイを消えて行く意識の中で見つめていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

――― 俺燃え尽きたぜ……真っ白に燃え尽きたぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エドワードが気が付いた時は日も暮れていて、軍の者達は見知らぬ会場で宴会を開いている最中だった。

長椅子に寝かされて居たエドワードがムックリと起き上がるのを見つけたロイは、飲み物を持って傍に近寄る。

 

「気分はどうだ?」

「……ん。何とか。ここは?」

「打ち上げ会場だよ。さっきはよく頑張ってくれたな、ありがとう。」

「………。別に、出来る事やっただけだから。」

 

よく見れば立食パーティーの様に、バイキング式の会場を大勢の軍人やその身内が楽しそうに食事をしている。その中に、先程まで同じチームで戦っていたハボック・ブレダ達が包帯をしながら食事を取っていた。

 

「…大佐。少尉達、怪我でもしたのか?」

「まあ……色々な。」

 

言葉を濁したロイをエドワードは不思議そうに眺める。

 

実は、エドワードが気を失った後、勝利に酔ったロイとエドワード以外のメンバーは、ドサクサに紛れホークアイを『コーチ』と呼び抱きついたのだ。

何人かはブラハに噛み付かれ、何人かはホークアイの手によって『打ち抜かれた』のであった。

 

そんな事とも知らず、エドワードは幸せそうに微笑むロイを見ていた。そして、フト疑問が頭の中を過ぎる。

 

「あのさぁ……質問して良いか?何で『バレーボールの試合』なんてやったんだよ?」

「そっそれは……。」

「『それは』……?」

 

先程までの表情とは変わり、バツの悪そうな顔で天井を見上げたロイをエドワードは更に追及する。

 

「それはって…ナンなんだよ!?

「………ヒューズと口論になって……試合で…決着を着け様と……ゴニョゴニョ。」

「何について口論になったんだ?大佐!」

「ヒューズの娘とエドワード。どちらが可愛いか………。」

 

 

 

 

 

 

 

「ふ……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フザケンナーーーーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

エドワードの絶叫は、賑わう会場内に消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数ヶ月後、イーストシティーに来たエドワード達に、またもロイの手が伸びてきた。

 

「エドワード!試合に出てくれ!!

「――― !やだねっ!」

「今度は『ニューオプティン』のハクロ少将達だっ!」

「やだって言ってるだろう!」

「今度の試合は『カバディ』だ!」

「『カバディ』って何なんだよーっ!って言うか俺ヤダからなっ!ヤダって言ってるだろ〜!助けろアルーーーー!!

 

引き摺られて行く兄を、アルフォンスは、「頑張ってねー!応援に行くよー!! 」と、無邪気に声援を送って居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「軍人なんだから仕事しろーーーーー!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

もっともなエドワードの発言が『カバディ会場』から響いていたかは……知らない。