アイツと長〜〜い珍道中。

宣戦布告は夢の中!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猛吹雪の中を走る4台のソリ馬車。

 

朝方出発したキャラバンは、6時間掛けて汽車の停まる町へ入るはずだった。

だけど、視界10bともつかない中の進撃は無謀に近く、予定変更を余儀なくされている。

 

先頭を走る馬車が人を運ぶ為の馬車。残り3台の馬車が荷物を運ぶ馬車なんだけど、俺と大佐は3台目の御車席で視界が最悪の前方を睨んでいた。

 

 

 

 

 

何で、俺と大佐がキャラバンと行動を共にしているか。それは、昨日の夜遅くに俺を気絶させた大佐が、移動手段の確保として一緒に行動出来るよう手を回したからだ。

 

今の俺が、一番近い駅まで歩けば何日かかるか解らない。途中野宿確実なのは解り切っている。なおかつ反武装勢力が多いこの土地は物騒だ!一般の人達だって何時襲われるか解らない。だからここらへんの人達は、荷物を運ぶ時は護衛を雇い集団で行動するのが常なんだそーだ。

 

 

 

このキャラバンは、イーストに向かう。理由は人様々だったりするけど。ある人達は、村の収入源である織物を店に納入する為に向かう。ある人は出稼ぎだったり、30人程度の理由は本当に様々。

たまたま、キャラバンの御車を勤める人が足りなくて、大佐が名乗り出た。

 

もちろん、キャラバンは無料じゃない。加わるにはある一定の料金を支払うんだけど、御車を勤める事で大佐と俺の料金と相殺と言う事らしい。

 

 

 

 

4台のソリ馬車が逸れないよう、赤い発煙筒を焚いてお互いの位置を知らせる。

予定通りの道を進まないである方向に逸れた先頭に着いて行けば、小さな集落へと入っていく。

どうやら今日はここで宿泊するらしい。

 

 

 

宿らしき建物の前に停車した馬車から汗で湯気を昇らせている馬を納屋まで連れていく。

汗を拭いてあげないと馬だって風邪をひいてしまう!吹雪が止まない中で俺達が担当した馬車の馬二頭を納屋まで連れて行き身体を拭いて水を与える。

後はこの宿の人が餌を与えてくれる段取りだ。

 

 

 

 

 

さて人間はと言えば、一台目の幌付きに乗っていた人々は濡れずに済んでいるが、御車席に居た何人かは雪まみれだったりする。服もヤバイけど顔がヤバイ!ハッキリ言って感覚が無い。いくらフェイスマスクをしていたって寒いものは寒い。凍傷になっていないのが不思議な程だ!!

 

服に着いた雪を払い落とし宿へと入る。暖かい部屋に入ると緊張が解けブルッと身震いした。

 

「エリシア、大丈夫か?」

 

そう俺を呼ぶのは、現在『アルフォンス=エルリック』と名乗っているエロエロ大魔王『ロイ=マスタング』。雨の日・雪の日・台風の日無能男。そして今も雪に濡れて使い物にならない『しけったマッチ』29歳。弟の名前を借りながら俺よりデカイのが気に入らない。因みに俺は『エリシア=ヒューズ』。歳は3歳!

 

 

じゃない事は確かだ!

 

 

口を開いて「大丈夫!」と言いたいけど、ガチガチと打ち鳴らす奥歯が言葉を遮る。

 

−−− めちゃめちゃ寒いものは寒い!

 

やっぱ本心はこれだ。

 

先に中で暖を取っていた姉ちゃん達の中から1人、俺達に向かうってタオルを渡してくる。

茶髪が腰までウェーブするケバい顔の女……名前は確か『ランス』と名乗っていた。何かに付けて俺達に声を掛けて来た……正くは大佐目当てだろう。俺の事は、Out of 眼中!かなり露骨だったりする。

 

どうせまた露骨に嫌味な『あんた邪魔よ!』視線を送ってくるだろう姉ちゃんを無視して、キャラバンの参加者の私物が固めて置いてある場所に行き俺の荷物だけ引き抜く。隊長が割り当てた部屋番号を聞くと、大佐を置き去りにし階段へと足を向けた。

 

 

 

 

 

指定された部屋は小さなツインルーム。ベッドが二台と申し訳なさそうに設置されている机と椅子。そして、簡易シャワールームと同室にトイレ……。身体を温める為に必要な『湯船』たるものは……樽?ぐらいに小さな物だった。

 

ぼやきながらも湯船にお湯を張り、その間に濡れた服を脱ぎ捨てる。まだ溜まり切っていない湯船に入れば、痺れるような感覚が俺を襲いゆっくり大きな息を吐いた。

 

やっと生身の部分に血が通い出す感覚に幸福を感じる。ゆっくり瞼を閉じ幸福感に身を預けた。

 

 

 

 

 

目を瞑る事暫し……部屋のドアが開く音が聞こえる。

 

――― あれ?俺、部屋のカギ閉め忘れたっけ?

