報告書シリーズ二弾 

アイツと長〜〜い珍道中 〜始まりは何時も突然!

 

 

 

 

 

 

「ついてねーよな……」

「そうだね。ここの所ついていないね。」

 

俺とアルは、リゼンブールからイシュバール寄りに在る山岳地帯の麓にいた。

この時期、寒気が強くなり寒さが堪える。そこに追い討ちを掛けられた『右足首の捻挫』は、汽車の走らないここでは命取りだ。

勿論、定期馬車は来ないしバスなんて論外だ!  

岩場に座り、何も無いだだっ広い景色に目をやるっても、不毛な土地が写るだけでなーんにも無い。まだ昼前だけどこの寒さ……。

夜になったら『エドワードのシャーベット・汗臭風味』が出来そうだ。

 

そもそも、何でこんな所に居るかと言えば、またも『ハズレ情報』に踊らされこんな辺鄙な所まで来てしまったからで……。

でも、確率は始めっから低かったから期待感0%だったんだ!で、そんな低い確率の情報に何故来たかと言えば……。

 

 

 

 

 

――― 話しは二ヶ月前から始まる。  

東方で口に名前なんて出したくない男が俺にこう言った。

 

 

 

『――― だから、エドワードは小さな子供だと言うんだ!!

 

 

 

地雷を踏みやがったアイツの言葉に、俺は捨て台詞を残し南方へと旅だった。そして、南方司令部に寄った時、アイツから『見掛けたら電話を欲しい!』と伝言があったとかで、俺は渋々電話を入れた。  

 

 

……謝るつもりなんだろうか?

 

 

って期待をしながら電話を掛けたんだ。

 

 

 

「……俺、エドワードだけど、何か用かよ?」

『鋼のか。南方に居るなら頼まれてもらいたい。東方との管轄境に在る村で『アンジャ―――』――――――』

「残念だけど、電話の金終わりそうだ!じゃあなっ!!

 

 

 

軍の電話で話しているってバレバレだけど、頭に来たから思いっきり受話器を叩き付けて会話を打ち切った。

 

 

 

 

冗談じゃねー!何様?流石、天下の『ロイ様』!! どこかの国の『微笑みの貴公子』か?貴公子って歳か?『薄ら笑いの奇行師』の間違いじゃねーの?

 

 

 

 

 

それで、勢いでガセネタに向かって一直線!

 

……の帰りに、捻挫。

マジでついてねー君だ。    

アルフォンスは、俺をオブって移動するとか言って居たけどアニキの俺が背負われてどーするよ!って事で、歩き続けた付けが回り右足首は赤く腫れ上がり、現在岩に腰掛け途方に暮れている状態って事だ。  

どうせ捻挫するなら左足にして欲しかった。元から機械でブットイからこれ以上腫れない。って負け惜しみを口に出すのさえ億劫だった。

 

「兄さん、もうそろそろでお昼だけどおなか空かない?」

「ん〜……別に今は良いよ。」 「早く次の街に移動しないと夜になっちゃうよ!だから、僕が背負って――― 」

「それは『却下』!」

「でも!」

 

繰り返される口論は、遠くから聞こえる車両の音で止まった。

 

――― 捨てる神有れば、拾う神有り!!

 

 こんな辺境に車なんて運が向いて来た俺達は、ヒッチハイクの為両手を振って合図を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 神様……やっぱり俺達を捨てちゃって下さって良いです。

 

こっちに向かってくる車両は、何処をどう見ても『軍用車両』。何かスゲー嫌な予感がするんだけど。

 

俺達の前に停車した軍用車両の大群は、イかにも『軍事作戦中!』って感じでお近づきは避けたい雰囲気バリバリだ。そして……悪魔がこっそり笑う俺達の前に車から降りて来たのは……。

 

「鋼の。こんな所で風景鑑賞か?」

 

――― 出たな!妖怪『薄ら笑い奇行師』。

 

「そちらこそ、こんな所まで慰安旅行ですか?」

「どこぞの誰かが視察を断ってくれたお陰でこの通り大騒ぎな事態だよ。」

「へー。それは人徳が無いんだろ?ご愁傷様!」

「……それで?鋼のはここで何を?」

「風景鑑賞!」

「草も生えないここでか?」

「他人の趣味にとやかく言わないでくれるか!?

 

俺達の不毛な言い争いを止めたのはアルだった。

 

「兄さん!すみません大佐。兄さん足を痛めちゃって、ここで休んで居たんです。」

「アル!余計な事は言うなっ!!

