Straying to an exit

 

 

 

 

あぁ、だから悪かったって!……これも仕事なんだよ。

 

……そりゃ〜確かに、仕事ってより興味本位?

違う違う!!勿論!大将が心配でって……!

 

だ〜か〜ら怒るなって!!

 

しょうがねーだろ?大将がアイツに似てるからほっとく気にならねーんだよ。

 

 

 

 

 

 

5.habit of a hare

 

 

 

 

 

 

 

 サボって俺達を弄り遊んでいた上官は、突如現れた副官にオロオロしながら言い訳をしていた。

……のが40分も前の話。

 

 

 入室して来た少佐の口調と表情から、内容が大将の事と解かるとその表情が一変して直ぐさま『出来る顔』になる辺りがあの人らしい。俺も将軍専用個室に呼ばれ、少佐が午前中出会った出来事を聞かされる。

「やっぱり」と言うべきか?大将は『灯台下暗し』だった訳で、全国を走り回ったアルフォンスと真逆の行動をしていた。

 

「直ぐに『hara』狩の班を編成しろ!私も出る。」

 

窓から入る光を背負い、目を光らせ『カッコイイ男モード』大全開な将軍が指示を出した。しかし、街の女なら一発で伸されるその表情を真正面から受けた少佐は、慣れた目線でこう切り替えした。

 

「昨日の夕方から書類が一枚も減っていないのですが?」

 

息を飲み固まる上官の情けない顔……。

 結局優秀な副官は、一日の休みを半日に切り上げ、軍服に身を包みコッテリ一時間上官を机に縛り付けた。緊急性の高い書類を優先させサインを貰う所が流石と言える!

時折情けない顔の上官は「君は私のgameを邪魔するのか?」と訴えていたが、少佐からは「矢は放ってあります。」と冷たい一言を食らっていた。

 

 

そんな事で車を正面に回し車外で一服させて貰っていれば、本来非番な副官が隙の無い表情で俺の前に表れた。

 

「おや〜?『hunter』はどうしたんすか?」

「あと10分程で登場するわよ。」

 

隙の無い表情が少し崩れ悪戯っ子の表情をちらりと見せる。

東方時代からの紅一点である彼女は、俺達メンバーには無い優れた観察力・射撃能力、そして我が侭な上官の調節・統制を一手に引き受ける。上官が幾ら優れた能力の持ち主とはいえ、彼女無しに今の地位は有り得ねーだろう。そんな高嶺の花の上官が、今日は何時も以上に何かを含んだ表情で俺の前に表れ突然の質問をぶつけて来た。

 

「准佐、一つ聞いて良いかしら?」

「なんすか?」

 

手持ちの寂しい口へと煙草を咥え少佐を見下ろし疑問系な返事を返す。

 

「前、私に聞いたでしょ?『今回の事は仕事ですか?』って。」

「あぁ…、そんな事聞きましたねー。」

「准佐は仕事?それとも個人的な理由?」

 

本当にイキナリの質問に面食らったが、俺が始めに聞いた質問を誤魔化す事も無かったから素直に返す。

 

「仕事…ってーか、『脅迫3割』?」

 

その返答にクスリと笑う少佐が何時もと少し違う感じがすのは俺の思い過ごしか?

 

「では、残り7割は?」

「興味本位?ってーか……色々。」

 

頭をワシワシと掻き、空を見上げ何と説明しようか考えあぐねる。そして、ポツリと昔話をする事になった。

 

「俺の実家、東部の田舎で店開いているんすけどね、……餓鬼の頃、親に内緒で家の天井裏で猫拾って飼ってたんっすよ。すっげー可愛くて…でも見付かっちまいまして。まぁ……親が飼い主見付けて引き取られちまったんですよ。子供ながらに泣きましたね〜。」

「………それが?」

 

少佐も意味が掴めないと首を傾げ話を促す。

 

「少佐も『ブラックハヤテ号』に愛着あるでしょう?俺も今だに有るんすよ…あの子猫に。」

「………?」

「何処となく……似ているんですよ、大将に。ほっとけ無いんすよ〜、何と無く。」

 

普段崩れる事の無いポーカーフェイスがクシャリと歪み、小さく吹き出す少佐。俺もつられる様に乾いた笑いを少佐に返した。

 

「確かに……ほっとけないわね。所で猫さんの名前は?」

「………『チビ』っすよ。」

「!!エドワード君には聞かせられないわ。」

「ハハハ……。」

 