 

ボンヤリと記憶を辿っていると、今度はバスルームの扉が開いた。

 

――― ヤベー!変質者か?俺、今は女として行動しているんだっけ!! ここで錬金術使ったらヤベーかな!? それより隠すモノ隠さないとっ!!

 

瞬時に考えた事を実行に移そうと、入って来た変質者の顔を見る……。

 

「・・……大物変質者。」

 

呟く様に出た言葉に、大物変質者 = エロエロ大魔人はスッ裸で立っていた。

 

「……失礼だな。変質者は無いだろう!」

「……何で…入ってくるんだよ。って言うか、前隠せよっ!」

「今更。私も寒くてね、一緒に使わしてもらうよ。」

「この風呂場をよく見ろ!俺独りでイッパイイッパイだっ!」

 

そんな俺の言葉なんて聞いていない大佐は、俺を強引に抱き上げると先に自分が浸かりその膝の上に俺を乗せ抱き抱えて来る。

 

――― あんたのナニが腰に当たっているのは気のせいですかっ!!

 

「ジタバタするな……お湯が溢れるだろう。」

「身の危険を回避しているだけだっ!」

「何を期待しているのか解からないが、私はただただ身体を温めたいだけだよ。」

「言っている事と身体の反応が大きく違っているじゃねーかっ!」

「………小さい事は気にするな。余計小さくなるぞ?」

「だーれーが、イチゴの種ほどの大きさだってーっ!」

 

背後から抱えられた俺は、身体を捩って右拳を出そうとするけどがっちり抱えられている上、この狭い湯船では身動きが取れなかった。

 

「兎に角、身体を洗って昼食に行こう。」

「だったら一度出ろ!洗えねーじゃんか。」

「お互いの身体を洗いあえば済むさ。」

 

言うが早いか、背中を合わせていた俺を軽く持ち上げ向かい合わせにする。備え付きのボディーソープを手の平に取った大佐は、俺の身体をその手でなで始める。

 

「――― っ!! ば…何する気だ!」

「ほら、エドワードも私を洗ってくれるんだろう?」

「ヤダって……、おい!俺の昼飯抜かさせる気かよっ!」

「移動に疲れて寝てしまったら、私が下から持って来てあげるよ。」

「違う意味で疲れさせる気だろう!」

「……エド、もう少しムードを考えなさい。」

「誰が身体洗うのにムードがいる―――んっ!!

 

 

 

 

 

 

 

口を塞がれた俺が出きる抵抗は……皆無。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局昼食を口にしたのは、大佐が部屋に用意してくれてあったサンドイッチ&冷めた珈琲……。それも3時過ぎ。

 

――― 必ずゲンコでボコる!決定事項!! 必須!!! 要注意!!! 覚えていろ害虫大魔王!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体調が崩れたのは夕方頃だった。

正しくは、大佐がくれた『鎮痛剤』を服用してからだ。吐き気とゾワゾワした感覚……痛み自体は引く事が無く断続的に脈打っているけど、身体の置き場が無い程の不快感が俺をベッドへと縛りつけた。

 

「この薬も合わなかったか?かなり顔色が悪い。」

「……顔の悪さは生まれつきだ。」

「エドは十分綺麗だよ、他の誰よりも。」

「……呪われた口に夕飯入れてこいよ。俺…寝ているから。」

「解かった。飲み物ぐらいは胃に納まるか?」

「……今は………無理っぽい。」

 

吐く息が薬臭い感じだ。なんの薬を飲まされたんだ?兎に角、寝てしまおう……。

寝ようとして目を閉じるけど、ゾワゾワ湧きあがる不快な感覚に身の置き場を無くし、寝返りを打つ。だけど、やっぱり不快感は無くならなくて、もう一度仰向けに寝なおした。

 

「苦しいか?」

「こんなの何とも無いよ……、俺の事は良いから、飯食ってこいって。」

 

目を瞑り『ネムネム妖精』がやって来る様に祈る。

 

 

 

 

 

実際やって来たのは?

 

――― 大佐の手?

 

俺の額に手を乗せて、そのままじっと動かさない。別に俺は熱出ている訳じゃないんだけど?って突っ込みたくなる。暫らく乗せていた手は、ゆっくり瞼へと動かされて目を開けようとした俺の行動を止める。

 

「寝るまでここに居てあげるから。」

「…子供……扱いする…なっ!」

「そうだな。」

 

何度も何度も、俺の瞼を指の背で撫でる大佐の行動に何時しか安心感が生まれる。

 

 

 

 

そして俺は、夢とも現実とも付かない世界へ旅だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 暗い…ここ何処だ?

