Intersection of Spirits 【魂の交差】 第二章 |
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『エド。私は真剣なんだ、君を愛しているんだ。』 『ウゼエ!!気持ち悪りーんだよ。俺はアンタの事嫌いなんだ!ふざけるのもいい加減にしろ!!』 ズキッ!ズキッ!ズキッ!ズキッ!! 俺は、大佐に対して酷い言い方をしたんだろう。 胸を抉る様な痛みは、大佐が残して行った『心』から来る痛みだ。 『焦り』 『寂しさ』 『悲しみ』 ……俺の心は『痛み』に苦しさを感じた。これほど切ない気持ちは経験がない。 ……母さんを亡くした時とは違う『痛み』を俺は感じて胸を押さえた。 あの時アイツは『涼しい顔』をして笑っていた。その事が余計に『俺をからかっている』と勘違いした。 ……どれほど『想い』が真剣だったか、どれほど大佐の『愛』が深い物だったのか。 ロイ・マスタングと言う人物の心に触れて始めて知った。 『俺自身』への感情。 俺がアイツを想うより、もっと深い大きな『情』がそこに有った。 寝ていたのは10分程度だった。 ゆっくり目を開けた俺の前に、西日に照らされたオレンジ色の室内が映る。 ゴメン ………謝っても、謝っても、謝っても。 あの時の事は、許してもらえない程の傷を与えてしまった。 でも、これから……俺自身がその『傷』を癒すから……許してほしい。 そんな事を思いながら俺はアルに連絡をとる為、人気の少ない電話を探した。 司令室内に有るのは知っているが、そこで電話をする訳にはいかないから。 電話交換士に席を外してもらって、大佐を入院させた病院に電話を掛けそこに居るはずのアルに電話を繋いでもらう。 病院に居るアルは、少し慌てた様子で電話口に現れた。 『兄さん!良かった!!』 「どうした?何か有ったのか?」 『…うん。大佐が暴れて大変だったんだよ。』 「暴れる?」 アルが梃子摺る程の『暴れ方』て何が有ったのか?俺は、アルに聞きなおした。 「暴れるって何が有ったんだ?」 『あっ………。……大佐、ここ人目が有るから兄さんって言うね。兄さんが起きたのは昼過ぎなんだけど、始めは落着いていたんだ。……でも、自分の姿を鏡で見たらイキナリ暴れ始めて。』 「自分の姿を見てって…記憶が戻ったのか?」 『そうじゃ無いんだよ。自分の姿を見て『嫌だ』とか『嫌いだ』とか…兎に角、鏡とかガラスとか、自分が映る物総て壊しちゃって大変だったんだ。』 「………今は?」 『うん。医者を呼んで注射打ってもらって寝ている。……兄さ…大佐、大丈夫?』 「……何が?」 『……何でも無い。僕、兄さんの所に行くね。』 「あぁ…頼む。」 『自分の姿を見て『嫌だ』とか『嫌いだ』とか…。』 アルに心配を掛けたくなかったから、さっきは解からないフリをしたけど実際はかなり堪えた。 『俺の姿を見て嫌悪感を示した。』 それは、大佐が俺に移動した時、僅かながら記憶を持って行ったんだろう。その中に『俺に拒絶される自分』の一部が含まれていて…又傷付くのが嫌なのか、それとも、俺自身に嫌悪しているのか。 どっちにしても、俺が招いた結果だった。 俺は大佐の『姿』をガラスに写して見て見る。 確かに違和感はある。 だけど『嫌悪感』は無い。それは、大佐が俺に辛辣な言葉を言っても、それは俺を『傷付ける』言葉じゃなくて『気に掛ける』言葉だった。 だから俺は大佐に『嫌悪感』を抱かない。 俺は、大佐に嫌って程『傷付ける』言葉を吐いた。子供だから…とか、信じられなかったでは許されない『言霊』を吐いたのだ。 もう…許してもらう事は出来ないかもしれない。 やり直す事は出来ないかもしれない。 