Intersection of Spirits 【魂の交差】

最終章

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この練成は、お互いの『想いの深さの比』が重ならないと失敗する………。」

 

 

 

失敗したから俺と大佐が入れ替わったのか?

 

俺の想いは、大佐の想いより浅いと言う事……だよな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日1日、ウジウジと悩みながら偽大佐を演じた俺は、修羅場の様な『昨夜の残務整理』をこなし定時を迎えた。

事件その物はなかった事には出来ないけど、犯人即ち『俺』が国家錬金術師と言う事、事件の性質、犯人()の年齢、心身の状態様は記憶が無い、という事から事情聴取は不可能と判断し不起訴になる可能性が高い……らしい。

大佐の情報がそう言うんだからそうなんだろうけど、俺自身では全く解からないんだ。兎に角、店の損害も『保険』で賄える。

 

よかったな、大佐!

あんたの給料減らないよ!!

 

 

この時期、6時を過ぎると辺りは真っ暗で街灯がこうこうと街を照らす。

病院に急ぎ足を運ぶ俺は、今回の事件で大切な事を知りその事について考える。

 

『始めての恋』だからとか『恥ずかしいから』と、言い訳にもならない言葉で自分の感情を表さなかった。俺は、ただ大佐が与えてくれる感情を当たり前の用に感じていて。

 

大佐だって不安だったんだ。俺が何時も感じている不安と同じくらいに『俺が大佐を真剣に考えてくれているのか?』と考えていた。だから、声に出して態度に出して俺の様子を覗う。

 

逆に俺は『何で俺なんかを選んだんだ?』って自分に自身が無いから…質問をすれば返って来る答えが怖くて、言葉にも態度にも出さなかった。

 

でも、その事が『想いの深さの比』に直接繋がった訳じゃない。俺が俺自身を『守って』いたから差が生まれたんだ。『自分自身が傷付くより相手が傷付く方が苦しい。』と大佐は考えていた。

 

 

 

 

俺は、傷つくのが怖くて…大佐を失うのが怖くて……自分を守った。

 

 

 

 

その差が『想いの深さの比』なんだろうと哲学しながら歩いた。

 

 

 

 

 

病室の前にたどり着いても、なかなかドアを開ける事が出来ずもやもやと悩んではみる。申し訳なくて涙が溢れてくるんじゃないかと思う。

だけど、ここで立ち止まってもこの事態は好転しない。多分、大佐は早く自分の記憶を、そして自分の身体を取り戻したいだろう。

 

そして、今なら……俺の想いは大佐に負けない自信がある。

 

錬金術は出来ないけれど、気持ちが、心が、俺達を導いてくれると感じた。……って言っても、『錬金術』は科学だから『気持ち』だけじゃどうし様もならないらしいけど。

 

 

 

 

大佐を病室から連れだし、俺とアルと3人で『倉庫』へと向かう。大佐の胸にはしっかりと『赤いロウソク』が抱かれていて健気だと思ってしまった。

 

歩きながら話し掛けても、大佐は何も答えてはくれなくて俺を不安にさせる。もう一度『練成』して記憶が元に戻るのか?戻っても…あんなにも傷付けた俺を受け入れてくれるのか?マイナス思考ばかりが俺に襲いかかって来る。

 

そんな俺の気持ちなど知らない大佐は、俺達に案内されるまま『倉庫』に到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルを倉庫の外に残し、俺は大佐と『練成陣』が描かれた部屋へと入って行った。

そこは、あの時のまま時が止まったように何も変わりがない。空に昇る月さえ同じだ。

『練成陣』を見た大佐の表情が変わり俺の顔を見詰める。

 

「探し物はここにあっただろ。これが欲しいから『宝石泥棒』をした。違うか?」

 

俺の質問に素直に表情で現す大佐。

大事そうに抱えた『赤いロウソク』を更に抱き締め、辺りをキョロキョロと見まわし始める。

 

「この『練成陣』の意味が解かるんだな。そして…もう1つの探し物は『これ』か?」

 

俺は軍服のポケットから『機械鎧のナット2つ』を取り出し大佐に見せた。

 

「なぁ…。俺は、『錬金術』は使えないけど手伝いたいんだ。……駄目か?」

「……1人じゃ出来ない。手伝ってくれるのか?」

 

もう俺には不安なんてなかった。

 

もし、また『失敗』して…今度は俺の記憶が吹っ飛んだとしても、俺は大佐に『用無し』として切られる事は無いと信じられるから。

 

仮に、このままだとしても、俺が大佐を見捨てる事は無いから。

 

 

 

俺と大佐は、あの日の様にお互い向かい合って『練成陣の真中』で膝立ちし、片手に『火の付いたロウソク』片手に『機械鎧のナット』を握りお互いの額をくっ付けた。

 

 

あの時は、俺の『機械鎧』が壊れていたから……違うな、『想いの比』が『等価』じゃ無かったんだ。

 

 

 

今度は……そう、今は……。

 

 

 

「さぁ、始めよう。『想い』の全ては俺が受け持つから。今度は絶対成功するよ……大佐。」

 

 

俺の言葉を合図にして、大佐は『練成陣』を発動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練成陣から生み出された青白い光が俺達を包んで行く。

俺は光の眩しさと、祈るような気持ちとでゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が収まった時、俺の身体はズシッと何かの重みを感じていた。ゆっくりと目を開けるとさっき見て居た風景とは違う事に気付く。

そして、俺の左肩には黒髪が見える。

左腕をゆっくりと上げ視界に入れ、手を開いたり閉じたりして見た。

 

「俺の身体…。やった……俺達…もとの身体に戻ったんだ。 」

 

飛び跳ねたいくらい嬉しいんだけど、大佐の重みで膝立ち状態すら苦しい。床にペタンと座り、左手で大佐の背中を軽く叩き声を掛けた。

 

「大佐……大佐!! 寝ているのか?起きろよ。」

 

気を失っているのかと心配したが、そうじゃ無いらしい。大佐は、俺をしっかりと抱き締めている。そして……俺の耳元で呟くような声を出した。

 

「私は…一体どうしたんだ?何か……夢を見ていた気がする。」

 

俺は、背中に回していた腕を、力を強め抱き締めた。

 

「あぁ…少し寝ていたんだよ。夢を見ていたんだ。」

「夢の中で私は『エドワード』になっていたよ。……違うな。『エドワード』の心に触れていた。……ハハ…何を言っているんだろうな、私は…。」

「…違わないよ。俺も『ロイ』の心に触れた。……俺、いっぱい大佐を傷付けたんだな。ゴメン。」

 

俺に回されていたロイの腕に力が篭る。

 

スッゲー恥ずかしいけど、俺の謝った意味を理解してくれたと解釈して幸せな気分になった。

大佐は俺から身体を離し、心配げに見詰めてきた。

 

「エドワード…。練成は成功したのか?『アレ』は出来たのか?」

「指先に感じないか?大佐…成功したんだよ。」

 

そう言って俺は顔の横で左手を開き手の甲を見せた。

 

 

 

 

 

 

左手薬指には『鋼の台座』で出来た『ロイが生み出す焔』の『ブラットピジョン・ルビー』がはめ込まれた指輪があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達の未来を約束する証として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

はい、指輪一つ作るのに大騒ぎしたバカップル話です。

モバイルサイトのリクにて出来上がった作品。粗筋はリクエストをくださった男性(小説家の卵さん)からいただきました。

拙い表現で申し訳ないと・・・。本当に申し訳ないと・・・。