それは長〜〜い等価交換 5.好みの味付け |
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朝は『グレープフルーツジュース』 珈琲は『マンデリン』 夜は『アールグレイにブランデーをタップリと』 メインは『肉』より『魚』。出来れば『白身』でアッサリと。 集中すると親指と中指を擦り合わせるのは『無意識の癖』 照れた時は、瞼をやや伏せ口元を手で押える。 俺の話しがツボに入り普段自信家で余裕の顔を、涙を流すほど笑い崩した後はそのお腹を抱えて俺を見る。そして必ずこう言うんだ……… 「ありがとう。」 って……………。 5.好みの味付け 「お嬢ちゃん、べっぴんさんだからこれもオマケしちゃう!!」 「……牛乳…ですか………そりゃ……どーも…」 中央の夕暮れ時、俺は今『バザール』に居る。 何でこんな所ろに居るかと言えば、今日『も』大佐は、夕食は要らないと言った。だから定時一時間前に上がらせて貰って、マスタング家の食糧危機を救う為、買い出し部隊と成り食料の調達に来て居る訳だ。
大佐が誰と何をしようと今の俺には『関係が無い事』。だから、さして詮索はしない。『気になら無いのか?』と問われれば『気になら無い』といったら嘘に成る。だけど、それがどうにか成るものでもない。 これは自分が決めた事だ。誰に強制された訳じゃ無く……、俺はあくまで『国家錬金術師』軍の狗って奴で、大佐は『軍人』と言う壁をしっかり作ろうと。それ以上の関係は無いとはっきり態度で示そうと、そう決めたんだ。 だから、必要以上に大佐と関わらない様にしている。関わってしまえば、俺自身未練タラタラみたいでウジウジ系だったりする。……それが許せない。 「そこの嬢ちゃん!!今日はジャガイモ安いよっ!!!」 誰が嬢ちゃんだっ!! 俺のネガティブな考えは、この賑やかなバザールでは長続きしない。歩けば商売根性逞しい店主達が、歯の浮くようなホメ言葉で客足を止めようと声を掛けて来る。
だからって、俺に『嬢ちゃん』はねーだろう!! 何度目かの嬢ちゃん発言にゲンナリしながらも、目的の八百屋を目にして足を止めた。店主の男は、少しばかり日に焼けた茶色い肌に黒いヒゲの威勢の良さそうなオジさん。ニッカり笑って俺を見れば、要らない一言を口に出した。
「嬢ちゃん、偉いねー。お使いかい?」 「………ジャガイモ二皿。それとキュウリ一皿。」 「お手伝いするなんざー、お嬢ちゃんは親孝行だ!」 「………玉ねぎをネットで。」 「しっかし美人だねー。」 「……嬉しくない。それよりキャベツ半玉、それにほうれん草一束。」 「いっぱい買って持って行けるのかい?細い腕じゃ折れちまうぞ?」 「………気にするな。」 「今日はパパにご飯を作ってやるのかい?」 「………誰がパパなんだよ。」 「そうそう!お嬢ちゃんみたいな『美人』は、この頃ここに赴任して来た『大佐』って奴が女にモテルらしいから気を付けな!危ない大人に近付いちゃ駄目だぞっ!!」 「……………」 ここ迄来れば何も言い返す気には成らない。またもやオマケとばかりに俺の抱えている紙袋にトマトを三個ポイポイと放り込む。因みに現在紙袋は、俺の腕に三袋在る。前方視界三%って所ろだ。
これで後は、魚と肉と珈琲豆とetc…。買い出し終了時には、俺は荷物を担ぐ事は必須に成りそうだ。し方がないから一時帰宅を余儀なくされる。 大佐の家は、ここから一五分ぐらいの高級住宅地に位置している。司令部を挟んだ反対側だ。面倒臭い事このうえ無いけれど、荷物で圧死は避けたい。 何度も持っている紙袋を抱え直し、俺は大佐の家へと足を運んだ。 中央のメイン通りに差し掛かった時、イキナリ視界が100%に晴れた。 俺の腕に乗って居た荷物は消え、変わりに視界に飛び込んで来たのは、私服を来たムサイ集団……。定時開けだから私服でも可笑しくはないが、見慣れない服装のさっき迄顔を見て居た少尉達をマジマジと見詰めてしまった。
「大将、荷物だか人間だかわかんねーぞ?」 「それは俺が『アレ』って言いてーんか!?」 「凄い荷物ですね。」 「あぁ、マスタング家の食糧危機の為、現在買い出し部隊だよ。」 ハボック少尉、ブレダ少尉、准尉に軍曹。モテナイ4人は、俺が持って居た紙袋の中を覗き、呆れた顔をしている。 「イキナリこんなに買い出しするか?」 「今度何時買い出し出きるかわんーだろう?」 ブレダ少尉は、紙袋に入って居た『サラミ』を取りだし食べ始めた。 おいっ!人ん家の飯をっ!! そんな事を考えながら4名の後ろに隠れて立っている……様に見えた我関せずを貫き、遠くを見詰める大人に声を掛ける。 「……大佐も『振られ隊』に所属したのか?」 その言葉に、少尉達は頭を抱え咽び泣く。それを横目に大佐を見上げれば、苦笑いを浮かべた大佐が俺を見詰めた。 「俺のフォロー分を『酒代』として払えと連れ出されて来た。」 「………お疲れ。ってーか、ご愁傷様。」 何時の間にか立ち直ったハボック少尉が、俺の顔を見詰め何か良からぬ事を考えている……。 目で解かる!! 何か……ヤバイッ!! 「大将、今晩の夕食はどうするんだ?」 冷や汗が出ている俺は、どもりながらも返答を返す。 