俺は切ない気持ちが込み上げ、自分がやってしまった事に今更ながら後悔する。 でも、実際は時が動いていて。 沈む気持ちを振り切り、もう一度仕事場に戻る為俺はその場を離れた。 少し歩いた時、交換士の人が俺に声を掛けて来た。 「マスタング大佐。軍付属病院からお電話です。どうなされますか?」 「病院?」 俺は慌てて電話口に飛び付いた。 「はい、マスタングです。」 その電話は『エドワード・エルリック』が錬金術を用いて病院から逃げ出した。と言う連絡だった。 アルに詳しい話を聞いた俺は、急ぎ司令室へと飛び込んだ。 「中尉!ハボック、ファルマン、ブレダ、フュリー!街内地図を用意しここへ来てくれ!!」 俺は、軍部の皆の力を借り『エドワード・エルリック』の捜査をする事にした。 「鋼のが病院から逃げ出した。彼は現在記憶を失っている、何をするか解からない状態だ。至急捜してくれ。ファルマン!病院から半径2.5kmを完全封鎖。ねずみ1匹通すな!」 「Yes, sir!」 俺は地図に赤いペンで印を付けながら話しを進める。 「ハボック、ブレダは、各一小隊を率いてAブロック・Bブロックを捜索!」 「「Yes, sir!」」 「中尉は二小隊を率いてC・Dブロックの捜査。ハボック、ブレダは中尉のサポートを兼務しろ!フュリーはここに残り『各チーム』との無線担当!」 「「Yes, sir!」」 一間を置いてそこに集まる部下達を見まわした。 総てを話す訳には行かないけど、皆を守る為今回の事を話し始める。 「良く聞いて欲しい。…鋼は記憶を無くしている上、『鋼の錬金術師』としての能力と『焔の錬金術師』としての能力も持っている。」 皆、一応に言葉を失っている。 「私自身一部の記憶を失っている。その内の1つが『錬金術師』としての記憶だ。何故そうなったのかを今の段階で説明するのは難しい…私もまだ記憶が戻らないからな。ただ、鋼のが『焔』を使える事はアルフォンス君から電話で聞いて解かった。……深追いはするな!見付次第私に連絡しろ!!」 驚きを隠さない皆を再度ゆっくり見回し、俺は言葉を続けた。 「万が一、部隊の身に危険を感じたら……『発砲許可』を出せ。殺すなよ!右足を狙え!!」 「……大佐。宜しいのですか?」 中尉が何時ものポーカーフェイスを崩し、俺の顔を見た。 「……死なない程度に発砲すれば良い。あと中尉、この件に関して住民に『緘口令』を敷いてくれ!」 「…Yes, sir.大佐は…どうなされるのですか?」 「アルフォンス君と合流後、フュリーに連絡を入れる。」 皆は俺に聞きたい事が沢山有ったはずだ。だけど、何も言わず指示された持ち場に行ってくれた。 大佐が築いてきた『信頼関係』。 俺の知らない『ロイ・マスタング』の一面を知って…騙している『軍の皆』の事を思って、俺は罪悪の念と感謝の気持ちを胸にアルの元に向かった。 俺が病院に行った時には、アルは病院外の階段で待って居てくれた。さっき、電話で概要は聞いたけど確認したい事も有ったから、アルに再度質問をした。 「アル、もう一度聞くぞ!大佐は『焔の錬金術』を使ったんだな!」 「うん。そうだよ……。大佐、兄さんの身体なんだけど、右腕の『機械鎧』が動かないんだ。それで油断して……。」 「『油断』?何か有ったのか?」 アルは言葉を濁し始める。 兎に角、俺の『推論』はある程度当たっていた。 −−−『錬金術師』としての記憶を俺の身体に置いて来ている。 そして、大佐は、『錬金術師』の記憶だけ持って行った。 俺は、少しずつ今回の事を理解し始めていた。 考え込む俺の前に、黒い軍事車両が急停車する。 「大佐!こちらにいらっしゃったんですね!!」 