報告書シリーズ 第1章

 

 

 

 

 

前略。

 

お星様になったお母さん。

 

お元気ですか?お風邪などひいていませんか?

 

…天国に居るから関係無いですか?

 

…はい、すんまそ〜ん。

 

エドワードは『うっすら』地上で頑張っています。

 

お母さん、今日は報告があります。

 

僕は生まれて初めて『愛の告白』をされました!

 

相手は、大人の男の人です

 

 

 

 

 

 

 

 

…………はぁ?

 

「好きだよ。……ずーっと前から君だけを見て来た。」

「……?」

「愛しているよ。エドワード。」

 

 

――――――――!!!!!

 

生まれて初めて受けた『愛の告白』は大人の男だった。

俺は余りのショックに持っていたマグカップを床に落としてしまった。

 

いや?俺、昨日からほとんど寝てねーよな。

 

これは『幻聴』だ!!

 

でも、頬にくっ付いている大佐のシャツは?

 

…これは『幻覚』だ!!

 

 

 

「……寝不足だ!そうだ!!俺、夢見てんだな!うん…そーだ。寝よう!!……夢の中だから何処だって寝れるさっ、おやすみ。」

 

グー…グー…グー…。

 

「……寝れねーじゃん!!」

 

俺はパニック状態に陥って居た。

だって考えても見ろ!大佐が…なんだって?俺を『愛している』??

 

そして、ふと我に替える。俺は、突如猛烈に腹の中が煮え繰り返ってきた。

 

あいつ夕飯作っている時何ていった?

確か本命が居るって言ってたじゃん!!

 

 

 

『可愛いよ。しかし、真っ直ぐ私を見てくれると思えば目を逸らす。近寄れば逃げて行く…気が付けば側に居る。不思議な子だよ…。』

 

 

 

「ばっ………馬鹿にするなっ!」

 

俺は力の限り大佐の身体を突き飛ばした。

世の中には言って良い冗談と悪い冗談がある!こんなの最悪な冗談だ。右手ゲンコでボコってやらなきゃ気がすまねー。

 

「テメーには『本命』が居るんだろ!ふざけて使って良い言葉じゃねーよ!!」

「君が『本命』だよ。」

「あぁ、そうか!!そうかよっ!!俺が本……め…?????」

 

頭の中で『ヒツジ』がメーメー鳴いている。

 

実際は大佐の言った『本命』の命の部分が、エコー付きでリピートされているからメーメー聞こえるのだろう。

 

「夕食時話したのはエドの事だ。」

「……………大佐。脳みそ腐った?」

 

大佐の真剣な顔と言葉。

だけど、俺の頭の中は牛乳掛けっぱなしのシリアル状態になっていた。

そもそも大佐は『女好き』で有名。俺が、司令室尋ねた時も『これからデートだから』と何度報告書を後回しにされたか。

 

で、俺は誰がどこをどう見ても立派な『男』。将来は軽く170cmオーバーの長身になるんだ。

大佐の記憶が『老齢によるボケ』で俺が男だと言う事を忘れてしまったに違いない。

 

「……大佐。その歳でボケちまったんだな。可哀相に。」

「人を勝手に『介護老人』にするんじゃない。」

 

介護老人じゃなきゃなんなんだ!?

 

俺とどうなりたい訳?

 

「じゃあ…大佐は、女に飽きて『男色』になった訳?」

「私が君を見て来たのはかなり前からだ。」

「はぁ?前って何時からだよ??」

「君が『国家錬金術師の試験』を受けに私の所を尋ねて来ただろう。あの時、エドを見て不思議な気分に襲われた。」

 

大佐は動く事無く、俺の瞳1点を見て話す。普段の俺なら大佐の顔を見るのを止め視線を逸らしたと思う。

だけど、それは許されない気がした。

 

「君と話すと、私の心の中で何かが生まれる。始めのうちはそれが何か解からなかった。」

「今なら解かるのかよ。」

「今は解かる。その気持ちに気付いた時は正直気でも狂ってしまったかと思ったよ。相手は男だしな…それも14歳年下だ。」

 

……今でも十分狂っているよ。

 

俺は苦い顔で大佐を睨んだ。大人の顔で『この世の中全て解かっているぞ!』って顔しやがる。

こいつはやっぱ嫌いだ。

 

「気が狂った大佐さん。聞くけど……前回イーストに来た時デートだって言って、俺の書いて来た『報告書』無視したよな!好きな奴が居て他の女とデートか?俺は、人間的にそう言う奴はすかねーんだよ。」

「確かにそう言ったが……その日、真っ直ぐ家に帰ったよ。」

 

 

コイツ……馬鹿??

 

 

何考えてんの???

 

 

俺が徹夜で仕上げた『報告書』読まずに帰ったって!?

