Intersection of Spirits 【魂の交差】 第一章 |
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−−−残された物は ……身体が入れ替わってしまった『俺』と『大佐』。 それと、意味が解からない『練成陣』。 そして…『機械鎧のナット2つ』。 Intersection of Spirits 【魂の交差】・第一章 月明かりに照らされた『練成陣』と、記憶を失い俺の身体と入れ替わっちまった『大佐』を後に残し、俺は取り合えずここが何処なのか確認する為一度建物から出た。 「大佐…?もう用は終わったんですか?」 声話掛けて来たのはアルで、どうやら俺達と一緒にここまで来たらしい。そして、俺を見て『大佐』と言ったという事は『入れ替わった』事実を知らないと言う事だ。 しかし、アルが居てくれた事は多いに助かる!少なくとも俺には『解からない』練成陣とやらの解読が出来るはずだ。 「アル。落着いて聞いてくれ。……実は、俺『エドワード』なんだ。」 「はぁ?……大佐、何かの冗談ですか?」 「違うんだ!身体は『大佐』なんだけど、中身…記憶は俺なんだ!」 「………??兄さんはどうしたんですか?」 「『俺の身体』の中には大佐がいる。……だけど、自分が誰なのか記憶が無くなっている。」 「…………………」 話してもラチがあかない。 俺はアルを連れて、建物の中に入って今現在の状況を見せる事にした。 建物の中では、俺の身体になって記憶がぶっ飛んでる大佐が、練成陣の前にしゃがみ込み壊れた窓から覗く月を眺めていた。 「兄さん!!何が起こったの?」 様子がおかしい俺を見て、アルは慌てて俺の身体に駆け寄って行く。 俺の体に入っている大佐は、駆け寄って来たアルを不安げに見詰めると縋り付くような『俺の声』でアルに話し掛けた。 「君は……私の『弟』なのか?」 「……兄さん?」 「何故そんな『鎧』を着ているんだ?」 「………。」 俺はアルの隣りまで行って声を掛けた。 「表面は『エドワード・エルリック』だけど中身は『大佐』のはずだ。」 「『大佐のはず』?」 「俺が大佐の身体に居るって事は、俺の身体に居るのが大佐。って考えるのが妥当だろ?……ただし、記憶無くしているから確認が出来ない。」 「………じゃぁ、今、僕が『大佐』だと思って話しているのが…。」 「エドワード!ア・ニ・キ。」 アルは、俺の身体と大佐の身体を交互に忙しく見比べ、大絶叫を上げた。 「えっえっ…っちょっと待って!!兄さんが大佐で、大佐が兄さん??」 「そうゆう事!」 「何でそんなに落着いているの!!」 「慌て様が無いんだ。俺も記憶の一部がぶっ飛んじまったから、どっちかってーと『途方に暮れる』って所か。」 俺は自分の置かれている状況をアルに説明する事にした。 「俺は、身体が『大佐』になっている事。そして、何でここに居るのか解からない。……ここが一番の問題点なんだけど、床に描かれている『これ』の意味が解からない。」 「これって『練成陣』?」 「あぁ。正確に言うと『錬金術』ってモノが解からない。」 大佐の横に座って居たアルは、勢い良く立ち上がり俺を見下ろす。 ……身体が『大佐』になってもやっぱりアルを見下ろす事が出来ない。なんか…やな感じぃ〜。 「どう言う事?」 アルのその質問には、俺も小さく両肩を上げて返事をするしかなかった。兎に角『解からない』事だらけなのだ。 でも、ここでパニックになっても先には進まない。一つ一つ事を整理して行くしか方法は無い。 「アル!俺に教えてくれ!。この『練成陣』は何をするもんなんだ?」 「何をするって…。」 「これを描いて俺達は何をするつもりだったか解かるか?」 俺の質問にアルは『練成陣』を見詰め考え始めた。 俺は、床にしゃがみ込んで身体を丸めている大佐が『捨てられた小さな子供』の様に見えて、後ろからそっと抱き締めた。 