ひとしきり笑いあった後、少佐は普段の表情に戻り「余り顔を動かさないで。」と前置きしてから、目線で司令部からメインストリートへと通じる道に意識を向けさせた。

 

「交差点の所に在る街頭に黒い犬が居るの、ハヤテ号よ。」

「……あぁ、言われれば。良く解かりましたね〜。」

「准佐が言ったでしょ?『愛着』があるのよ。」

「なるほど。で?」

「多分、あの近くにエドワード君が居るのよ。だからああして動かない。」

「……それも『愛着』が成せる業ですか?」

「そうね。」

 

穏やかに笑ってみせる少佐は何時もと違う雰囲気だ。

多分、少佐は今回のgameが終了まじかなのを感じているのだろう。それは大円満を感じているから?それとも?俺は、車のカギを少佐に渡そうと、それをチャリンと鳴らし目の前にぶら下げる。

 

「悪いけど将軍に付き合ってくれる?」

「副官自ら背中を護らないのですか?」

「……仕事が減っていないのよ。」

「ハハハ……、遊んでましたからねー。」

「そう言う事で宜しくお願いできるかしら?」

「喜んで。」

 

そして、司令部の建物に目を遣れば、コートを羽織った上官が足早にこちらへと向かって来る姿が目に映った。『真打ち』登場って所か?

これから起こる事は俺や少佐にはこれ以上手出しが出来る事じゃないだろう。それならば……。

 

「所で少佐、これ終わったら『打ち上げ』やりませんか?」

「二人きりで?」

「まさか!?一番の功労者と一番の被害者を呼ばなきゃヤバイっすよ。」

「功労者と被害者?」

「ブラックハヤテ号とアルフォンスですよ。」

 

フワリと笑う少佐。

 

「何だか健全な『打ち上げ』ね。」

「飲む物飲めば『健全』じゃ無いっすよ。」

「それもそうね、なら、私が場所をセッティングして良いかしら?」

「頼みます。俺、アルに連絡しときます。ブラックハヤテの連絡は頼みましたよ。」

 

そんな戯言を話しながら上官が来るのを待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

出来れば『happy ending』を望むから……

 

 

大将、幸せを俺にも少しお裾分けしてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ迄来れば帰れるだろう?良いな俺行くから。」

 

そう言ってもその場から動かないブラックハヤテ。

俺が立ち去ろうとすれば着いて来てまた連れ戻す堂々巡り。どのくらいこんな事をしているだろう?ハッキリ言って「見つけて下さい!」と言っているようなものだ。

如何したものかと歩道の植え込みに身を隠し大きな溜め息を付いていれば、一台の軍用車が目の前を通過した。一瞬の動体視力で捉えたのは運転するハボック准佐、それと……。

 

――― 何処かへ行くのだろうか?

 

そんな事を考えながら交差点を駅とは逆方向に曲る車を見送った。

ブラックハヤテ号は今だに座り続けたままで司令部へ行こうとしない。それでもここ迄来れば迷子にはならないだろうと決断して、俺は植え込みから身を上げ駅へと続くメインストリートに出る為歩き出した。

 

後から追いかけてくるブラックハヤテ号を意識しながら、それでも意識を切り離し歩むスピードを上げ駆け出す。そんな俺の前にさっき逆方向に曲った車に乗っていたはずのアイツが正面から何食わぬ顔で歩いて来ていた。

 

 

頭の中は一瞬真っ白になる。

 

だけど、今の俺は『黒髪』に『蒼瞳』。何時もと違うストリート系ファッションを身に付けている。幾ら少佐が俺の姿を確認したからと言って髪の色を短時間で変えたんだから分かる事は無いだろう。

だから『知らない軍人』が横を通過するとでもいった雰囲気で将軍の横を駆け抜けた。

 

………駆け抜けた。

 

「それで変装しているつもりか?鋼の。」

「…………!!!」

 

背後から掛かる声に一瞬身を竦ませそうになったが、もしもと言う考えがあったから躊躇う事無くその場から全力で駆け出す事が出来た。

 

後ろから聞えて来る足音に気を取られながらも前方に意識を向ければ、さっき反対側に曲った筈の車が歩道に寄せ停車してあった。そこには煙草に火を着けている准佐が!

 

――― 回ってきた?

 

俺があそこに居た事を知っていたんだろう。そして、駅に向かう事も?

