続・未だ生を知らず |
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光の柱が生まれた日から1ヶ月が過ぎようとしていた。 ロイは、一度中央に戻り『報告書作成』と『軍事作戦報告』をすると、上部から今回の働きに対して2週間の有給休暇を附与された。本来なら、身体を休め休暇開けから次なる仕事に気力・体力共回復するべきだろうが、今のロイには寝る事すら苦痛でしか無い。 あの戦いが終了し、死亡者及び未帰還者の家族は、殆どが葬儀を済ませて居た。エドワードに関しては、親族者…即ち、アルフォンスが葬儀を頑なに拒み『戸籍抹消』の限度7年を待つと言った。ロイの心にも『必ず生きて帰ってくる!』との思いがあったが、現実問題として掃討作戦で残った下官からはエドワードの生存も遺体の発見も連絡が無い。その為、気持ちが宙に浮いている状態だった。 ロイはこの有給を利用し、あの町に入った。それは、エドワードを探す為…と言うより、自分の心にケジメを付ける為のモノであった。まだ諦めきれない思いが強いのだが、前に進まなければならない。……それが、エドワードの為でもあるとロイは思っての行動だった。
『掃討作戦本部』に挨拶を済ませ、単身町の中心部へと車を飛ばす。まだゲリラと化した残党が潜むが、護衛を連れては気が乗らなかった。 細かい砂を巻き上げ4時間掛けて町の中心部へと入った。そこには巨大なクレーターと建物の骨組がわずかに残るそこは、残った鉄骨が十字を描き斜めに大地へ突き刺さる墓標の様な光景だった。 『巨大なひかりの柱が全てを破壊し尽くした……。』 本部に無線連絡があった時、悲鳴のような戦地からの叫び声は今でも耳に残っている。その中心にはエドワードが居た事など知る由も無く、ひたすら詳細を求め無線連絡を行って居たヒュリーの顔を思い出す。時間が経つに連れヒュリーの顔色が変わり、光の『生みの親』はエドワードが練成した物だと聞かされた。そして、町は突風と表現する以上の風が全てのモノを薙ぎ倒し、町自体跡形も無く消えたとも聞かされた。 ……そのお陰で今回の戦いは勝利を得たのだが、その代価は余りにも大きかった。 ロイはその場をグルリと見回し、エドワードに繋がる何かを求めた。しかし、建物の残骸と砂のみの風景が何処までも続く中に、エドワードの痕跡を見付ける事は出来なかった。 その風景を刻み込む為にロイは1時間ほどその場に留まった。今、脳裏に甦るのは、まだ『幼い表情のエドワード』。目的を果たす為、全てを抱え込み苦しみを背負い、前を見据え焔の瞳で人々を魅了していた。そして、その『幼かった少年』は、時とともに『聡明な青年』へと姿を変え始める。
……全てはこれからだった。目的を果たした今、自由に生きようと晴れやかな笑顔を周囲に向けたはずなのに。 ロイは、1時間程して帰るべくその場を後にし始める。しかし、もう一度クレーターに聳え立つ十字の鉄骨に目を向けると、声に出してそこには居ないエドワードに呼び掛けた。
「『さようなら』は言わないぞ。私は……諦めない!何時までも待ち続ける!! 」 ロイの心の中は、悲しみより深い傷を抱えて居た。エドワードが帰還しなかった時から一度も涙など込み上げてこない。これほど苦しい胸の内は言い表す事など出来やしない。しかし、涙は込み上げてこなかった。ここに来たのは『ケジメ』を付ける為だった。しかし、現場を見て自分の心を知った。『信じない!必ずエドは帰って来る。』と。 車に乗り込みエンジンを掛ける。後ろ髪を引かれる思いだったが、アクセルを強く踏みつけその場を後にした。 オレンジが空を支配し始めた頃、ロイは町中央から車で『掃討作戦本部』に戻り近くに停車する軍用列車へと足を向ける。 『二度とここには来る事が無いだろう。』と、ロイは思う。 そして、ロイ自身何時もと変わらず生きていこうと……。 汽車のタラップに足を掛けた時、冷えた空気を風が運んで来る。放射冷却で大地がいっきに熱を奪われ夜の気温をグッと下げていく。ゾクリと身体が震え寒さを身体が体感した時、ロイの耳に優しい声が聞こえた。
『ロイ……俺はここに居るよ。』 「エドワード?……幻聴か!?」 『ここまで来たんだ……迎えに来いよ。』 「エド?何処だエド??」 ロイは、乗り込もうとした汽車から離れ風上に走り始めた。頭では解かっていた……近距離でエドワードの声を聞いたが、現実有り得ない事だと。耳元で話す声だっただけに思わず身体が動き走り始めたが、それは……幻聴だと静かに受け止め足を止めた。
「エド…エド……エドワードー!」 やり切れない思いがロイの身体を駆け抜ける。 愛しい者の名を叫んでも…… 求めても…… 何処にも存在を得る事が出来ない……。 ロイはその場に崩れ込み初めて泣いた。 あの日誓った『二度と大切な者を自分より先に死なせない!』は、ただ誓っただけで実行できなかったと自分を責めた。 『ロイ……早く迎えに来いよ。俺……ここまで歩いたんだぞ!馬鹿ロイ!!』 「………!!」 ロイは俯いていた顔を上げ、もう一度周囲を見回す。 オレンジが残る僅かな光を背に、何かが地平線に見え隠れしている。立ち上がり走り始めたロイに確信があった。 愛しい者が呼ぶ…… 魂が距離を越え名を呼ぶ…… 自分の全てが引き付けられる……。 何とか大地に踏み止まり、傾いた身体を必死に保つ愛しい者の姿をロイは捕らえた。 薄汚れたタンクトップに軍の上着を肩に掛け、足にはズボンの上から汚れた布で止血している姿のエドワードは、少しやつれた顔で弱々しくだがロイに微笑んで見せた。必死に腕を伸ばしエドワードの身体を捕まえたロイは、崩れ落ちる細い身体を壊れんばかりに抱き締めその存在が現実だと自分に証明させた。エドワードの身体は、熱を帯び、測らずとも発熱していると窺い知る事ができる。
「今まで何処に居た?」 「……神様に…嫌われて、また…こっちの世界…に……帰って来ちまった。」 「神がエドを好いて連れ去るのなら、私は神と戦う。……エドは私と共に生きるのだから。」 「…ハハ。何時でも……ロイの口は…呪われてる…よな。俺、戦争…孤児が……身を寄せ合っている…場所で…助けて貰って居た。だけど、食料も…水も尽き…たから…軍に掛け合う……保護して………」
エドワードは力尽き、ロイの腕の中でグッタリと身体を預け意識を失った。 その後、ロイの指示によりエドワードを看病していた孤児達は、町の近くに国が出資した施設での生活を送る事となった。 エドワードはロイと共に中央に戻り、軍付属の病院でアルフォンスに付き添われながら身体を回復させて行く。 そして、再び……あの家の愛が始まる。 『生きるって事が分からないのに、死ねねーじゃん。……そうだろ? なあ、ロイ。』 End.
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