Principal 

 

 

 

 

 

 一瞬見せた泣き顔の変わりに、奥歯を食い縛り睨み上げる金瞳は、真っ直ぐで持てる全てを出しロイを見上げる。それは、自分の為だけでは無く『弟』の為だけに戦っているような……。そう表現するに相応しいエドワードだ。

 ロイはそんなエドワードを見て苦笑いを浮かべた。いや、正確にはロイ自身を客観的に見て苦笑いしてしまった。

 

エドワードが、

 

『……何で?……何でアンタは、そこまで俺達を構うんだ?』

 

と聞くが、それを知りたいのはロイ自身だ。

 

――― 何故見ず知らずの少年達を保護し様などと考えたのだろう?

 

つくづく不思議で成らない。

 

 

 ロイは女性にモテる。

かなりの知名度と財産を持つ為、望まざる人物達がロイへと靡く。中には恋人気取りでロイに色々と貢がせ様とあれこれ注文してくる女達も居た。

ロイはそれを苦ともせず買い与えている。高級ブランドの服だろうがバックだろうが、ネックレスだろうが指輪だろうが……。

欲しいと言えば与える。逆に言ってしまえば欲しいと言わなければ何も買わない。横に居る女性がロイの買い与えた服を着ようが指輪を左薬指へと勝手に納め様が『どうでも良い』のだ。偽りの言葉と笑顔を向ければ、女達は喜ぶ。

 

――― 何て馬鹿らしい事だ。

 

そんな日常の中でロイは恋愛に対する考え方が変わって行った。

 

――― 冷めた感情。

 

全てそれで片付く程、ロイはその女性達に興味が無いのだ。女性が嫌いな訳では無い。むしろ好きだろう。

しかし所詮、雑誌かテレビでロイを観た女性が、高級ブティックに並べてある商品と同列に自分を欲している。そう解かっているからこそ真剣に付き合う気にも成れなければ、興味も湧かない。

 

そんな自分が何故自ら進んで洋服や靴を買い与えたのだろう?

照れ隠しの様に怒り睨み上げた兄と、すまなそうに頭を下げ、嬉しさの余り顔が綻んだ弟。その顔を見た時、自分が遣ろうとして居る事は正しいと肯定出来た。

 

 何故そんな気持ちに成ったのかは理屈じゃないのだろう。『昔借りた恩』を口に出したが、実際はそれとはまた違う。恩ならば、ここ迄遣る事は無いだろう。

 

 

 今だにロイを睨み上げるエドワードのまだ幼さが残る頬へと手を添えた。

驚き目を零れんばかりに開くエドワードの肩に掛かった金糸を掬い指先で遊ぶ。

 

『愛しい』と思う。『傍に置きたい』と思う。『護りたい』と思う。

 

 

『誰よりも幸せに成って欲しい』と思う。

 

 

 ロイは、僅かの時間傍に居ただけの少年に溺れている自分が滑稽で仕方が無い。

しかし、この感情を『恋愛』かと問われれば『No』とキッパリ答えるだろう。どちらかと言えば『親子の愛情』に似て居るのかもしれない。

 

 

 イキナリ頬を撫でられ、髪を遊ばれたエドワードは、どう反応すれば良いのか解からないで居る。そんな子供の行動が可愛くクスリと笑えば、ムキに成って更に睨むエドワードが愛しい。

 

髪から手を離し、もう一度頬に手を添えたロイは、エドワードに優しく蕩ける様な視線を向けた。

 

「何故………だろうな。私も解からない。ただ、放っては置けないんだ。」

「同情なら…………優しくなんてするな。」

 

困った様な切ない様な……、そんな声と瞳がロイに向きそして逸らされる。

 

小さく息を吐き緊迫した空間の居心地から逃れ様とエドワードが一歩後退した時、背にしていた扉からアルフォンスの声が掛かった。

 

「お風呂有り難うございました。………兄さん?」

 

驚いた様に身を固めたが、直ぐにそれを解き優しい笑顔を作りアルフォンスへと顔を向けるエドワード。ロイは、そんなエドワードの肩をポンと叩き、

 

「では、明日9時出発だ。」

 

と声を掛けると扉へと歩き出した。

そして、扉の横で室内の空気に首を傾げて居た少年が小さく頭を下げたのを見て、ロイは、アルフォンスの頭に手を乗せ笑い掛ける。

 