 

 

「フザケンナ…フザケンナ……フザケンナ!テメー俺を馬鹿にしてるんか!!」

「馬鹿にしていない。そう言えば君が少しは私の事を気に掛けてくれるかと思って実行したまでだ。」

「人が徹夜して書いた『報告書』なんだと思ってるんだ!軍ってのは上官が下官にそう言う事していいんかよ!!」

 

切なそうな顔するな!!

切ないのは無視された『報告書』だ!!

で、書いたのは俺!!

涙チョチョ切れるわっ!!!

 

「その件は謝る。しかし、君には逆効果みたいだったな。だから、非番の今日、エドを呼び出し君の本心を探る為一緒に行動させてもらった。」

 

テメーの錬金術でテメー自身『消し炭』になれアホ!

 

俺は、復興作業中の忙しい時間を割いて『報告書』提出しに来たんだぞ!!!

クダラナイ…くだらな過ぎる。

怒りMAX激力入ってるよっ。

顔を見るのもアホらしい。俺は、大佐の顔から視線を逸らせ怒りを静める。

 

「大佐のジャレ事に付き合う気はねーよ。」

 

俺……限界。

 

「悪いけど俺、大佐の冗談に付き合う気はねーんだ。」

 

俺は、トランクと赤いコートが置いてあるリビングに行こうと、大佐の横をすり抜け、キッチンの出口迄行った。で、大佐を睨みつけた。

 

「今日1日色々ありがとーよっ。これで帰らせてもらうから。」

 

 

これ以上話す事は無い!っていうか、話す必要も無い!!

 

顔も見たくないし、声聞くのもウザイ。

 

 

廊下に出てズカズカとリビングに歩き出した。足音にも『怒り』がこもってますよ。

 

だいたい好きな奴がいるのに他のヤツに手を出すか?

そもそも好きならそいつの事大事にしないか?

 

……それとも大佐は『好きな子はイジメたくなって!!』タイプの男か?

 

好きだったら俺に優しくしてみろ!!

何時も嫌味タラタラタラタラタラタラ……。

もう十分だ!これ以上俺の心に入ってくんな。

こう言う冗談が通じるほど余裕がねーんだよ。

これ以上俺に近づくなよ。

 

 

……もう……大切な人が居なくなるのも、傷つくのも嫌なんだ。

 

 

 

だから…俺は1人で良い。

 

アルを元に戻すのが俺の『使命』だから、それだけだから…。

 

 

 

―――仲間なんて要らない。 ……頼るのは自分だけ。

 

―――心を許しちゃいけない。……必ず別れが来るから。

 

―――感情を持っちゃいけない。……その方が心が痛くないから。

 

 

 

あの日、『銀時計』を貰ったあの夜、俺はそんな事誓ったんだ。 だからほっといてくれ!

 

 

 

 

リビングに向かっていた足は止まっていた。大佐の冗談が『ヘビー』過ぎたから、大佐の身体の温かさがまだ残っているから…。

俺は廊下の壁に寄り掛かって両手で口を塞いだ。

 

泣きたくなんて無かった。

でも、大佐の事を認識してしまったから、この感情は何て言うか知らないけど寂しくなった。

怒りが急激に冷めたとたん喪失感が一気に押し寄せてきて、足の力が抜けズルズルと床にしゃがみ込んだ。

 

 

 

 

 

ふわりと俺を包み込む腕があった。

この家に居るのは大佐しか居ない。

優しく…でもキツク後ろから俺を抱きしめる大佐の腕は、小刻みに震えていた。

 

「すまなかった、私が急性過ぎた。エドが、他人と微妙に距離を取っている事は知っていた。だが、時々見せる君の表情が…幸せそうに静かに笑っているエドの顔がもっと見たかった。」

 

大佐の声は、俺の右耳から囁く様にでも、ダイレクトに俺の頭の中身を刺激した。

ただただ、声を殺して泣く俺には返す言葉なんて無かったけど…。

 

「私の本気を『冗談』で片付けないで欲しい。」

 

大佐の声も震えている。

 

「私の気持ちを押し付けるつもりは無い。だが、冗談で片付けないでくれ。真剣なんだ…本気なんだ。私の気持ちが受け入れられないのなら諦められる…諦める。しかし、冗談で交わされれば私も先に進めない。」

「俺が……仮に、大佐の気持ちに答えたとして、それでどうなる訳?何時かは離れて行くんだ、必ず関係に終わりが来る。辛い思いをするなら始めから離れて居たほうが良い。」

 

 

 

今なら間に合う。大佐の優しさや、温かさが俺の身体を支配する前なら…。

 

 

「……それが君の考えか?」

 

大佐の声が硬い。怒り?哀しみ?

