報告書シリーズ二弾 

アイツと長〜〜い珍道中 〜ファッションリーダーへの道

 

 

 

 

移動中の車内は、なんとも言えないやな感じが漂っていて酸欠の一歩手前だ。

横で運転をする『Mr.役立たず』は、何時も見せるニヤケ顔は何処へ行ったのか?真剣な目で前方を見据えている。

普段を知らない女性陣がこの姿を見れば、きっとこう言うんだろう。『あぁ〜ん!マスタング大佐ってイケテるわ〜ん!! 』……知らぬが仏だよ。

 

 

 

 

俺は、サイドミラーとサイドガラスから敵襲が無いか見つつ……隣りの存在をさり気無く感じて居た。

サイドガラスに映る『Mr.スケコマシ』は、俺と喧嘩中だと言う事は全く持って『out of 眼中』状態で、約1時間程二人きりで居る車内でも謝る気はさらっさら無いようだ。はっきり言って気に居らねー奴!

 

「エド。後方から敵車両と思う車両が見え隠れしている。飛び降りる準備をしろ!」

「どーぞ、ご勝手に。」

「どう言う事だ?」

「俺1人なら『軍属』だってバレナイって言ってるんだ。あんたと居るから俺も追われる!巻き添えはご免だねっ!」

「残念ながら、先程の攻撃を見られていれば手遅れだろう。私と一緒に移動してもらう。」

「俺は大佐と居たく無いって言ってるんだっ!」

「私の命令だ。」

「じゃあ、大佐は右に行けよ!俺は左に行く。降りたら自由解散だっ!」

 

――― 自宅に帰るまでが遠足です。

 

「勝手は許さない!」

 

そう言うと、大佐はハンドルを後部座席から持ち出した縄で固定をし、アクセルに何かの道具箱を置いた。そして、運転席のシートを倒し俺が座る助手席のシートも倒し後ろのドアを開け放つと、俺を抱え外に飛び出した。

 

あっという間の出来事で、気付けば俺達は森沿いの藪に身体を預けている。大佐は、立ち上がりお得意の錬金術で車を爆発させた。

 

――― さようなら税金。

 

「エド!相手が車の爆発に気を取られている間に山の中に行くぞ。急げ!!

 

そうは言われても、俺の右足は限界に達して居る為ここから一歩も動く事が出来そうに無い。

俺は、動き始めた大佐を見て、それからこちらに向かってくる車に目を向けた。

 

「行けよ。ここは俺が食い止めるから……気を付けろよ。」

「何を言っている!行くぞ。」

「動けそうに無い。俺が時間を稼ぐから大佐は逃げろ。」

「バカな事を言うな!」

 

怒り顔で戻って来た大佐は、俺の前に回ると片膝を付いてしゃがみ込んだ。

 

「背中に。」

「ヤダ!」

「早くっ!」

「ヤダッ!」

「エドワード!私を一人にする気か!?

 

 

 

 

 

『目的も行動場所も違うが、気持ちは共に有ろう。』

 

 

 

 

 

鳥肌モノの台詞が俺の頭を過ぎる。寂しがり屋の『三十路−1=マスタング』が、ずっと前に言った言葉。

ノロノロと両腕を大佐の首に巻き付ける。するが早いか、大佐は俺を背負って立ち上がり、一気に森へ向けて走り始めた。

 

 

――― ほら見て!あそこにリスが!! あそこには綺麗なお花畑!!

 

そんな暇は無い!悔しいけどただしがみっ付いている俺は、大佐が疲れるだろうと申し訳なく感じるしかする事が無かった。

 

……って、俺達喧嘩中。

 

 

 

どのくらい森の奥に入ったんだろう?辺りは昼の3時頃だと言うのに薄暗い。かなりの距離を移動した大佐は倒れた木に俺を腰掛けさせると、大佐自身もその木を背凭れ替わりに地面にへたり込んだ。

俺の横では、ゼーハーと荒い息をする『三十路…以下省略男』が切なそうに息をしている。

機械鎧の俺を担いで走って……さぞお疲れだろう。やさしい言葉の一つも掛ければ全然OKなんだけど、そんな気は俺には湧いてこなかった。

 

「これからどうするんだ?」

「まず、ここから少し行った先に小さな村があるはずだ。そこで、身支度を整えよう。」

 

荒い息を吐きながら、それでも、言葉を乱さず話す所が激ムカツク!