「ゆっくりお休み。」

 

そう言って挨拶をした。

 

 

 

エドワードとアルフォンスは、廊下を歩いていく大人の背中を挨拶も忘れ、暫らく黙って見詰めて居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実際子供達は良く働いた。

劇場に携わる雑用をこなし、時間の合間を見て買い出しをして家事をこなす。文句を言わず淡々と、そして着実に仕事を進める子供達に、大人達は何時しか心を奪われていった。

 

 ……そして、ある事に気付いた。

 

 中日を過ぎた頃、子供達の性格を掴み始めた大人達は口を揃えてこう言った。

 

 

『剣と鎧の兄弟』

 

 

 年少者の弟は、何時もその表情を崩す事無く笑みを浮かべている。優等生タイプの弟アルフォンスは、人当たりも良く謙虚で慇懃。穏やかな性格を前面に出し大人達が困る事無くその場に馴染んで行く。

 しかしそれは『良い子』を演じているに過ぎないとヒューズは言った。苦しくても辛くても…変わることが無い。子供ならば当たり前の様に口に出す『小さな我が侭』…それでさえ心にしまい込む。喉が乾いても、汗を掻き気持ち悪いと感じても、人込みで酔っても決してその笑みを絶やす事が無い。

 

 

『微笑みの鎧を装着した少年。』

 

 

であった。

それは、彼の処世術でしかない。幼いアルフォンスが『良い子』を演じ自分の身を守って来たのだ。出来るだけ争いを起こさない、目立たない。そうやって生きて来たからに過ぎ無いのだ。

 

 

 初日、大道具を担当するハボックが、アルフォンスに声を掛ける。

 

『アル、昼飯食いに行くぞ!』

 

アルフォンスはこう答えた。

 

『僕はまだお腹が空いていないので良いです、有り難うございました。』

 

そして音響担当のフュリーが洗面所でアルフォンスの姿を見付ける。蛇口に口を付け、お腹を満たす為水を飲み続ける姿を……。

その日の夕方、舞台を終えたロイがアルフォンス一言声を掛け、それ以来きちんと食事を摂取した。

 

 

 

 一方年長者の兄は、決して懐く事の無い『手負いの獣』だ。鋭い眼光を年上だろうと構わず向ける。無頼で喧嘩早く何時も何かしらのトラブルに巻き込まれる。どちらかと言えば、兄であるエドワードの方が『我が侭』な様に見えるが『実際はそうでは無い』と、ダンサーのリザは言う。

 エドワードが巻き込まれたトラブルには、全て弟が絡んでいる。それを真っ向から引き受け戦ったのがエドワードだ。トラブルの中には、エドワードからすれば理不尽な理由も有る。ロイと同じ屋根の下に住んでいることを僻む一部のFanがアルフォンスに突っ掛かった事が有ったのだ。建物裏に呼び出された弟の変わりに殴打されたのはエドワードで、その傷さえも理由をガンとして大人達に話さなかった。

 

『誰も信用してはイケナイ』

『誰も頼ってはイケナイ』

 

 

――― 頼れる物は唯一つ

 

     自分の身のみ!

 

 

他人と戦い、傷付き……また信用を無くす。その悪循環。

弟を護る事全てに意識を向け、自分の傷を認め様ともしない。

 

 

弟を護る剣……『諸刃の剣』

 

 

 深い事情は知らないが、年端もいかない子供達に何か重い過去が有る事は、彼らを取り巻く大人達は察した。そして誰かが口に出した訳でもないが皆の気持ちは同じだった。

 

 

この兄弟が幸せに成るように……。

 

 

 

声を掛け、笑い、食事を摂り、肩を叩く。

仲間なら当たり前の態度で少年達に接していれば、何時しかこの兄弟はほんの少しだけ年相応の笑顔を照れながら見せるようになった。

 

 

 毎日少しずつ良い方向に変わっていく兄弟を、ロイは満足そうに見詰め、そして千秋楽の日に決心した。

 

 

 

「ヒューズ、私の考えは愚かだと思うか?」

「何だよ、イキナリ?」

 

打ち上げ会場でグラスを片手に呟くロイに、ヒューズは少し酔った頬を見せロイに眉を顰め視線を返す。

 

