アイツと長〜〜い珍道中。 

暗がりに鬼を繋ぐ

 

 

 

 

 

 

 目覚めは………空腹で最悪。

 

 

 

 

 

 

 

薬が抜けたのだろうか?

だいぶ気分は良い方だ!

 

 昨日はマジに地獄を見た。

夢見も最悪だった記憶がある。

 

そして、何か……嫌な予感がヒシヒシ感じる。

 

 

 

 

――― アレは……たしか……・・何処かで?

 

 

 

 

「おはよう、気分はどうだ?」

「あっ、大佐…、もう起きていたんだ。」

「少し前に起きたばかりだよ。」

 

私服に着替えて大佐は、洗面台でヒゲを剃っていたらしい。

 

 ……どうせ俺は生えていませんよっ!

 

何時もの見慣れた顔に見慣れない眼鏡……インテリっぽく見えるから笑えてしまう。ゆっくりと俺の顔を観察し、フワリと笑う。

俺の顔色が良いのを確認できたからだろう。

 

しかし……

 

「どうした?顔が赤いぞ。」

「何でもねーよ!」

 

あんまりにも見慣れない顔だから……少し、本当に少し見惚れてしまった。絶対口に出して言わないけど。

 

「私に惚れ直したかい?」

「ばっ……、何で俺が見惚れなきゃいけないんだ!ただ、眼鏡が似合ってねーって ―――

 

ゆっくり近付く大佐の顔に、瞬間首を引っ込めて見る。だけど、なんの意味もなさない行動はアッサリ無視され、俺の頬に触れる大佐の唇感じた。

 

「仕度が出来たら朝食を貰いに行こう。何か食べられそうか?」

「あぁ、軽いものならナンとか。」

「まだ駄目か?」

「チョット胃が熱いだけだから」

 

促され、大佐が購入した女性モノの服に身を包む。ナンだか妙な気分になって来るから服って言うのは恐ろしい。

顔を洗い、髪の毛をミツ編みにする。髪の毛を纏めれば少しは気分もしまる感じがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

1階の食堂には、先に起きている何人かのキャラバン同行者が朝食を食べていた。

空いた4人掛けの机に向かい合わせに座ると大佐は、宿の数少ないメニューの中から数品の料理をチョイスして注文する。

勿論、俺の分の朝食も『勝手』にチョイスして注文していた。

 

――― 何〜〜故〜〜?俺に選ばせない〜〜!!

 

食堂は次々と人が入って来てあっという間に満席に成ってしまった。

そんな時、俺達が座って居た席に相席と言いつつ1人の女性が座る。

正確には大佐の横……。

 

 『ランス』と名乗るケバイ顔の姉ちゃんだ。

 同じ茶髪でもこうも違うものかと目を疑いたくなる。

対照は『母さん』。

母さんは、どちらかと言えば『可愛い顔』をしていた。

今でも覚えている!笑った顔、怒った顔、そして……アイツを思い出して泣いている顔。

どれも綺麗だったが、可愛い顔をしていた。

子供の俺が、母さんを『可愛い』と表現するのはどーよっ!て感じだけど、表現する言葉は間違っていない……はず。

大きな瞳が印象的な母さん。

 

アルフォンス……本物のアルフォンスは同じ目の形をしている。

 

で、俺の目の前に居る『ランス』さんは、この一言で済む!

 

――― 妖しい界隈のお姉ちゃん。

 

切れ長の目も、その目配せも全て妖しい感じ。

と言ってもその全てが大佐に注がれているのは一目瞭然で、俺は完璧シカト状態だったりする。かなり露骨で………。

 

「朝からアルフォンスの横で朝食が食べられるだなんて、今日はツイテいるわね。」

 

1人で盛り上がるランスさんを横目に、運ばれてきたリゾットを吹き冷ます俺。大佐は満更でもない表情で、ランスさんと他愛も無い世間話をし始める。

 

 

 

――― 朝から気分最悪。俺の立場ってなに?

 

 

って感がヒシヒシなんだけど、兎に角、この熱いリゾットを早く胃に入れて部屋に戻りたい!正確には、この光景から逃げたい!って感じだ。

 

「あら?エリシアちゃん、そんなにお腹が空いているの?」

 

俺が無言で必死こいて食べて居たからそう言われたのか?ランスさんが、始めて大佐以外の事で俺に話しを振って来た。

スプーンを口に入れたままランスさんを見れば、優雅に珈琲カップなんかを持って妖しい笑みを俺に送っていたりする。

 

「………別に。」

 

俺はまたリゾットの入った皿に目を移しランスさんの存在を排除する。

 

――― 最悪、最悪、最悪、最悪!