空きの一つも見せれば俺だって素直になれるだろう。だけど、一人パーフェクト男を見せられれば怪我した俺が馬鹿みたいで悔しいから、負け惜しみしか感情にならなかった。

兎に角、今の大佐は『マスタング大佐様って、出来た男です事。』どこかのオバ様方万歳!!そんな感じだ。

 

「そうだな、余り明るい内に移動するのは懸命ではないな。……もう少し様子を見てから、行動を起こそう。」

「解かったよ。」

「やけに素直だな。」

「………」

 

俺は、喧嘩中だと言う事を思いだし、それから口を閉ざした。

 

「……エド?………エド、聞いているのか?エドワード!」

「………」

 

大佐の居ない方を見続け、俺は意識の外に除外する事に専念した。だけど、無視される事が大嫌いな『永遠のスケコマシ=マスタング大佐様』は、俺の肩を掴み強引に自分の方へ顔を向けさせた。

 

「エドワード。言いたい事が有ればハッキリ言いなさい!」

 

俺は、目が飛び出るくらいに瞳に力を込め大佐を睨んで言い返す。

 

「俺は……あんたを許していない。だから、話す気は無い!!

「………『あの事』をまだ怒って居たのか。」

「あ・た・り・ま・え!」

「しかし、アレは好きでそうなった訳では無い。信じて欲しい。」

 

寂しそうな瞳が俺を見詰める。ハッキリ言うとその瞳に俺は弱い。弱いってモンじゃなく、弱点化してきている。

でも、今回は、グッと我慢して大佐に言い返した。

 

「不可抗力?『アレ』って不可抗力で出来る事なのか?」

「確かに『アレ』は、その気にならねば出来ないが、そこまで行く過程は断じて好んでした訳では無い!」

「そうかよ!俺の『パンツを被る』事にどう言う過程があったのか是非聞かせて欲しいなっ!」

「だから…。罰金刑の様なモノだと言っただろう!」

「だから、誰に命令されたんだっ!白々しい嘘もいい加減にしろっ!!

 

前回は、ここで大佐が『大人には色々付き合いが有るんだ!だから、エドは小さな子供だと言うんだ!! 』って、逆切れをした。繰り返される堂々巡りの口論は、俯いた大佐の盛大なため息で幕を閉じる事となった。

 

「……中尉だ。」

「ほえ?」

「私が中尉に言ってしまったんだ。」

 

大佐は、嫌々ながら事の真相を話し始めた。

 

 

 

「あの日、エドと夕食を約束して居ただろう。だから、必死に書類の束と格闘して居たんだが、中々終わりそうに無くてね。そこで、中尉にお願いをしたんだ。」

「何て?」

「『今日だけは定時で帰らせてくれ!』と…。」

「で?俺のパンツと何の関係が有る訳?」

「中尉が『どうしてもこの書類の束だけはやって頂きます。もし、帰りたいのでしたら大佐が恥ずかしいと考える事をして頂きましょう。』」

「中尉って時々何か変テコな事言わないか?」

「彼女はきっと私が嫌がる事を言えば、残業をするだろうと思ったのだろう。」

 

大佐はそう言いながら、腰に付いて居た水筒の水を一口口に含んで俺に水筒を回してくれた。

 

「その時、ハボックが『だったら、大将がシャワー室の脱衣所に忘れて行ったパンツ被りますか?』と言ったんだ。」

「……少尉。シメル!!!

「それで、被る被らないで揉めて……」

「被ったと?」

「不可抗力だぞ!自ら被った訳では無い、あれはハボックが ―――」

 

 

 

――― 大人の付き合いって……何なんだ?

 

 

 

今度は俺が、盛大な溜め息をつく番だった。

 

「もうイイよ、信じられねー馬鹿話だけど……信じるよ。」

「信じてくれ。」

「……でも、その後の『お子様発言』は大佐の意思で言ったんだからな!」

「すまなかった。」

「南部でも最初に誤らなかったしっ!」

「軍の回線は、基本的に『盗聴』されている。そこで『パンツの言い訳』は出来なくてな。本当にすまなかった」

 

いきなり大佐の胸に引き寄せられ抱きとめられた。でも、久し振りの感覚にチョットだけホッとした気分を味わって居た。

 

「お帰り、エドワード。」

「ただいま。」

 

苦しいぐらいに抱き締められて、何時ものお約束の言葉を口にする。

 

 

 

 

 

そして、俺達は藪の中に移動し、身を潜め周囲を覗いながら、日が落ちるのをひたすら待つ事となった。

 

 

 

 

 

 

 

夕方を過ぎた頃から俺と大佐は、近くの村に向かい出発した。近いって言ったって歩いて二時間以上も掛かる所らしい。始めのうちは、俺も足を引き摺りながら歩いたが、結局は強引に抱き上げられ『お荷物エド君』になった。大佐に悪いから、抵抗して少し歩き、また強引に担がれお荷物になりの繰り返しで、村の手前に着いたのは夜の八時を過ぎた頃になってしまった。

 

 村の手前にある林の中で身を潜め、村の様子をうかがってみるがこの村自体は、たいして問題は無さそうだった。

 

「エド、私は村に潜伏して今晩の食料と着替えを取ってくるからここで待ちなさい。」

「『潜伏』?」

「何処で誰が見ているか解からないからな。暗闇に乗じて行って来る。決して動くなよっ!」

 

こんな時、黒髪の人間は得だと思う。闇に解けて行く大佐は、軍支給の黒いコートで直ぐにその姿を消してしまった。

俺の金髪は兎に角目立つ!昼も目立つらしいが、夜になると一段と回りから俺の存在を指摘される。

 

『昼間でも何処に居るか解からん『豆』が、夜は金ぴかに光って『豆豆』しさが更に目立つ。』

 

この言葉を言ったヒューズ中佐は、左スネを俺の機械鎧と勝負する事になり結果かなりキツイ痛みを持って帰って行った。俺以外の『金髪』は、この世界には大勢居る。だけど、俺はその中でもカナリ目立つらしいけど、何でだ?ハボック少尉の方が、背が高く同じ『ライトブロンド』だから目立つだろう?