「あの二人の少年を引き取ろうと思う。」

「エドとアルをか!?」

「私は『良い父親』に成れないだろうか?」

 

ヒューズに向けた黒瞳は、同情や雰囲気に流された物ではなく、静かに穏やかな夜の海に似た色合いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん、ここへ勝手に入って良いいの?」

「…良いわけ無いだろう!?でも、誰にも気付かれなきゃ良いんだ!!」

「……そうかなぁ?」

「俺が『そうだ』って言えば、そうなんだよっ!」

「……身勝手………」

 

 先程まで華やかだったステージは、ライトが落され水を打ったような静けさに包まれている。舞台装置の撤収は明日からで、今はその余韻に会場全ての物が浸っている状態だ。

 

 エドワードとアルフォンスは、打ち上げ会場を脱け出してステージへと駆け上る。履いていたスニーカーを脱ぎ捨てて非常灯のみのステージセンターへ立てば、先程までの興奮がありありと思い浮かべる事が出来た。

 

「凄かったね、マスタングさん!」

「……まぁ、あんなもんだろう。」

「素直じゃないんだから〜…」

 

 

 

 

 

 会場までの時間を雑用として忙しく動いていた二人だが、いざ舞台で演目が開始されればステージ袖の隅から舞台上を見詰めて居た。

特にエドワードは本来彼が持つ集中力の高さで、傍で声を掛けて来た大人達に気付く様子もない。その稀な金瞳で追うのは唯一人……

 

ロイ=マスタング

 

ポール・ド・ブラは勿論、マイムから全てを逃さず見詰めて居た。

 舞台で踊っていたロイもこの事には気付いて居た。アレほどまでに熱い視線を寄越すのはFanでも早々居ない。勿論、彼が寄越す視線の意味がFanと同じではない事も解かっている。

現にエドワードは、中日を過ぎた辺りから舞台に流れる曲に合わせてロイと全く同じタイミングでマイムを小さく行なって居た。……無自覚であろうその行為。

 

その話を聞いたヒューズは、上演中の僅かに空いた時間を縫ってエドワードを盗み見る為に近付いた事がある。

 

「天才ってのは……結構粗末に扱われているもんだな……」

 

近くで同じくエドワードを見て居た振り付けしファルマンに同意を求めたのだった。

 

 

 

 

「兄さん、さっきマスタングさんが踊っていた最終章『遣って見せて』よ!」

「アルも覚えているだろう?」

「うん〜、…うる覚えの所が……」

「何処が?」

「ニンフに振られて……えっと……こう?」

 

アルフォンスは、舞台上でエドワードに確認を摂りつつ踊ってみる。訂正箇所があれば、エドワードがこまめに直し先へと促す。そうやって踊りを完成させて行けば、アルフォンスの踊りは『繊細』ながらもその長い四肢を十分に生かした『ダイナミック』で『優雅』な表現力を遺憾無く発揮し始めた。

 

どの位の時間を費やしただろう?アルフォンスが着て居たシャツが肌に纏わり付く頃、肩で大きく息を吐いたアルフォンスが、舞台下で踊りを見詰めて居たエドワードに話し掛けた。

 

「ねえ、兄さんも踊ってよ!」

「俺?何を。」

「う〜ん……、アレ見たいなぁ。」

「あれ?って何だよ。」

「『母さんの踊り』!」

「………アルも好きだなぁ、あの踊り。」

 

人前では余り見せない満面の笑みをエドワードに向け声を張るアルは、肯定の返答をする。苦笑いを浮かべるエドワードは、渋々とステージへと登りアルフォンスに笑い返した。

 

「本来『母さんの踊り』は、女性パートだぞ?俺が踊れば気持ち悪いだろう!?」

「そんな事無いよ!兄さんの踊りは『綺麗』だもん!!」

「男に『綺麗』は……頂けないぞ。」

 

そう言って、舞台センター辺りで立ったエドワードは、大きく息を吐く。そして、瞳を閉じ俯き、暫らく身動きを止めたかと思えば、ゆっくりとその顔を上げた。

 

――― 悲しみの表情

 

何処か虚ろでひっそりと立つ姿は、人外を超えた存在に見える。踊り出したその姿も、人としての重さも生気も感じさせない。

 

