アイツと長〜〜い珍道中。

御伽の国のエリシアちゃん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大人の足なら半日で到着する村へ移動できたのは、夕刻を過ぎたあたりだった。

 

 

 

引き摺る足をそれでも動かし村へと歩いたが、自分の足だと言うのにちっとも言う事を聞いてはくれない!雪が降り頻る中の進軍は、足手まといな俺を気遣いながら歩く大佐にもかなり堪えた様だった。

 

 

 

村に着いた俺達は、お約束の様に店を構える『飲食店兼宿や』に部屋を借りる事が出来た。

そこに居たのはお約束通りの店主と女将さん。ヒョロヒョロの気の良さそうな主人と恰幅の良い豪快なおばさんは、雪が積もった俺達を丁重に持て成してくれた。寒い中歩いて来たんだからとスープを出してくれた上、頼みもしない解熱剤まで飲まされた。おばさんは、少しお節介のようだ。

 

 

 

で、俺は現在1人で借りた部屋で寝ていた。熱を持った足に冷たいタオルが乗せられている。覚醒しきらない頭で天井を眺めながら、乾ききった喉を生唾を飲み込んで何とか潤そうとしてみた……無駄だった。

 

下の階からは、大声で飲んだくれているおっさん達の声が聞こえる。この部屋に俺しか居ないと言う事は、大佐は下の階に居ると言う事か?

そんな事はどうでも良かった。

 

「……喉、乾いた。」

 

呟いてみても水が飛んでくる訳じゃなく、気だるい身体をゆっくり起こし、水を飲もうとベッドから降りる。さっき飲んだ薬だろうか?吐き気と嫌なモヤモヤが身体を支配していた。

 

時々、痛み止め兼解熱剤を飲むと妙な感覚に襲われる時がある。薬に入っている『成分』のせいだと医者に言われたが、どうやら今回飲んだ薬にはその『成分』が入っていたらしい。こうなると厄介だった。身体が思う様に反応しない!こんな時に有事が勃発すれば、俺は『イチコロ』だろう。

 

そんな事を考えながら、階段を丁寧に降り始めた。

 

 

 

下の階では、俺の予想どうり飲めや歌えやの大騒ぎだ。上に居た時は男性の声しか聞こえなかったが、部屋の中を見れば数多くの女性の姿を確認できる。それも、大佐の周りにいっぱい。

 

ここでも『女殺しのマスタング様』を貫いているらしい。

 

 

………感服です。

 

 

 

階段の中腹で部屋を眺めている俺に気付いた女将さんは、相変わらずの元気の良さで俺に声を掛けてくる。

 

「エリシアちゃん!どうしたね?一人寝は寂しくなったかい?」

 

――― へっ?『エリシアちゃん』?エリシアって言ったら『親馬鹿大将1等賞』、ヒューズ中佐の娘の名前だよなぁ。

 

「どうしたんだい?そんな所に突っ立っていないでこっちにおいで!」

 

俺を見て『エリシア』と呼んでいる女将さん。理由は解からないけど今は訂正しないほうが良い様だと判断し、ゆっくり階段を降り始める。

そんなやり取りを見ていたのか、大佐は席を立って素早く俺の元に寄り俺に手を貸してくれた。

 

 

 

って言っても、大佐は俺を助ける為に来てんじゃなかった。皆に聞こえない様小声で俺に声を掛ける。

 

「イイか?これからは暫らく『エリシア=ヒューズ』と名乗れ。私は『アルフォンス=エルリック』だ。」

「はぁ〜?アル???

「親しい者を呼ぶ方が良いだろう?」

「大佐とアルじゃぁ………アルが可哀相だ。」

「――― ! 後で覚えていなさい。」

 

てな事を話しながら、さっきまで大佐が座って居た席へと促された。

 

そこは『ハーレム状態』と化した女性専用テーブル?と間違えそうなぐらい女の人ばっかりだった。右見て左見て前見て……女性じゃないのは俺と大佐だけ!何なんだここは?

 

「いや〜ん!エリシアちゃんって『ちっちゃく』て『可愛い』!!

 

集まった女性の中からそんな声が聞こえる。

 

確かに、エリシアちゃんは三歳で、ちっちゃくて可愛い。

 

 

…………だけど、今は俺を指して『ちっちゃい』とのたまったんだよなぁ。

 

 

 

 

 

――― 潰す!!!

 

 

俺が放つ殺気に気付いた大佐は、俺を宥める為に小声で「気にするな。」と囁いている。気にしないなんて出来る訳が無い!けど、身体がモヤモヤしている為に立ち上がり怒鳴ろうなんて考えただけでも億劫だった。

 

「どうした?眠れないのか?」

「たい……アル。喉乾いたから水飲みに来ただけ。」

「そうか、待っていなさい。」

 

大佐が席を立ち、飲み物を取りに行ってくれた。その間、俺は、大佐目当ての『お嬢さん達』と島の孤島となったテーブルで気まずく待つ事となった。

 

はっきり言って、この視線はキツイ!