車から飛び降りる様に現れたのはホークアイ中尉だ。 「中尉……持ち場を離れてどうした?」 「申し訳ありません。ですが、至急連絡しなければならない事がありまして。」 俺は、アルの顔を見て中尉に顔を向き直すと、中尉は話しをし始めた。 「先程、Aブロック内の宝石店で強盗が押し入りました。犯人らしき人物は『金髪の少年』。『火の錬金術』で店内に押し入り商品の一部を強奪、逃走したと連絡がありました。」 「大…鋼のが宝石泥棒……。」 解かり掛けてきた今回の事が、俺の予想を裏切り先に進んで行く。 アルとの話しをそこそこに、中尉が運転する車に同乗し被害に遭った宝石店に急行した。 押し入られた店内は、一部焔に巻かれて煤塗れだった。床に散らばる宝石は、ネックレスにピアス、腕時計。 一部炭化している物も有った。 「兄さ…大佐、この被害請求書って誰宛に来るんだろうね。」 小声で話し掛けるアルの質問に気が重くなり、大きな溜め息が出てしまった。 そして、何気なく店内を見渡した俺は、何か不に落ち無い感覚を得た。それが何か考えている時に、中尉が声を掛けて来た。 「大佐!今度はここから1.3km程離れた『宝石店』で強盗事件発生。……火を使っての押し込みと連絡がありました。」 「また…宝石店。」 アイツは何をしたがって居るのか全く解からなかったが、兎に角次の現場に移動する事にする。 そして、次に被害が有った宝石店に入って直ぐ俺は有る事に気が付いた。 煤けた室内…… 散らばる宝石……。 だけど…… だけど……何かが足りない。 その時、俺の頭の中に『グワン!』っと圧力が掛かり目に前が真っ暗になった。 慌てて片膝を着き床に倒れるのを堪えた時、頭の中で夕方近くに見た『記憶の部屋』が現れる。 さっきは『ロイ・マスタング』の記憶だったけど、今度は『エドワード・エルリック』の記憶。 それも、あの夜の出来事が断片的に映し出された。 −−−あの廃墟と化した倉庫の中に描かれた『練成陣』。 練成陣の中央で、俺は大佐と床に膝立ちの状態で向かい合っている。 俺の両手を大佐が握っていて…大佐の顔が近付いて、逃げ腰になる俺の額と大佐の額が合わさる。 俺の視界には床に描かれた『練成陣』と大佐の『軍服』。 そして…聞こえて来たのは甘い大佐の声。 『この練成は二人の愛を誓う神聖な行為。まるで結婚する夫婦が最初に行う『共同作業』みたいなものだな。』 『何言ってんだろう?この『呪われた口』!! 恥ずかしい事をサラッて言うなよ。』 『では、エドはどう思っているんだ?』 『あっ……っと兎に角、さっさとやるならやっちまおう!』 悪態を付く俺を、喉の奥で笑いながらサポートしている大佐。 ほんの一瞬の時間で、俺の脳に叩き込まれた様に情報が映し出される。 あの時、俺は大佐と何をしようとしていたのかは解からないが、ホンの少しの記憶が俺に甦って来た。 「大佐!大丈夫ですか?」 片膝を着いている俺を見て、中尉は心配そうに駆け寄って来た。 「大丈夫だ。それより、何か有ったのか?」 「はい……エドワード君らしき人物が発見されたと報告が有りました。」 「よし、場所は?」 「ここから1km先、『B・Dブロックの境辺りの路地』との報告です。」 俺は膝に力を入れて立ち上がり、アルの所まで行った。 「見付かったらしい。先回りする。中尉、 車を。」 「大至急!」 俺とアル、それと中尉が乗った車は、『エドワード』が発見された場所から最も近い『宝石店』に向かって移動した。 −−−アイツの目的は……宝石。 金の為ではなく何かを得様と足掻いている。 だから、必ず俺が捕まえて……もう一度あの場所で『練成』を行う! 移動する車の中で、俺はあの時の僅かな記憶に思いを馳せた。 |