『ウィリ』

 

ジゼルの第二章……、ジゼルの霊が呼び出され、ウィリとなって踊るシーンだ。この踊りは、母トリシャが『十八番』としていた踊りで、『妖精トリシャ』もここから生まれた名前だ。それほどまでに軽く、ウィリを表す事が出来る者は今まで居なかったし、これからもこの世界に存在しないだろうと言われた程だった。

 

 

 

 

「……凄いわね。」

「おや?君の目にもそう見えるかい?」

「ええ、駆け引き無しで圧巻だわ。」

「確かにスゲーな……」

 

 会場に居ない二人の子供を捜したロイ・ホークアイ・ハボック・ヒューズ・アームストロングは、会場内に居る事を『広報担当』のブレダに聞き、そっと会場内に足を踏み入れた。そこで見たモノは、アルフォンスがエドワードに説明を受けながら『牧師の午後』を踊っている姿だった。

 その時も驚きを隠せなかった。確かアルフォンスは『十四歳』な筈だ!

 しかし、その踊りの見事さはその粋を抜き出ている。エドワードの噂はロイから聴いて居たメンバーだったが、その弟もこれだけの能力者だったとは、気付きもし無かった。

 

 そして今、噂に聞いたエドワードが舞台で踊っている。母『妖精トリシャ』さながらの踊りは、鳥肌を覚える程美しく、恐ろしさすら感じる。指先一つからその視線まで、全てが『結婚を前に死んだ若い娘の亡霊…ウィリ(妖精)』の悲しみと艶を大胆に表し、その踊りを完成度の近い物にしていた。

 

「……スゲー…なんて言葉じゃ失礼だな。」

「我が輩も『トリシャ』のジゼルは何回も観させて頂いたが……、感無量……。」

「…所で、このまま踊れば『アルブレヒトとのパ・ド・ドゥ』よね。」

「確かに……」

「どうするんすかね?」

 

客席の奥で舞台を観て居た大人達は、この後踊る筈の二人での踊りをエドワードがどう踊るか考えてしまった。

 

「……やっぱ…止めるだろう?」

「勿体無いわね…」

「ならば、アルブレヒトが登場すれば良い話しだ。」

 

ロイは口角を上げ含みの在る笑いを皆に送れば、隠れて居た場所から立ち上がり舞台袖へと足を向けた。

 

 

 

 舞台の袖口に近い所で兄の踊りを見ていたアルフォンスは、自分の横に立った人の気配を感じ取った。そこに視線を移せば、ここ一週間見慣れた大人の顔がある。驚き一歩退けば、優しい眼差しの大人はアルフォンスに微笑み掛けた。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい。もうしません……許して下さい。ごめんなさい、ごめんなさい………」

 

 ガバリと音が聞こえそうな程勢い良く頭を深く下げたアルフォンスは、震える声を隠す事が出来ないのか何度も何度もロイに謝る。両手を握り締め、何時までも顔を上げずに謝るアルフォンスを、ロイは微笑んでいた表情を曇らせ目を細め静かに観察した。

 

 

 先程自分を見た時の表情は『驚愕』と『恐怖』だった。

その理由は明らかではないが、アルフォンスらしからぬ態度が胸に痛みを生み出した。この少年が『大人』に対し、何らかの恐怖を持っている事は知っている。何時も微笑を絶やさない理由や優等生的な行動は、自分を傷付けない為の『鎧』だとも知っている。

 今、この少年が一週間共に暮らした大人に『恐怖』の内心をあからさまに示したのだ。

 

――― 何に対 して『恐怖』を感じているのか?

   確かに会って日は短いが、共に行動した時間は長い筈だが、まだ『信用』されていないのか?

 

 

  過去に何が在ったのか?

