Intersection of Spirits 【魂の交差】

序章

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは『押しの強さ』と言うか…、懐かしい言葉でいう『強引ing My way』ってやつで。

 

 

 

 

 

大佐の気持ちを聞かされてから俺が観念する1週間は、旅に出る事を禁止され、俺の気持ちを大佐に伝えるまで毎日のように『愛している』の連呼攻撃だった。

……まるで俺が『痴呆症』または『健忘症』にでも掛かっているかと勘違いするぐらいのラブコールの嵐。

 

最初は、『お前なんて嫌いだ!!』とか『ウザイんだよ!!』と突っぱねていたけど、その度大佐の悲しそうな…寂しそうな顔を見て、『……俺、大佐の事嫌いじゃないかも。』て、思ってしまった。

 

練成で女になったせいか正に、ロイ・マスタングの『ホルモン』…じゃねーよ、『フェロモン』にやられた状態だった。

結局『俺も…同じ気持ちかも。』って返答をしてしまって…。

マッハでお持ち帰りされ………、これ以上は恥ずかしすぎて語れない。

 

その時は、流石『天下の女っタラシ』ロイ・マスタングと感心してしまった事は覚えている。

 

 

 

 

 

現在は、大佐のポジションが『上官』から『彼氏』に移動して早1年経った所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久し振りに訪れた中央司令部…。

 

先程、何食わぬ顔で約束を取り付けられた相手がいる建物の前に、俺とアルは佇んでいた。

 

「兄さん…図書館行かないの?」

「……そんな気分じゃないよ。」

 

久し振りに会った『上官』は、前回会った時にした『約束』を今晩決行する!と言い出した。

もちろん、その約束は『恋人』としての約束だったが、まさか本気だったとはエドワードにとって思いも寄らないことだ。はっきり言えば『ノリ』で言った約束だった。

 

「マジかよ…。」

 

頭を掻いていた左手を思わず見詰めた。

……どこかの『女』じゃ無いんだから、と、グチてもあの『雨の日無能男』だ。今夜約束の場所に来なかったら俺を捜し出してでも事を実行するだろう。

 

「……兄さん、大丈夫?」

「悪いな……大丈夫だ。それよりアル、今晩付き合わせて悪いな。」

「さっき大佐と何か約束していたね。何だったの?」

 

そう聞かれても返答に困る。

……っーか、恥ずかしいとしか言えない。

俺は言葉を濁して、今日宿泊予定の宿に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  −−−約束は、今晩10時。場所は駅傍の廃墟と化した倉庫跡。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 約束の場所に少し遅れて到着した俺達を、大佐は少し安堵の表情で出迎える。

もしかして、俺が来ないとでも思ったのか……?

 

「今日は来ないかと思ったよ。」

「心外だな!俺は、約束を守る主義なんだ。」

「……そうか?まあ良い、準備は出来ている。」

 

倉庫外にアルを見張りとして立たせた大佐は、俺を促しだだっ広い場所に案内した。そこには、大佐がここに来てから書いたんだろう『練成陣』が用意周到にある。その錬成陣を見てやはり気持ちが高ぶっては来ない。むしろ……マイナス?

 

「マジ……やる気?」

「私は本気だが。」

 

俺は小さく溜め息を付いた後、打合せをして手順通り大佐と協力して『練成陣』を発動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間にしてどのくらい経つだろう?床に寝ていた自分の体を起こすと、何か違和感を感じる。

月明かりに照らされた室内を注意深く見ると、少し離れた所に……金髪の子供が倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

………って俺じゃん!

 

 

 

 

 

……て言う事は?俺は『大佐』って事か?

 

 

 

 

 

慌てて大佐…って言うか、俺の体に駆けより俺を揺すって見る。

あぁ、ややこしい!

 

「おい!大佐起きろ!起きろよ、大佐!」

 

倒れている俺の身体を揺すると、瞳がゆっくりと開き始めた。そして、周りを確認する……。

大佐の様子がおかしい。普通自分が目の前にいたら何らかのリアクションをするはず。

なのに、大佐は何の反応も示さない。

 

「おい!俺の話し聞いているか?……大佐ってば!」

「『大佐』?私の名前か?」

「……ふざけんなよ!!『大佐』って言ったらあんたの『役職名』だろ!」

「……解からない。……所で君は誰だ?」

 

 

 

 

『記憶喪失』

 

 

真っ先にこの言葉が浮かんだ。あのお約束的な小説に必ずといって良いほど登場する『アレ』が今現実に目の前で起きている。

 

兎に角、取り合えずこの『入れ替わった状態』を何とかしなければ。うん、元に戻らなければ。

 

 

 

でも、どうやって?

そもそも、何で俺はここにいるんだ?

そして、床に書かれている『模様』は何だ。

 

どうやら俺自身も『記憶』の一部が欠損しているらしい。何をどうすれば良いのか皆目見当もつかない。

 

腕の中にいる『大佐』は、不安げに俺を見ている。記憶が消えたんだから無理も無い。

 

「どうすっかな……」

 

呟く声は『大佐』の声……。

俺の意識で喋っているのに…。

 

判らない事だらけで先に進めない俺の手は、何かを握り締めている事に気付いた。

 

 

機械鎧の部品『ナット』が2個……。

 

これが、『俺』と『大佐』がここにいた理由の手掛かりになりそうだ。

そして、床に書かれた『模様』。

 

……多分『練成陣』だと思う。

俺は『鋼の錬金術師』のはず。

 

……どうやら『錬金術師』としての記憶が無くなっているようだ。

 

 

これから俺達はどうすれば良いのか…。

 

 

 

月明かりに照らされた『ここ』で、俺は途方に暮れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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