何処を見ても真っ暗だった。そこに独りで佇む俺……周りは異様なほど静かだった。

 

『エド…エド?上手ね……』

 

声の方向を見れば………

 

「か…あさ……ん。」

 

母さんが少し離れた所に立っている。その横顔が懐かしく、俺は重い身体を引き摺って走り出した。

 

「母さん!母さん!!

「エド?上手ね………でも、」

 

ゆっくり俺の方に振り向く母さんは、肉が半身流れ始めていた。

 

「あああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!!」

 

逃げるしかなかった。

 

何処に行っても真っ暗で、何処に行っても『母さん』が居る。

 

アルフォンスも居ない

 

…ウィンリィも居ない

 

……ばっちゃんも

 

 

 

……誰も

 

 

 

………誰も居ない。

 

 

 

 

走るのに……出口が無い。

 

 

走るのに……母さんが消えない。

 

 

走るのに……誰も居ない。

 

 

息が上がる……

 

心臓が壊れる……

 

足が、腕が痛む!

 

 

 

「助けて……アル。助けて……母さん。」

 

 

 

 

 

 

『鋼の。』

 

 

 

 

――― 誰?

 

 

 

 

 

『エド……』

 

 

 

 

 

――― 俺を呼ぶのは誰?

 

 

 

 

 

 

「……助けて、……許して……ゴメンナサイ。」

 

 

 

 

 

 

『エドワード……誰も君を責めはしない。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けて大佐っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けたのは夢の中で?

 

 

 

現実で?

 

 

 

暗い空間を見詰める……。

 

 

 

静か過ぎる空間はやっぱり夢の様で、リアリティーが無いからまたあの夢が現れるんだと覚悟してみる。

目を閉じても開いても同じ闇。夢のはずなのに重たい瞼を閉じ同じ暗闇へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『………ヴィー………は、どうなっているの?』

 

――― 何処からか女の人の声が聞こえる。夢?現実?? やっぱり解からない。

 

『………のオ…ビは、あんたに貰った薬飲んでもらったから身動き取れないよ。』

『そう、それで?』

『焔の大佐殿は暇そうだからチャンスは幾らでもあるよ。任せて!』

『余り調子に乗らないで頂戴よ。お父様からキツク言われているんだから。』

『解かってるって!あいつら離せば良いんだろ?でも、本当ならあんたがこの役やれば良いんじゃないの?』

『そうね、でも顔を見られているから駄目よ。』

『ったく、オチビにも困ったもんだ。一度死んでもらえば?』

『殺しては駄目!大切な【人柱】なんだから。それと焔の大佐もよ。』

『――― っせーな。解かってるよ。』

『じゃあ、後は………を、所詮人間の信頼なんて……絆……馬鹿な…モノなの。』

『ま、まっかせて!ドライな関係に戻せば………簡単じゃん。』

『………宜しく………………』

『………………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢?

 

 

 

現実?

 

 

大佐が何だって?『オチビ』って………何処かで聞いた気がする。

 

夢…?

 

 

 

 

リアルな夢?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か?」

 

何時の間にか現実に戻っている俺は、自分が起きている事にも気付かなかった。

ヤッパリ真っ暗な部屋。違う……小さなライトが1つ、俺を呼んだ大佐の横顔を照らしている。

 

「――― あっ…ぁぁ……?」

「喉が乾いたんだろう。起きれるか?」

 

背中を抱えられ、コップに入った水を渡された俺は、ゆっくりそれを飲み干す。へばりっ着いた様な喉は、水を貰って声を出せる状態に戻る。空になったコップを大佐に渡すと、またベッドへと寝かされた。

 

「魘されていた。」

「起こした?」

「気にしなくて良い、まだ朝には早い時間だ。もう少し寝なさい。」

 

優しい声が降り注ぐ。やっぱりこれも夢なのか?

 

「大佐……今は現実?それとも夢か?」

「現実だ。良いからもう寝なさい。」

「あぁ…。」

 

大佐は屈み込んでいた身体を起こし自分のベッドへと歩き出す。離れて行く大佐を見ると何だか夢のような気がしてならない。

だけど、大佐は自分のベッドから毛布を掴むと、また俺の方に歩み寄り俺の寝ているベッドへと潜り込んで来た。

 

「狭いぞ!」

「エドが安心して寝れる為のおまじないだ。」

「あぁ?」

「冗談だよ、ゆっくり寝なさい。」

「狭くてゆっくり寝れねー……。」

 

ブツブツ文句を言っても聞き入れて貰えず、結局狭いベッドで眠る嵌めになった。

 

もう一度目を瞑り、夢の内容を思い出そうとする。だけど…良く覚えていなかった。ただ、不安と疑心だけが残っている後味の悪い夢だった事は覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

『絆なんて馬鹿で愚かな生き物が口にするモノなの』

 

 

 

 

そうなのか?

 

そうなんだろうか?

 

 

 

 

夢の中で、誰かから決闘を申し込まれた気がしてならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■