報告書シリーズ 第1章

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大佐に導かれて……

 

 

俺の知らない世界に行く事に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なる訳が無い!

 

 

 

ベットと大佐の隙間から素早く逃げ出した俺は、寝室の壁にへばりっついて相手の様子を覗った。

大佐の表情からは「何でだ?」って感じだけど、「何でだっ!急性だろう!!」ってこっちが言ってやりたい。人間ある程度の事はさらっと決断もなく行動出来るだろう!

だけど……大佐と……って事を、今日自分の気持ちを告白して『即』ってのは如何なものかと。

『心の準備』ってヤツが多いに必要だった。

そんな俺の気持ちなど大佐はワカンネーと思う。四つん這いの体制からベットに腰掛けた大佐は、寂しそうに……でも、挑戦的な瞳で俺を見据えた。

 

「……エド。」

「はい!何でしょう?」

 

―――俺が何なんでしょう??

 

「……嫌か?」

「………。」

 

―――嫌?かな??それより…まともな頭では、大佐と目を合わすのも恥ずかしい。

 

「……あのさっ。俺に『酒』1杯くれない?」

「酒?」

「…素面で出来ない!」

 

俺は酒に逃げる!

そう、1杯とは言わず、酔いつぶれて次の朝痔になるまで飲み続ける!

 

題して『今日は痔になるまで飲み明かし勘弁してもらう作戦』に出た。

 

 

 

 

……ってそのまんまじゃん。

 

 

 

 

「未成年者に酒を勧めると思うのか?」

「………今更じゃん。」

「………確かに。」

 

大佐と俺はキッチンに行き、大佐御用達のウィスキーをロックで飲む事にした。

 

はっきり言おう!俺はウィスキーが苦手だ!

直ぐ『来る』んだなこれが!!グールグルと目が回ってくる。そんな事は大佐には言わないけどさっ。

色気も無く、2人揃ってキッチンのシンクに寄り掛かり俺達が入って来た出入り口を見詰め無言で酒を飲む。時々グラスの氷の音がカラーンって室内に響く。

 

静かな空気を最初に破ったのは大佐だった。

 

「エド、君は今何を考えている?」

 

 

何考えているかって?そりゃー………。

 

 

「大佐こそ、何考えて居たんだよ!?

「私か?…………『エドワードを抱きたい』だな。」

 

 

 

 

 

 

―――ブゥゥゥーーーーーーッ!!!

 

 

 

 

 

俺は口に含んでいた酒を思いっきり大佐の顔にぶちまけた。

大佐の顔は、ダラダラと俺が吹き出した酒が流れ落ちている。

……ちなみに、俺の口からもダラダラと酒が流れていたけど気にしないで下さい。

 

俺は、手元にあった『台布巾』で大佐の顔をゴシゴシ拭いて声を掛けた。

 

「変な事言うから!……悪かったな。」

「気にしないで良い。それより、台布巾で顔を拭くのを止めて欲しいのだが。」

 

大佐の顔を拭いていた布巾をシンクの上に置き、俺は呆れ返った声で言葉を投げた。

 

「あのさぁ…。『それ』しか考えられない訳?」

 

大佐の表情が、不貞腐れた子供じみていて笑える。

 

「では、エドは何を考えていた?」

「えっ!?おっ俺?」

 

何を考えて居たかなんて……。

大佐と類似しているけどかなり違う事を考えて居た。

 

「……俺さぁ思うんだけど、大佐と『アレ』ヤルとなると……ほらっ、俺は女じゃないから…繋がるってーと『あそこ』しか無いじゃん。するとだ、本来『あそこ』から出る物が押し上げられる訳だよなぁ………口から出ないかなぁ〜なんて−−−」

 

 

 

―――ブゥゥゥゥゥーーーーーーッ!!!

 

 

 

今度は、大佐が俺の顔目掛けて酒を吹き出した。

大佐の口からはダラダラと酒が垂れている。俺の顔も酒垂れ状態だ。

さっきのお返し?じゃ無いとは思うけど、大佐はシンクに置いてあった台布巾で俺の顔をゴシゴシ拭いてくれた。

 

………ありがとーねっ!!

 

「もう良いよ!」

「そうか?悪い事をしたな。しかし、エド。口から出る前に胃で止まるだろう?」

 

人類初!口から『う●こ』を出した男!を取るか、胃に『う●こ』を溜めた男!を取るか

 

……究極の選択だった。

 

「そもそも世の中は広い様で狭い。そのような行為で口から出した事が有るとは聞いた事が無い。」

「………そうなのか?」

「そうだ!」

 

ふーん。………良く知っているじゃん!?

 

「良く知ってるな!大佐って『バックバージン』ロストしてるの?」

「何で私が『ロスト』しなければならない!!

「……いや、やけに詳しいみたいだから『経験者』かなぁ〜って。」

 

睨み合ったままお互い無口になる。

それで……俺は視線を逸らして床に座り込んだ。

 

 

そして、俺は気が付いた。

 

 

『好き』と『愛している』の差。

 

 

そう、俺の感情と大佐の気持ちの差がここに来て大きかったと言う事。

好きだから『話しがしたい!』とか、『一緒にいたい!』のレベルと、愛しているから『触れたい!』とか、『抱きたい!』にはかなりのレベル差があった。

俺は軽く『告白』を考えていたのかもしれない。ガキの恋愛ならそれもOKだったと思う。

だけど、相手は大人の『ロイ・マスタング大佐様』だったんだ!

 

 

――――下無敵の『女タラシ!』。

 

 

俺…男だけど引っかかったのか??