小さな子供って。 …………自滅? 「……兄さん。」 「どうだ!何か解かったか?」 アルの不安な声から読み取れる事、それは…。 「ごめんなさい…解からないよ。」 「そっか…。」 「ただ、これだけは解かる!この『練成陣』は、何かの物質を変化させて違う物を作り出す『練成陣』だって事。」 「『違う物を作り出す』…って何を?」 「……それは解からないよ。」 どうやら俺と大佐は、人知れず…それこそアルにも内緒で『ある物』を作ろうとしたらしい。 ……そして、失敗した。 「兄さん。これからどうするの?」 「どうするって……どうするよ!?」 俺の腕の中で震えていた『俺の身体』は、何時の間にか眠りについていた。 「取り合えず、元に戻るまで俺は『大佐』のフリをしないとイケナイよなぁ。」 「大佐はどうするの?」 「……軍の病院に入れさせて貰う。『大佐命令』ってヤツで詮索不可にすればあれこれ医者に言われないだろうし。……もし、体調に変化があっても病院なら安心だろう?」 「僕は?」 「大佐…俺の身体を見張っていろよ。記憶無いからな、何するか解からねーし……。」 「そうだね。…僕が兄さんから離れて大佐の傍にいたら、皆不信がるしね。」 俺は、アルと細かい打合せをして『寝ている俺の身体』…大佐を軍の病院に入院させアルを付き添わせる。 俺は1人、大佐の自宅に戻り夜を明かした。 翌日、混乱した頭で途方に暮れた俺は、一睡も出来ないまま『中央司令部』に向かった。 建物に入ると、見慣れた『中央司令部』の景色が違って見える。 ……視界が広いんだ。 大佐の身長から見る景色が妙に違和感を感じる。だけど、キョロキョロと周囲を見て歩いたら俺が『大佐』じゃ無い事がバレてしまう。 出来るだけ『大佐らしく』行動しないとイケナイ訳だ。 すれ違う軍の人達が俺を見ると脚を止めて『敬礼』または『お辞儀』をしていく。実際には『俺』じゃなくて『大佐』になんだけど、普段、中尉達に『無能』呼ばわりされているから、もっと下官達から『邪険』にされているかと思っていた。 それなりに『信頼』されている事を改めて感じた。 大佐の机が在る『司令室』に足を踏み入れると、何時ものメンバーが何時もの如く机に付いている。 皆一斉に立ち上がり挨拶をして来る。 ドキドキモノで返事をして、いつも大佐が座っている席に腰を掛けた。 「おはようございます。」 『強敵』の中尉が登場だ。 連絡事項があるのか俺の前にやって来た。はっきり行って中尉の『観察力』は要注意だ。慎重に行動しなければ一発で『偽大佐』だって事がバレるだろう。 「あぁ…おはよう。今日は何か有るの…か?」 『大佐の話し方』ってどんなんだっけ? 「…?大佐よろしいですか。本日の予定ですが、会議は入っておりませんが今日中に決済が欲しい書類がこちらに、……………………」 捲くし立てる様に話す業務内容は、本来の俺なら『さっぱり』解からない。 なのに、中尉や少尉達が聞いてくる『事』に対して俺は的確に指示を出している。掛かってきた電話の内容も、尋ねて来た俺の知らない軍人の名前も、事件に関するファイルの位置も総て『理解して』行動し指示している。 それは不思議な感覚だ。 昼食が済み、執務室で午後の怒涛の業務をこなしていると、中尉が珈琲を持って来てくれた。 「お疲れ様です。」 「ありがとう。」 書き掛けの書類が有ったから、それが済んでから休憩しようとペンを走らせる俺を中尉は不思議そうに眺めていた。 「……中尉。何か?」 「いえ。今日何か有ったのですか?」 「……?別に。」 「1日真面目に仕事をなさっているので。」 「……………!」 普段仕事しろよ『給料泥棒』!! 「……たったまには真面目に仕事もしないとな。」 「……大佐。右手どうかなされたんですか?」 「えっ!?」 「左手でペンを持ってらっしゃるので。」 やっベー!!うっかりしていた。 普段俺は『左手』でペンを持っている。