 

 

暫し考えたロイは、それがこの会場に無断で入り込んだ事だと理解した時、せつなさと遣る瀬無さを感じた。この少年を深く理解しなければ助け出す事が出来ない『深い森』。その中で少年は永い時を歩き続けて来たのだろう。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……許して…下さい。悪いのは僕です…兄さんは何の関係も無いんです。だから…だから……」

 

腰を下げ頭を下げたままのアルフォンスに目線を合わせる為肩に手を掛け身体を起こしたロイは、歯を食い縛り泣きそうなまでに顔を歪めたアルフォンスにもう一度優しく微笑んだ。

 

「何を誤っているだ?」

「――― えっ!?」

「先程は見事な踊りだったね、素敵だったよ。」

「………」

「あの踊りは『牧師の午後』の最終章だね。……ん?」

 

唖然とした顔を見せるアルフォンスにロイは少し首を傾げて見せる。ゆっくりと表情を和らげるアルフォンスは、小さく消え入りそうな声でロイに質問をした。

 

「……殴らないんですか?」

「何故君を『殴る』必要が在るのかい?」

「何故って……」

「逆に私は君に『感謝』したいよ。有り難う。」

「――― !」

 

ロイの言葉に驚きを隠さないアルフォンスの頭を大きな手が優しく撫でる。

 

「私の踊りを観て何かしら感じ取ってくれたから踊ってくれたのだろう?有り難う。」

 

その言葉に首を縦に振り、俯いたアルフォンスの頭を引き寄せ自分の胸へ押し付ける。震える肩を抱え慈悲に似た表情で小さな身体を見れば

 

「スミマセンでした……、スミマセンでした……」

 

と、震える声でロイのシャツの裾を小さく掴み声を発した。

 

「アルフォンス、こんな時はね『スミマセン』では無く『どう致しまして』で良いんだよ。」

 

まだ震えている少年は、顔を上げその顔に微笑を浮かべる。その顔は『優等生アルフォンス』では無く、十四歳の少年『アルフォンス』本来の表情だった。

 ロイの身体から離れたアルフォンスは、舞台で踊っているエドワードに顔を向ける。まるで眩しい物を見たかの様に目を細め、独り言の様に話し始めた。

 

「僕の踊りは兄さんが教えてくれたんです。兄さんは……天才です。『才能』もそうですが『努力』の天才でも在るんです。僕は……才能は無いんです。」

「何故『才能が無い』と決め付ける?あれほど見事に踊って居ただろう?」

「……引き取り先で…言われました。『両親の血を引き継いでいるのは兄だけだ』って。」

 

その言葉に顔を歪めたロイは、アルフォンスからエドワードへと視線を移す。そして続く言葉に驚いた。

 

「兄さんは…あの人達に……、だから爆弾背負って……僕のせいなんです。僕に才能が在ったら………」

「爆弾…?」

 

 

 舞台で何事も無く踊り続けているエドワード。

その踊りを見るのは、月明かりの公園と今回で二回だ。その集中力の高さは相変わらずだが、踊りの見事さも相変わらずだった。前回は男性パートで今回は女性パートの差がある。しかし、弟の言う所ろ『爆弾』が解からない。

確かにシューズを履いていないエドワードは、素足で居る為爪先立ちはしていない。実際背伸びの状態で踊っているのだが、その踊りを遜色させる物では無かった。

幻想的な雰囲気、リズムも踊りに対する解釈もマイムも素晴らしい。弱点をあえて上げるとするなら、年齢から来る荒削りさかもしれない。

 

 顎に手を当て考えるロイをアルフォンスは眉をひそめ見詰めた。その眼差しは、何か含みがあり警戒を露わにして居ると言っても過言ではない。

それに気付いたロイは、アルフォンスに顔を向けた時ステージ上で何か大きな音がした。

 

「兄さん!!」

「エドワード!!」

 

音がした方向を見れば、エドワードが倒れて居る。駆け寄る二人がエドワードの顔を覗けば苦痛に満ちた表情を浮かべ、左足甲を掴み唸り声を上げていた。

 

「兄さん!また足が痛むの!?」

「足!?」

 

エドワードが掴んでいる足を見る為強引にその手をどければ、赤くはれ上がる足が在る。その個所に触れてみてロイは驚きの余り声を失った。

 

「何だ………この足は………」

 

皮膚の下、第一中足骨五本全てが在らぬ方向へと向いている。そしてその形のまま固まっているではないか!!

 

 

この足では歩く事すら痛むだろう。

 

 

「医者へ!」

 

観客席奥から駆け寄って来たリザは、慌てて屋外へと走り始める。しかし、その行動をエドワードは止めた。

 

「医者は駄目だっ!!……頼む、医者だけは…医者だけは止めてくれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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