そんな事はどうでも良かった。兎に角、このまま行けば准佐に捕まる事は確実で、でもスピードを緩めれば後ろから来るアイツに捕まる事も確実で……。

 

そんな事を考えていたら、准佐はフォルダーから銃を抜き取り俺に照準を合わせて来た。その事で俺の行動は決まった。准佐が俺を傷付けるつもりなんて無い事は知っている。

 

――― だから突っ込む!!

 

准佐が威嚇の為足元に数発の銃弾を打ち込んで来た。俺は怯む事無く准佐に突っ込む。そして両手を合わせ右腕に仕込んだ鋼のアームレットに触れそれを横に滑らせる。

 

鋼の機械鎧を『無くして』から考えた事だった。何時でも武器として携帯していたモノが無くなった今、どうしたら戦闘能力を下げずアイツに『恩返し』出来るのか?そして取った行動手の甲から肘までを覆う様に作った鋼のアームレット。これにより何時でも右手は『刃物』に成る。これがbetterだと思った。

 

俺も准佐を傷つけるつもりは無いし、傷つけたくは無い!だけど、手加減して捕獲されるわけにはいかなかった。

間合いを詰め刃物にした腕を准佐に向けて銃口を切断する。だけど准佐も直ぐ様予備に持っていた銃を取り出す。俺が切りつけている間も的確に避けながら行動する所は『実働部隊』隊長をしているだけはある。

俺の攻撃を流しながら銃を構えた瞬間、俺はもう一度両手合わせを銃口に触れた。

変形する銃を横目に確認して准佐の脚を払い体制を崩すとそこに区切りを付ける。

 

アイツとの差は一気に詰っただろうけど、振り向くロスタイムを考慮して我武者羅に駆け出した。

 

 

 

 

 

どのくらい駆けたのだろう?

 

何処を走ったんだろう?

 

 

闇雲に駆けていたから、今自分が何処に居るのか?そして後ろから追って来ているのかさえ解からない状態。住宅街らしき街中を駆けながら、曲がり角で後方を覗うとそこに追ってくる人は居なかった。

 

 

 

――― 撒いた?

 

 

 

一瞬安堵してその脚を止めれば、何処からか車の走行音が聞えて来る。

撒いたんじゃ無い!ただ車で追っかけて来ただけなんだ!と結論付ければ、車が通れそうも無い路地へと身を投げ出していた。

 

 

肺が壊れる!

 

心臓が潰される!

 

 

もう走る事も…息をする事も疲れて来た俺は、高級住宅街の庭先に飛び込み息を整え周りの状況を把握し様とその身を沈めた。

 

――― 静かな家だ。

 

そして、大きな家だ。

なのに余り手入れのされていない簡素な庭を持つこの家からは、生活感の微塵も感じられない寂しさがあった。

と言っても人が住んでいないなら好都合だった。下手に騒がれたら厄介だったし、何より迷惑も掛けたくない。

 

額に浮かぶ汗を袖口で拭き取り大きく息を吐く。何処からも人の気配が感じられ無いし車の音も聞えない。

いや?時折遠くから子供達の笑い声が聞えて来る。学校の下校時間か?そんな時間帯なのだろう。

 

「将軍家、それも焔の国家錬金術師の家に不法侵入とは良い度胸だな。エドワード?」

「―――――― !!!」

 

背後から聞こえて来たのは………!

 

「なんで………」

「さて何でだろうね?」

 

将軍との間合いは3mと言う所だ。逃げるにしても背後は塀が在って立ち上がりそれを越える時間は無さそうだ。そして練成するにも時間は無い。

 

 

 

――― どうする?

どうする?

どうする?

 

 

頭の中はパニックだ!

 

座ったままズルズルと後退する俺を、心底楽しそうに眺める将軍を睨むしか手段は残されていない?

後退する時、腰に腕が当たりある存在を思い浮かべた。俺は咄嗟にそれを取り出すと躊躇い無くその銃口を将軍に向けた。

 

俺の行動を見た将軍は片眉を上げ、薄っすらと笑みを浮かべている。

 

「君が私を撃てる訳が無い。」

「――― !」

「第一、そのまま引き金を引いても私には当たらないし、銃弾は出ない。」

「………??」

 

カタカタと振るえる腕で銃を構える俺をあざけ笑っているのか!?ゆっくり近付く将軍。

 

 

 

――― 負けたくない!

負けたくない!

負けられないんだっ!!

 

 

 

俺は躊躇い無く引き引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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