昔は右でペンを握っていた、だけど、『機械鎧の手術』をしてからは左手でペンを持つようになった。 その『俺』の部分がうっかりと出てしまったのだ。 「……気分転換…気分転換にたまには左手で書いてみようかと。」 中尉は俺を暫らく見詰めて、何も言わず執務室から出て行った。 ばれた?? 冷や汗ものだが、中尉が戻ってこない所を見ると、俺が『エドワード』だって事がばれていない様だ。煎れて貰った珈琲を飲みながらソファーの背凭れにドップリと身体を預けた。 しかし大佐の業務がこれほど『激務』だとは想像もしていなかった。 何度か修羅場の様な『司令室』を見た事が有る。その時は、大体大きな事件があってってのが前提なんだけど、普段からこんな状態とは……。 俺と会っている時は、忙しい素振りなど見せた事が無い。逆に『よっぽど暇なんだな!』っと声を掛けた事も有る。 大佐の一面を改めて感じた。 仕事に追われていた頭の中身を、今、俺が直面している事に向けて働かせて見る。 ここで仕事をして判った事が1つ。 『大佐の情報』は俺の中に有る。 大佐の記憶がぶっ飛んじゃった訳では無く、記憶を身体の中に置いて行ったと言うべきか…。 だから、大佐の記憶を持っている俺はスムーズに仕事が出来る。中尉にも少尉達にも俺が『偽大佐』だって事がばれないでいる。 じゃあ……俺が忘れてしまった『錬金術』は、『俺の身体』に置いてきてしまった。と考えるべきなのか。 大佐は、記憶を『自分の身体』に忘れて行ったが『錬金術』に関しての情報は持って『俺の身体』に移動した。 俺は、記憶は『大佐の身体』に持って来たけど、『錬金術』に関しての情報を置いて来てしまった。 そう考えるのが『妥当』なんだろうか。 ……と考えても、あくまで『推測』の粋を出ない。 直接大佐と話して『焔の錬金術』が使えるか、『鋼の錬金術』が使えるか聞かなければ解からない。 珈琲を飲み干し背伸びをして、改めて大佐の執務室内に目を向けた。 普段余りジロジロ見た事が無い『大佐の私物』が入っている本棚に目が向く。そこには『錬金術』の本が入っていて、今の俺には解からないけど何かの『ヒント』が有るのでは?と本を手に取って椅子に腰掛け本を開いた。 だけど、慣れない『業務』のせいか?夜、一睡もしていないせいか??開いた本の中身は俺の頭には入ってこない。 逆に、瞼が下がり始め急激な睡魔が俺を襲ってきた。 閉じようとする瞼を必死に開け様と努力はするけど、疲れきった俺は襲って来た睡魔には勝てず、俺はウツラウツラ眠りの中に入って行った。 ここは何処なのだろうか? 薄暗い部屋の中に天高く迄そびえる本棚が幾つもある空間に俺は佇んでいた。 何の本かと手を伸ばし表紙を捲れば、その本からは『大佐の記憶』が次々と映画の様に飛び出て映し出されて行く。 そして、その中に……俺がいた。 『エド……私は君を愛している。』 そう、これは始めて大佐が俺に告白して来た時の記憶。 夕方の執務室で始めてそう告白された。 『あぁ??何か悪いもんでも拾って食ったのか?』 『本気だ!私は−−−』 『は?、俺は嫌いだ!!』 −−−ズキッ! 襲ってきたのは胸の痛み。 こっちに映し出されている記憶は………あの時のだ。 『私は本気なんだ。真剣に考えて貰えないか?』 『またかよ、暇潰しなら他当たれ。俺は忙しいんだ!!』 −−−ズキッ! 痛い。 これは…… 『エド−−−』 『ウゼエ!!気持ち悪りーんだよ。』 −−−ズキッ! 痛い。 痛い。 痛い。 奥歯を強く噛み、震える喉を押さえる。 俺は、当時大佐に何て酷い言い方をしたんだろう。 胸を抉る様な痛みは、大佐が残して行った『心』から来る痛みだ。 『焦り』 『寂しさ』 『悲しみ』 ……俺の心は『痛み』に押し潰されそうになった。 何て酷い言い方をしてしまったんだろう。 そして、 自己嫌悪に沈む俺の目の前には…あの日の光景が何度も繰り返し映し出されていた。 |