 

「エド、嫌だったら強制はしない…したくはない。」

 

俺の頭上から降ってくる甘い声。仕事場では聞いた事ないような声の感じで。

 

 

……胸が

 

 

………痛い。

 

「………わからねーよ、本当に。俺の素直な考えだけど、大佐の傍に居たいと思うしイッパイ話したいとも思う。だけど…俺と大佐が『アレ』してどうなるんだろう?大佐だって『柔らかい』女性抱いた方が気持ち良いだろうし……うん。そうだろう?」

「この想いを抱きながら他の女性を抱けと?…君は残酷だな。」

 

 

 

 

『残酷』か……。

 

 

 

 

「そうかもな。俺は、残酷かも知れない。……東洋の考えで『人間はこの世に生れ落ちる時対になって降りてくる。その対が運命の相手』なんだって。もし、俺と大佐が運命ってやつの相方なら、後から生まれた俺は『性別』を間違えたんだろう。悩む事も苦しむ事も何にも無かったのにな。」

 

大佐は、俺の横に片膝を付き遠くを見詰める俺の視線に目を合わせる。複雑だけど、優しい色をした大佐の視線はコワイほど真っ直ぐに俺の思考を奪って行く。

 

「それがどうした。」

「……………。」

 

 

 

一刀両断。

 

 

 

『それがどうした』と言われたら、俺が悩んでいる事はなんだか馬鹿らしく感じる。

大佐の心が強いのか、それとも…狂ってしまったのか?

………俺の心が弱いのか、それとも、俺がまともなのか?

 

この先の答えは……誰が知っているのか?

 

「………俺らしくねーよな。答えが欲しければ動くしかねーじゃん。」

 

俺は呟き自分自身に言い聞かせてみる。

俺は立ち上がり床に座る大佐を見下ろした。

 

「俺、大佐に対しての気持ちはさっきとは変わっていない。だからいける所…ま……!?

 

って、オイ!!

今、何か口走ろうとしていなかったか!?まるで大佐とや……て言おうとしなかったか!?

 

大佐は、俺が言おうとした事に気付いたらしい。ゆっくりと立ちあがり俺の顔を嬉しそうに見詰めている。 俺は、ゆっくり出入り口側に後退して大佐との間合いをあけた。

 

「あぁぁ…。俺……ソファー借りて『独り』で寝ます。おやすみなさい。」

 

俺は1歩下がる。

 

「エド。『男に二言は無い。』だろう!?

 

大佐は、俺との間合いを2歩詰める。

 

「俺、今日から『ニューハーフ』になりました。」

「君には変わり無いだろう?」

「変わりました。今から俺の事を『アルフォンス・エルリック』と呼んで下さい!」

「…………。」

 

伸びてきた腕に阻まれ、俺の華麗なるバックステップは中断された。そのまま大佐に引っ張られて胸の中に飛び込んだ。

 

「観念したまえ。」

「……できません。」

 

抱き込まれた俺は、抵抗を諦める。そして、覚悟も決まった。

 

「あのさぁ…。胃に溜まりそうだと思ったら言うからな!」

「口から出そうでも言ってくれ。」

 

 

やっぱり、………笑える。

こいつがこんなにも気が合う奴とは思っても居なかっただけに……嬉しかった。

今の心境は『さようなら俺のバージン!こんにちは新世界!!』って所だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

−−−朝陽が顔に掛かる。

 

−−−布団の中がすっげー気持ち良くて目を開けたくない。

 

−−−あったけーし、落着くし。

 

 

 

 

 

普段は惰眠を貪るなんて事は殆ど無い。でも、今日は余りにも布団の中が気持ち良くて、目を開ける気にはならない。

何か気持ち良い布団だよなぁー。で、ここ何処だっけ?あの村を出て……イーストに入ったんだっけ!?

 

「おはよう。エド」

 

そう、俺の名前はエドワード………って!何で大佐の声が聞こえて来る訳!

 

声がした方に強引に開いた目を向ければ、満足げに俺を見詰める大佐の顔があった。

ガバッて音がするぐらいの勢いで飛び起きた俺を、全身に激痛が襲いかかる。

 

「いっ−−−ってーーー!」

 

起こした身体は、再びベットへと逆戻り。

身体がガクガクと震えている。筋肉痛と腰痛、そして、………が痛かった。

 

 

 

−−−そう、俺、大佐と『やっちゃった』んだ!

 

 

 

「大丈夫か?」

「そう思うなら二度とするなっ!!

 

震える左手を眺めていた俺の視界に入って来た大佐は、心配そうに俺を見詰めている。

どんな表情をすれば良いか解からない俺は、大佐の寝ている方とは逆に身体を捻り布団に顔を隠した。

 

「しかし、エドの心配していた事は起こらなかっただろう?」

「……なんの事だよ!?

「それは『口から……』の事だよ。」

「………確かに。」

 

布団の中に顔を突っ込んでいるから、大佐がどんな顔で話しているかは解からない。でも、これだけは解かる。

 

こいつ……懲りてねーよ。

 

「エド。喉乾かないか?」

「……乾いたけど、動けねーよ。」

「今日は私が珈琲を入れてこよう。」

 

そう言って大佐はキッチンへと行ってしまう。

ズボッと布団から顔を出した俺は、痛い身体を捻りさっき迄大佐が寝て居た場所を見た。 そこを感覚がある左手で触れば、まだ、大佐の温かさが残っている。

 

「……取り残されるのって寂しーよなぁー。」

 

って言うか、何か大佐に上手く操られてるみたいだから、絶対にこの気持ちは言ってやらない。

 

 

こうして、俺達の関係は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以上、報告終わり。

 

 

 

 

 

 

      おまけ