口には出さないが『あんた邪魔よ!! 』または『何で起きて来るの?』もしくは、『こんな小娘()なんかがっ!! 』的な視線。

何にも悪い事はしていないんだけど、おもわず「ゴメン!」って言いたくなる視線の中、俺は置いて行かれた。

 

 

 

「あなた『エリシア』ちゃんって言ったっけ?」

 

大佐が座っていた一番近くに陣取って居たお水系なお嬢さんが、不躾にも俺に質問をして来る。

 

「そう。」

 

 

――― らしい。

 

 

大佐がそう言っていた。

 

 

 

「『アルフォンス』とイーストを目指しているんだって?」

「あぁ。」

 

 

――― って人の大切な弟呼び捨てにするんじゃね−よっ!!

 

 

「良い男じゃない!? あなたアルフォンスの『許婚』なんですって?」

「うん。―――― !!!!!?」

 

俺の耳はとうとう逝かれたか?今、このお嬢さん『い・い・な・ず・け』って言わなかったか?許婚ってーのは、親同士が約束した『結婚相手』だよなぁ………。

 

「どんな経緯で許婚になったの?」

 

 

「………」

 

 

――― 難問です。

 

 

俺が知るわけないっしょっ!大佐に聞いてくれ大佐に!!!

 

返答に詰る俺を救うべく?やって来た大佐は、「何の話しで盛り上がっているんだい?」って『お前はNO.1ホストかっ?』ってノリで席に着いた。ちなみに俺の前には、『林檎ジュース』と何故か『牛乳』が置かれていた。

 

――― 何か俺に挑戦状叩き付けてないか?

 

俺は『牛乳』を凝視していて、さっき嬢ちゃんに聞かれた事に対する返答をすっからかんに忘れていた。

そんな事で、その質問に答えたのは大佐だった。

 

「彼女とは……まだ彼女が10歳の時に始めて出会ったんだよ。親の話しで私に『許婚』が居るとは知っていたけれど、実際に会ったのはそれが始めたなんだよ。」

 

大佐はイキナリな売れない三流小説な物語を人様に披露し始める……。

 

「エリシアの父親は、彼女が幼い頃家を出て行ってしまったんだよ。」

 

――― おいおい!中佐は『親馬鹿』だから蒸発はしないだろう?

 

「お母さんも暫らくして心労で亡くなってね。」

 

――― グレイシアさん殺すなよっ!

 

「親戚も身よりも無かった彼女を、『許婚』である私が引き受けたんだよ。」

 

――― まぁ〜『慈善家』です事。

 

俺も知らなかった事実だ!俺達はそんな『設定』になっていたのか?

 

「それは……可哀相ね。でも、10歳差の『許婚』なんて……可愛いわね。」

 

――― 姉ちゃん、その間はナンなんだ?って、誰と誰が『10歳差』?

 

もしかして……アルとエリシアちゃん??でも、エリシアちゃんは、つい最近三歳になったって中佐に自慢されたよなぁ。

………アルは14歳だし。歳の差は『11歳』なはず?大佐計算間違えしたのか?

 

「それにしても25歳で『実業家』だなんて……凄いわ!」

 

――― 誰が実業家?誰が『25歳』??

 

「実業家なんて大したモノじゃ無いんです。」

 

 大佐がこれでもかと『微笑みの奇行師』している!

 

 

へっ?もしかして……大佐が25歳?サバよんでるの??見えなくは無いよ!その『童顔』だからなぁ……

 

俺は改めて大佐の顔を凝視した。余裕ぶっこいて三流ポエムを語る大佐の顔をマジマジと見てみたかったからだ。

 

「エリシア?何か?」

「…………………。」

 

 

 

――― 笑うな、俺!笑っちゃーイケね−よっ!!

 

 

 

「………プッ!」

 

駄目だ!思いっきり吹き出した。

 

大佐って『策士』だけど……、小説家向いていねーよっ。って言うか……どっから出て来た設定?

 

「何がそんなに可笑しいのかな?君ぐらいの年頃の女の子は解からないよ。」

 

そんな事を言いながら、大佐はさりげなく俺の右足を抓って来た。痛さに顔を引きつらせた俺は、お返しとばかり大佐の左脇腹辺りを思いっきり抓った。勿論、機械鎧の腕でだ。

 

見詰め合う俺達は、周りから見れば然も『仲の良い許婚同士』に見えるだろう。

 

――― 水面下の攻防はすざましーぞー!!

 

そんな俺達をみていた女将は、俺の身体を気遣いながら更に勘違いな言葉を俺にくれた。

 

「お嬢ちゃんはさっきっから余り喋らないけど、『恥ずかしがり屋』さんかい?それとも『物静か』な子なのかな?」

 

――― それは大変大きな間違いです!

 

 

ただ単に、さっき貰った薬が身体に合わなかっただけで、決して『恥ずかしがり屋』でも『物静か』でも『無口』でも有りません!!!