 

思いっきりアルを睨んだ時、不意に右足を掴まれ強引に靴を脱がしに掛かる大馬鹿エロ男が居た。不意打ちだったからバランスを崩し、隣りに座るアルにしがみ付いた。そんな俺をその『薄ら笑い』の瞳で見て、そして、腫れ上がった足を軽く動かしやがった!

 

「――― ッ!」

「骨には異常は無いようだ。薬は有るのか?」

「いいえ。痛み止めも終わっていて……。」

「余計な事は言うなって言っているだろう!」

「でもっ!」

 

次の瞬間、俺の視界は目まぐるしく動いた。  

口論を始めた俺達を見かねた『カリスマ・タラシ様』は、俺を事も有ろうに姫様抱っこしやがった!勿論、俺は暴れた。

 

「テメー!何しやがる!! 降ろせっ、降ろせって言ってるだろう!歳とって耳遠くなったか?」

「…………。」

 

――― そこで無視かっ!

 

「誰かー!この人『誘拐犯』でーす!誘拐して『猥褻行為』しようとしていまーす!! 『幼児誘拐』―――――― 」

 

自爆! 幼児誘拐って、幼児…用事…要事…楊枝。

 

自分の言った言葉に腐りかけ、脳みそが流れ出ている間にいともアッサリ味で車に乗せられてしまった。でも、この車は小さいらしくアルが乗るスペースは無い。

 

「僕は、後ろの車両に乗ります。兄さんをお願いします。」

「アル!俺もそっち行くから!」

「兄さん、良い子だからちゃんと大佐の言う事聞くんだよ!」

 

アル……。アニキに向かってその台詞は頂けないんだけど。

 

 

 

 

 

不貞腐れた俺と、その横に座る……。煙草を咥え運転する少尉。三人は、微妙な雰囲気の中での移動になった。その雰囲気に耐えられなくなったのは少尉だった。

 

「大将。足大丈夫か?」

「あぁ、うん。全然平気!アルが心配性なんだよ。」

「そこまで腫れて『大丈夫』か。よっぽどの鈍感か、意地っ張りかどちらかだな。」

「………それでさぁ、少尉!これから直接イーストへ戻るのか?」

「そうだけど、何処か行く所有るんすか?」

「別に急ぎじゃないんだけど……。」

「先ずは病院が先だ。」

「………でさぁ、少尉!何時ごろイーストに入るの?」

「順調に行けば夜の八時には入れるよ。」

「そっかー。じゃあ、最終の汽車に乗れるな。」

「病院が先だと言っているだろう。」

「………ちなみにさぁ、少尉!」

「エド!いい加減にしなさい!!

 

――― 気まずい雰囲気倍増。

 

エンジン音と、タイヤが土を蹴る音が車内を占領する。

 

「何か御用ですか?『ロイ=マスタング大佐』殿?」

 

思いっきり睨んでアイツを見れば、僅かだが、アイツ自身身体を引いて俺を見た。

言っておくけど、俺はあんたが謝るまではまともに口かきかないからな!

 

って、心で思ってそのまま見据えれば、向こうも負けずに俺を睨んで来た。

 

「鋼の。今は、私の監視下に入ってもらう。これは『上官命令』だ!」

 

――― 出たな!お得意の『上官命令』!!

 

「そうですか!? ナンだったら『国家錬金術師』の資格を剥奪して、車外に放り投げれば?」

「そうされたいか?」

「あんたと居るよりマシだね!」

「ぁああ……あのー、大佐!もうそろそろで昼食時間なんですが、後ろの連中も腹減ってると思うんでっすよ!!

 

少尉の必死な声で、俺達はお互い顔を背けた。

 

――― ゼッテー、俺からは謝らねーからなっ!

 

 

 

 

 

 

殺風景で、それでも視界が広い場所を選んで車両は止まり『お楽しみのラーンチ・ターイム!! 』になった。  

少尉は脱兎のこどくその場を去り、俺達のランチを取りに行ってくれた。俺は、またも大佐に担がれ車外に出され地面に降ろされた。

 

 

 

――― 気まずい……。

 

 

 

コイツの『指パッチン』で、薪に火を付けだんを取りながら向かい合う。

何見詰めてやがる!言いたい事があるんならハッキリしろっ!!