 

 

……怖いくらいの声の響き。

 

 

「何時か別れるから人と接しない。深く付き合わない……君は馬鹿だ。」

「ばっ…!!」

「あぁ、馬鹿だ。可哀相なくらい馬鹿な子だ。」

「馬鹿馬鹿言うな!本当に馬鹿になった気がする!!」

 

後ろから抱きしめている大佐は、喉の奥で笑いを堪えている。でも、身体がくっ付いてるからダイレクトに笑いが伝わってくる。

 

「笑うな!!ってゆーか、何で俺が馬鹿なんだよ!!」

「これからゆっくり解かるよ。エドは生き急いでいるんだ、だから極論の答えを出す。」

「はぁ??言ってる意味がわかんねーよ!?」

「エドの本心は…君の左腕が示している。」

 

………??

 

左腕って…左腕に口が出てきて『ヤッホー』とでも言うのか?

そしたら、顔の口が『ヤッホー』とでも言い返すのか?

 

……ワカンネー???

 

「自分の左腕を見てごらん。」

 

見ろって?何がだよ……。

 

俺の左手大佐の腕掴んでるし。

 

 

『1本背負い』スタンバイOK!!

 

 

これが俺の気持ち??

 

「大佐の腕掴んでるな。どこが俺の気持ちなんだ?」

「何故私の腕を解かない?」

「投げ技を繰り出す為とか…?」

「……違うと思うが。」

 

男2人が床でしゃがみ込んでくっ付いている姿は『マヌケ』だと思う。だから、大佐に『話すんだったらリビングで!!』宣言をし、取り合えずリビングのソファーに移動した。

 

けど、何で大佐が隣りに座ってるわけ?俺の目の前に空いたソファーがあるじゃん。

 

 

 

「エドと話しをして解かったよ。…エド『等価交換』をしよう。」

「あんたの言ってる意味の半分もわかんねーよ。」

「単純な話しだ。私はエドの心に触れたい。…エドにとって等価は何だ?」

「俺の心の等価?」

「そうだ。私を仲間以上に受け入れてくれる為にはエドは何が欲しい?」

「欲しい物?…文献とかって言う事か?」

「違う。私にして欲しい事だ。」

 

俺の心が大佐を受け入れる為に必要な事??

俺は、目を瞑って考えた。

 

…俺が絶対して欲しく無い事をしないヤツ。それが絶対条件!!

 

「俺の…欲しい物は、『俺の為に不幸にならない自分を持っているヤツ』『俺の為に傷つかない強いヤツ。』。それと……『俺の前からいきなり消えないヤツ』。」

「消える?」

「…………これ以上置いて行かれる苦しみは入らない。」

 

だから…人と深く関わりたくない。

 

……何時か別れが来るなら。

 

「解かった。……等価交換成立だ。」

「……………!?!?!?!?」

「私はエドを逃がす気は無い。君がいくら逃げても追い掛ける。物理的ではない…精神的な話しだ。だから、エドからは離れない。必ず捕まえる。」

「さっき諦めるって…。」

「エドが私を受け入れられない時の話しだ。しかし、先ほどの話でエドの心を少し掴めた。エドは馬鹿だから…私から捕まえに行く。」

 

 

馬鹿発言2度目…!

何を根拠に馬鹿呼ばわりするかこの無能。

 

 

でも、俺の心は小さな温かさがある。馬鹿呼ばわりされても怒る気はいつもの半分にも満たない。

大佐の優しい顔が俺だけを見ている。信用して良いんだろうか?

 

「……俺、自分の気持ちよくわかんねーよ?」

「急ぐ事は無い。私に対するその思いを『焦らず』『迷わず』正面から見詰めて考えてくれれば。今は、私をどんな形でも受け入れてくれれば良い。」

 

やっぱコイツは『大人』なんだと心底思った。

 

そして、1つ解かった。

 

 

―――俺は……大佐の心を知りたい。

 

 

「解かった。等価交換成立なんだな?」

 

成立したから何が起きるわけでもないが…俺の心が少し軽くなり大きな溜め息を吐いた。緊張の糸が途切れたせいか、急激な睡魔が訪れる。眠気を払う為に数度頭を振るが、眠気はいっこうになくならない。

考えてみれば俺って寝不足じゃん。目を開けるのOUTだよ。

 

「寝なさい、明日は早い。」

 

腕を引っ張られて寝転んだ先にある枕は『大佐の足』。

かなり恥ずかしいけど、どうでも良いや。泣き顔見られたし、今更だ。

 

「明日の…朝、珈琲入れ…るから……トーストよろしく…。」

 

ふわふわと温かい感覚に包まれながら俺は目を閉じた。

 

 

 

 

 

夜の記憶はここまで……。

 

 

 

 

だけど、何だか凄く幸せな夢を見た。

 

……気がした。