 

大佐の顔を見れば、ヤッパリと言うかどうせと言うか……笑いを堪えて引きつっている。俺は悔しかったから更に力を込めて、大佐の脇腹を抓ってやった。勿論、お返しもキツク帰って来たんだけど。

 

結局、アルフォンスとエリシアちゃんは『許婚同士』になった。中佐が知ったらアル殺されるぞ?

 

 

 

 

 

 

 

そんな『ドルガー・マスタング』を置き去りにして、俺は再び借りた部屋へと戻った。これ以上、大人達の『愛の語らい』を邪魔したくは無いからだ。

 

 

本当は……いずらかったから?

 

 

お姉ちゃん達の『あんた邪魔なのよ!』光線は相変わらずキツイ。アイツの傍に来る女性は、大体があの光線を出して来る。

街で出会って声を掛けられても、一緒に食事に行っても必ず誰かしら声を掛けてくる。アイツは慣れているんだろう。人生『モテモテ街道驀進人生』なんだから。

 

俺は…違う!ただ一人を見詰めて、そして死んで行った母さんの子供だ。だから俺も『一途』なんだと思う。

大勢の人達から声を掛けられて、友好的な態度を取られても『ありがとう。』ぐらいで終わる。勿論相手だってそんな感情を俺に抱く訳が無い。だから、アイツみたいに『モテモテ街道』なんてモノは小説の中だけだと思っていた。

 

実際に大佐がその小説の人物と変わらない事を知った時、アホらしくて口を利く気にもならなかった。

 

はっきり言ってしまえは、今の大佐の状況を見る気にはならない。情報収集だか知らないが、女とイチャツイテいる大佐なんて見たくは無かった。

 

 

 

 

 

部屋に入り、シャワーを浴びてベッドにダイブする。

一人静まり返った部屋には、下から聞こえて来る笑い声と歌声が嫌って程耳に入って来た。

うつ伏せで不て寝をする俺は、枕を頭にかぶりそのまま目を閉じた。現実から逃げたかったんだ。

 

 

 

――― 本物のエリシアちゃんは、今頃何をしているだろう?

 

――― アルフォンスは、無事少尉達と安全な場所まで移動できたのか?

 

 

 

包帯まで濡れた足は、冷たくて気持ち良い。そんな気分の中でも気分はいっこうに晴れなかった。

 

頭の中をグチャグチャと通る感情を追っ払う為にも何かやれば良いんだけど、クスリのモヤモヤが抜けない限りそれも無理っぽい。

 

結局は、大人しく寝る他無いんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今は……何時だろう?

 

気が付いた時には、俺はちゃんと布団の中に居た。足の包帯は新しい物に巻き直されていて、頭に被っていた枕は何処かに消えていた。替わりに枕になっていたのは大佐の左腕だった。

 

「………はぁ?何で大佐が俺のベッドに居る訳?」

 

間接照明の薄暗い部屋で呟く質問に答えは帰って来ない。決して大きくは無いベッドに何で一緒に寝て居る訳?直ぐ横にもう一つベッドが在るじゃん!? そのベッドは『使用不可』?それとも……実は『食い物』で出来ている?

 

兎に角、折角借りているベッドが空いているなんてもったい無い!俺の腰に周っっている大佐の腕をそーっと外し、俺は体を起こそうとした。

だけど、大佐の右腕はまた俺の腰に絡み付き、左腕も俺の首に回されている。

 

「大佐……起きてんの?」

「………寝ているよ。」

「…………はぁ〜?寝ている奴が『寝ている』なんて言う訳無いだろう!」

「エドが起き上がるまで寝て居たんだよ。」

「………悪い。起こしたんだ。」

「構わない。所で何処に行くんだ?」

「隣りのベット。」

「何故?」

「何故?って…………当たり前だろう?図体デカイ大佐と寝ていたら寝返りも打てない。」

「久し振りに身体を合わせて寝られるんだ。寝返りなんて気にするな。」

 

――― 大佐?頭大丈夫?確か昨日もくっ付いて寝て居たような??やっぱり歳ですか?

 

そんな俺の心情はどうでも良いらしく、俺を引き寄せ顔をマジマジ覗きこんで来る。恥ずかしいから顔を背けたくても、この体制では上手くは出来そうに無い。

 

「何だよ!? 言いたい事があれば言えよっ!」

「エドワード。やはりこの名前の方が君らしいな。」

「おっさん……脳逝かれた?」

「相変わらずの口だな。そう言う悪い言葉しか出ない口は『塞ぐ』のが一番だ。」

「ほえ?―――――― !!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後は……結局パターン通りだった。

翌日目が覚めた時には、何時寝たのかさえ記憶に無い状態。腰は重いし足首は痛む!違う意味で今日は動きたくは無い気分だった。

 

 

 

 

 

 

ヘッポコポエムに『暗い過去』を背負わされた俺は、この日からあのお姉ちゃん達と暫らく行動を共にするなんて………まだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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