 

「エド……、この前は―――――― 」

「………」

「司令官!後方3km地点に軍反抗勢力と思われる武装集団を確認!! 車両台数30。」

「何っ!直ちにイーストに向かって移動する。密集するなよ!分散して移動しろ。」

「了解しました!」

 

どうも……。俺と大佐が会うと何かが起こる。  

前回は列車で遭遇……線路が爆発されて、徒歩で司令部へと向かった。その前は、セントラルでバッタリ会って、そしたら俺達の横で『無差別通り魔殺傷事件』が勃発!その前は………兎に角、必ず何かが起きる!!

 

――― 疫病神はお前だーっ!

 

って、罵る時間は無さそうだ。  

またも、俺を抱き上げた大佐は、車の助手席に俺を乗せ自分は運転席へと回る。

 

 

「チョット待ってくれよ!少尉はどうするんだ!?

「緊急時は『一番近い車両』に乗り込むのが鉄則だ!」

 

――― サイデッカ。

 

動き始めた車のサイドミラーには、次々と発車する車が映る。そんな時、俺の脳裏にアルの姿が映った。

 

「アル……!アルフォンスは無事乗ってるか確かめないと!!

「さっきハボックと一緒に居たのを見た。私の部下がちゃんと誘導しているだろう。」

 

――― お目が早い事で。

 

そんな俺達の会話は、敵襲によって妨げられた。思ったより接近スピードが速い車両が有った様で、敵の車両から砲撃が始まった。  

運悪く、俺達の乗って居た車の横で爆発が起こり、車両は爆風によって横に一回転して停車した。

 

――― コブで身長伸びても嬉しくないよ。

 

頭を押さえながら車両の窓から這い出た俺と大佐は、後方から来る敵車両へと目を向けた。

 

「やはりエドと居ると何かが起きるな。エドは『トラブル吸着剤』だな。」

「俺のせいか?あんたが『疫病神』なんじゃねーの?」

「――― 兎に角、食い止めるぞ!動けるか?」

「誰に向かってその台詞を言ってるんだ?」

「なら結構だ!行くぞ!!

 

痛む足を引き摺りながら、俺達は敵集団がこれ以上軍にチョッカイ出来ない様に攻撃を仕掛けた。

 

――― 相変わらず派手な『焔』です事。

 

そんな風に大佐を見ながら、俺も地面を隆起させたり陥没させたりと練成しまくった。

 

どのくらいの時間が過ぎただろう?  

敵さんの一部は逃げ、敵さん仕様だった車両及び人間は地面に投げ出され身動きをしない。そんな中、限界に達して居る俺の右足が悲鳴を上げ、俺自身の体重すら支えきれずへばっている。地面にしゃがみ込み荒い息を吐いていれば、何事も無かった様に汗一つかかない『スマイリー・ロイ様』が俺に近付いてきた。

 

「足が痛むのか?」

「別に!このくらい大した事ねーしっ!」

「取り合えずこの場から離れよう。車両を元に戻したいのだが手伝ってもらえるか?私1人では反転した車を元に戻すのは困難だ。」

「俺1人で十分!」

 

車両の近く迄歩き、両手を合わせ地面に触れる。地面の一部を隆起させ、車をゴロンと元の状態に戻して俺は得意げに大佐を見た。

 

「焔しか出さない大佐様、錬金術って色々有るから学んだ方が良いよ。」

「基本は知っている。車に乗りなさい。」

 

――― お礼って言葉知ってる?

 

何が『恋人』だ!何が『運命の人』だ!何が『魂の片割』だ!何が『天道虫』だ……?

兎に角、俺は大佐をぜーーーーてーーーーー許さない!誤っても土下座しても許さないからなっ!!

 

「モタモタするな。早く乗りなさい!」

「………。」

 

渋々と俺は車に乗り込み急発進した車のシートに身体を預けた。痛みのせいか?少し頭がぼんやりして来た。それでも『気合』でナンとか目を開けていると、運転する大佐が変な事を言って来た。

 

 

 

「ここら辺は『反武装勢力』の拠点が多い。ある程度行ったら車両を捨てて歩いて移動するぞ。」

「はぁぁぁ?」

「ここで1台の軍用車両を見つけたら格好の的になるだけだ。」

「やっぱり大佐が『疫病神』だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 俺の言葉は無視されガタガタと音を立て車は進んでいく。

 

 これが、これから始まる『珍道中』のスターとだとは俺も大佐もこの時点では知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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