 

そんな事をボーケラーっと考えていると、大佐が大荷物を持って帰ってきた。

 

「お疲れ大佐…って、スッゲー荷物だな。」

「二人分の食料と、旅行荷物だ。ある程度の量になったな。」

「旅行って?」

「私達が『旅行中の一般人』と言う設定で行動しないと危険だろう?だから、それなりの物を用意した。」

「ふーん。俺はこのまんまでも良いような気がするけど?」

「兎に角着替えて移動しよう。」

「この村に泊まらねーのか?」

「ここで調達した服でここに入ってどうする!」

「………調達って、ぎったのか?」

「一応、レジにはお金を入れて来たから盗んではいないぞ。」

「……色んな意味でセコッ。」

 

折角、用意してくれたお着替えを俺は広げて確認したが…………

 

 

 

 

をィッ!!

 

「たーいーさー!これって何処をどー見ても『女モン』だぞっ!」

「村に入った時、酒屋で男達の話し声が聞こえた。『軍人と金髪のちっこい男を追っている。』と。だから、女装だ。」

「だーれーがー、ちっこい――――――っふ…んっふんっ!」

 

藪の影から立ち上がり、村に向かって突進しようとした俺を大佐は後ろから口を塞ぎ俺を引き摺り倒す様に茂みへと身を潜めた。

 

「落着きなさい!兎に角、着替えて移動しよう。」

 

悔しいが、俺は大佐の言う通りに渋々着替え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

――― しっかし…。大佐のセンスっていったい。

 

与えられた服は、ローライズの黒のストレートパンツと白のハイネックのシャツ、青を基本とした細かな花柄プリントのジョーゼット。胸元の切り替えと袖口にたっぷりフレアがビラビラしていたりする。その上に真っ白なコート……袖口と襟にたっぷりのファーが付いていた。

髪を下ろし、コートのファーと同じ素材か?おそろいの帽子を被れば……15歳の可憐な少女が出来あがる。って俺だよーん!!

 

「やはりよく似合うよ。」

「そう言う大佐もインテリだねー。」

 

大佐の服装は、相変わらずの黒のブルゾンにアーガイルのセーター、パンツ…それと、何故か俺とお揃いで色違いのコートと帽子。勿論、黒尽くめ!

 

――― 出たな!怪人腹黒!!

 

しかし、何時もと違って大佐の顔には見慣れぬ眼鏡が掛けてあった。

 

「大佐…眼鏡?」

「結構似合うだろう?惚れ直したか?」

「アホいってろっ!」

 

ハッキリ言って図星だった。見慣れぬ大佐がちょっと……本当にチョットだけ見惚れてしまった。だけど、その下の服装は頂けない。

 

「しっかし大佐……その服は、ダッセーよ。」

「そうか?『イケテル』と思うが…。私の趣味は結構受けて居るのだが、そんなにセンスがないか?」

 

――― 誰にウケテいるのか聞きたいよ!少なくとも俺は真似しないぞっ!

 

「エドの姿は『天使』みたいに可憐だな。」

「天使ってガラかよ!」

 

――― 全身黒の大佐は『デビル=マスタング』だね。

 

 

 

 

 

 

クダラナイ話をしながら、俺達はまたも森の中へと入り込んだ。

俺が練成した小さな小屋と大佐が付けた焚き火で遅い夕食を取り、ここで一夜を明かす事にした。

夕食を食べ終わった頃、俺はブルッと寒気に襲われる。換気窓替わりに開けた小さな穴から外を眺めると今年初の雪が舞い降りて居た。

 

「大佐……雪だ。通りで寒いと思った。」

「寒いか…おいで。」

 

大佐に近付いて何の様か訪ね様とした時、イキナリ腕を掴まれ大佐に引き寄せられて。抱き込まれた俺がジタバタしていると、大佐の唇が俺の額に触れた。

 

「少し……熱いな。」

「そうか?」

 

結局、大佐の膝の上に座らされた俺は、身体を寄せて眠る事になった。って言ったって、寝たのは俺だけで、大佐は火が消えない様一晩中見張りをして居た……らしい。

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、残しておいた食料を口に入れ、近くの駅に向かって移動を開始した。一番近い駅迄徒歩二日。

今の俺には、果てしなく遠く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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