 

なんでこんなにムカツクかは解からないけど、兎に角イライラしっぱなしだった。

 

「エルリックさん!」

「「はい。」」

 

俺の名前を呼んだのは、キャラバンの隊長さん。

とっさに返事をした俺と大佐。大佐もランスさんも部屋に居る何人かのキャラバン隊の人達が見詰める。

 

「えっ?????……何?」

 

あんまりにもジロジロ見られるから、俺は何かやったのかと!不安に駆られた。

 

「エリシアちゃん、あなたまだアルフォンスと結婚していないのだから『エルリックさん』で返事するのはおかしくない?」

 

 

 

「……………………!」

 

 

 

多分、今、俺の顔から『ボンッ!』って音が鳴った……はず。

 

顔が熱い!

何時もみたいに返事をしてしまった俺は何とも言えない気まずさと、恥ずかしさで耳まで熱い気がする。

 

やけくそ状態で、朝食のリゾットをかき込む。そんな俺をどう見たのか、周りにいた人達はドット笑い始める。

 

――― 最悪、最悪、最悪、最悪!俺が『エルリック』だってーの!!!

 

そんな言い訳が出来る訳が無く、我武者羅に口にリゾットを運び込んだ。

 

別に『結婚』の言葉が恥ずかしかった訳じゃない。ただ、偽名を使っている事を忘れた自分が恥ずかしかっただけで、ぜーーーーーーーたい『大佐と結婚』なんて有り得ない事で恥ずかしかった訳じゃない!!

 

 

 

ここテストに出ますっ!間違えない様に!!!

 

 

 

「ご馳走さま!」

 

そこがまでが限界!!皿の中には半分ぐらいリゾットが残っていたけど、余りの恥ずかしさから味も素っ気も無くなり、兎に角ここを脱出したかった。その一念!!

痛む足を無理に着いて階段へまっしぐら!後ろから誰かが呼んだ気がするけど、俺の事なのか?大佐の事なのか?偽名と本名がゴチャゴチャになって振り向く事も出来なかった。

 

 

 

――― 頭クラクラして来た。

 

 

 

 

 

 

 

自室に戻りさっき迄寝て居たベットにダイブする俺。

最悪の状況にどうし様もならない感情を持て余して、そのまま布団を頭まで被った。こんな事をして何の意味があるかはワカンネーけど、下界とシャットアウトしたかった。

 

どの位してだろうか?誰かが部屋に入って来た。入口のカギは開けっぱなしだから誰でも入れるだろうけど、どうせ入ってくるのは大佐だと思う。だから、あえて顔を出さずにそのまま布団の中に篭って居た。

 

『オチビは寝ている訳じゃないよねー。』

 

聞き慣れない声がした!

 

――― 大佐じゃねーのか!?

 

布団を跳ね飛ばし、ベットの上に立ちあがった俺の視界に入って来たのは誰も居ない空間。でも、さっき確かに大佐じゃない男の声が聞こえた。立ちあがった衝撃で右足首がジンジン痺れる。そんな事も気にせず、自分の視界をもう一度確かめ人が居ない事を確認し、戦闘体制を解いた。

 

確かに聞こえたんだ……。

 

聞き覚えのある声で、聞き覚えのある表現。

 

「――― !!!!」

 

ホッと身体の力を抜いた時、背後から布の様なモノで口と鼻を塞がれた。身を捩ってその行動を阻止し様と試みるけど、相手の馬鹿力で身動きが出来ない。

ジタバタと手足を動かしてはみたけど、結局意味が無くキツイ匂いが鼻から脳に向かって染み込み、そのまま気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ド……エド………エド……聞こえるか!? エドワード!!」

 

俺の頭の上でデカイ声が聞こえる。目を開けたくても頭が痛くて開ける気がしない……それ以上に足が……腹が……顔が痛い!!!

 

なんとか目を開ければ、大佐が必死に俺の名を呼んでいる。何時も余裕な『昼行灯スケベ権化』の表情は一つも無く、蒼白な顔が俺の視界に入って来た。

 

「ぁ…いさ?」

「何があった!」

 

――― 何って何?

 

その言葉は喉が痛くて言葉にならない。

 

「ここに来たらエドが倒れていた。かなり……殴られた痕がある。それと、右足首が折られている。誰にヤラレタ?」

 

大佐が言うには、顔は殴られて口角が切れているらしい。足首は完全に折られ首も締められた痕が残っている……腹に関しては気付かないのは当たり前か?

 

「今、医者を呼んでくる。」

「……ま…ってって、俺が……男…だってバレ……る。」

 

本当に俺の声か?最悪の擦れ具合がかなりヤバそうでKOな感じ?霞んでいる大佐を必死に見詰めるけど、クラクラする俺には指1本動かす気力もない。

 

「しかし……。」

「全く…もっ……て全然…OK!ってやつ。暫らくすれば……痛みは引く。」

「……解かった。兎に角、傷薬を貰ってくる。それなら良いな?」

 

はっきり言って……行ってほしくは無かった。ここでまた襲撃されれば、俺は『all over』だ。そんな俺の表情をどう捕らえたのか?大佐は素早く俺の額にKissを落とし足早にドアへと動き始めた。

 

「……大丈夫だ、直ぐ戻る。」

 

遠くで戸の閉まる音がする。『直ぐ戻る』と言った大佐の言葉を信じ。俺はまた視界を暗転させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どのくらいの時間が経ったのか?目を開けた俺に視界に見慣れない天井が入ってくる。その空気が消毒臭かったから、ここが病院だろう事は直ぐに推測できた。だけど、俺が『女』じゃ無いって事がバレるとイケナイから、大佐には医者を呼ばないで欲しいと言ったはずなんだけど……。

 

「気が付いたか?」

「………あんた…誰?」

 

身体を起こす気にはなれない俺が見たのは、白髪交じりのオッサンだ。白い服を着ていたから……多分医者?

 

「私はここのドクターだ。見事に足首が折れれているからギブスを嵌めておいたよ。」

「ど〜も。」

「他に今痛む所は?」

「喉?かな」

「そうだな、もう少しで気管を潰される所だった。他には?」

「後は……なんとか。」

「そうか、無理をしない様に。今は痛み止めを投与してあるからさほどでも無いが、じき薬が切れるだろう」

 

そこまで話すと、ドクターは椅子を引き寄せ俺の表情が見える所に腰掛ける。そして、カルテを見ながら小さな溜め息を付いた。

 

「事情は解からないが、医者は患者の秘密を他言しない。何があったか話してもらえるかい?」

 

俺は一瞬躊躇した。勿論、ここら辺一帯が『反政府ゲリラ』の集まりがあると知っているし、他言しないと言って実際はってのは良くある事だ。

 

「アイツは……何て?」

「アイツとは『エルリックさん』の事か?」

 

――― エルリックは俺なんですが。

 

「『朝食を食べ終わって部屋に行ったら、先に食べ終わって部屋に居た君が襲われた後だった。』と言っていた。」

「……後ろから襲われた。」

「そうか……、後1つ聞いて良いかい?君は『男性』だね。」

「……訳アリで『女性』している。」

「この怪我と関連は?」

「……解からない。」

「警察に連絡は?」

「止めた方が無難。」

 

そこでもう一度ドクターは溜め息を付いた。そして椅子から立ち上がり、俺を見ると『迎えが来るまで寝ていなさい』と告げ部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 の後どのくらいかして大佐が迎えに来た。

 

背負われて宿に戻ると、昼過ぎだと言うのにまだキャラバンは出発していなかった。理由は『午後に吹雪く』だそうで、危険を予測して動くのは妥当じゃないともう1泊ここに滞在すると言う。

 

俺は部屋のベットに横になり、薬が切れ痛み始めた足と……全身を目を閉じ呼吸を整える事でやり過ごそうとした。

 

「痛むか?」

「少しね……大佐、飯は?」

「ここに運んでもらえる事になっている。今、君を一人にするのは危険だ。」

 

――― 今の俺ってMAXかっこ悪い!

 

って思うけど、口には出さ無かった。

 

「所で、襲った人物に心当たりは?」

 

そう言われて、もう一度今回の事を振り返ってみた。

相手は『オチビは寝ている訳じゃないよねー。』って言ったような気がする。何時か聞いた事のあるフレーズだった気がした。声も……何処かで?

 

 

 

 

 

 

 

 

『オチビ』?

 

 

 

 

 

『オチビ』?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………じめまして   鋼の おチビさん』

 

 

『あらー…  やる気満万だよ このおチビさん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 第5研究所

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エンヴィー!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!」

「どうした?」

「えっ?…あっ??

 

イキナリ声を出した事で大佐は俺を不審な目で見詰める。

だけど今、大佐にこの事を言う訳にはいかない。『大総統命令』でもあるし……何より確信が無い。

 

「何か気付いた事でも?」

「………何でもねーよ。」

「そうか。」

 

大佐はそれ以上追求はして来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

――― もし、エンヴィーとか言う奴が絡んでいるとすれば……目的は?

 

 そんな事を考えながら頭の中を整頓し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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