「…おっ……俺は、在りモノ突つくだけ………」 「栄養不良は背が伸びねーぞ?」 「うっせーぞっ!!」 ニヤリと笑った少尉は、他のメンバーの顔を見て頷きあう。 何考えてるんだ!? 俺を巻き込むなよっ!! 少尉達は大佐に身体を向けると、作っても可愛くない笑みを向け声を揃えて今後の予定を提案した。 「「「「大佐の家の庭で『バーベキュー』しましょう!!!」」」」 俺は呆れた……ってーか、なんだそりゃ? 「庭でバーベキューの方が安上がりっすよ?」 「俺はそんなに安月給じゃない!」 「ほら、外で飲み食いするより、エドワード君の料理の方が美味しいし!」 「………お前達、鋼のの料理を食べた事が有るのか?」 「俺軍から『炊き出しセット』持って来ますよ!」 「まだ俺の家で遣ると一言も言っていないぞっ!!」 「じゃぁ、私もお手伝いします。」 「そん時、中尉にも越え掛けろや。アルにもな!」 「うっす!」 「だから俺の話を聞けっ!!」 「酒は俺達で行こうぜっ!!」 「肉はどうしますか?」 「「「「大佐!宜しくお願いしまーーーーす!!!!!」」」」 「この荷物は俺達が持っていくから、大将、大佐と買い出し頼むなっ!!」 「…………………」 「…………………」 怒涛の如く目の前で勝手に事を決めた大人達は、俺の前からあっという間に消え……。 呆然と立ち尽くす俺と大佐は、顔を見合わせ盛大なため息を付く事になった。 「俺、他に買い出しが有ったから、そのついでに『アンタ達のバーベキュー用食材』を買って来る。アンタは家に帰りなよ……」 目を細め、俺の表情を覗う大佐は、暫らく言葉を出さず何か言いたげだ。だけど、その気まずい雰囲気を振り払う様に、俺はバザールへと歩き出した。
二・三歩歩いた時、隣りに添う様歩く影に気付く。その影を仰ぎ見れば、ムスッとした表情の大佐だ。 「……俺が責任持って買って来るって。」 「お前はさっき『俺達用の食材』と言ったな。お前の夕食はどうする?」 冷たい視線を俺に向け、意味不明な質問を投げる大佐。意図が解からないから、素直にその答えを返した。 「…だから、在りモノ突つくって―――」 「何故一緒に食べない?」 「………」 俺は前に視線を戻し、その答えをどう返そうか悩んだ。 出来るだけアンタと関わりたくないから。 なーんて言えない。言っても良いけど、その後の何日かまだ一緒に暮らす訳だから、気まずいのは勘弁願いたい。 無言を貫きバザールに入った俺達は、始めに野菜を購入するべくさっき行った八百屋に足を向けた。 「よう!嬢ちゃん!!買い忘れか?」 「だーかーらー、嬢ちゃんはよせっ!!」 店主の相変わらずな発言に、俺は声を荒げ後ろに居た大佐は、喉の奥でクククと笑っている。 「もう良いからっ!!それ、ピーマン二皿、それと〜、人参一皿にもやしね。っと、玉ねぎはさっき買ったから……後は、キャベツ半玉足して。それぐらいかな?」 「あいよっ!!きのこは要らないか?」 「シメジ……有る?」 「これはオマケしてやるよっ!嬢ちゃんべっぴんだから!!俺んちの息子の『嫁』に来ないか?」 「……すげー遠慮しとく。」 肩をガックリ落とす俺の代わりに会計を済ませたのは大佐。そのまま荷物を受け取ると、俺を促す様に背中をポンと叩いた。 店を離れ少し歩くと、シレッとした表情の大佐は嫌味ぽく俺をからかう。 「モテモテだな。」 「ウッセーぞ!スポンサー!!」 「次は?」 「肉屋、……アンタは肉より魚や貝の方が良いよな?だがら魚屋。」 その言葉を聞いた大佐は、少し驚いた表情を浮かべる。どうしたかと聞きたいけど、大佐が何も言わないからそれを見なかった事にした。 「肉は一キロ在れば良いだろう?」 「……足りないな。」 「マジ!?」 「お前も食べるだろう?」 「えっ?」 大佐の顔を見た俺は、そこに優しい眼差しの大人を見付けた。『俺の大佐』が良く見せていたその眼差しは、意地に成る俺を軌道修正し、心を休ませてくれる。そんな眼差しと同じだ。
「在りモノばかり食べていれば、背は伸びない。」 「だぁぁぁぁーーー!ほっとけっ!!」 ニヤリと笑った大佐は、その意地悪い顔を正面に向け更に俺を煽る。 「そうやって食事に疎いと人込みで潰されるぞ。それにここは『バザール』だ。誰かが『豆が落ちている』と拾われるぞ?」 「誰が人込みで踏み潰されるミクロ豆粒ドチビだーっ!!」 「アハハ―――」 俺の怒りも何のその。横で笑う大佐は、記憶があった頃の『俺の大佐』と何ら変わりがない。あの頃と同じような錯覚に陥りそうな俺は、頭を軽く振って現実へと引き戻った。
そして前方を見れば、山積みの袋を口を大きく広げて量り売りする珈琲豆の店を見つける。今の『豆』発言の後、『珈琲豆』を購入するのは気に入らないが、大佐の家の豆が切れそうだからし方がないと諦めその店頭に立った。
「今日も良い豆入って居るよ、お嬢ちゃん!!」 「そりゃ、良かったね………」 「で?どれをご所望かい?」 色々な種類がある珈琲豆。モカ、キリマンジャロ、ブラジル、コロンビア、グァテマラ……。それを横目で確認しながら俺は目的の豆に視線を向けた。
「それ頂戴、マンデリン。」 「良い趣味してるね?今日のは香りも良いよ。」 俺は、左手をその袋に入れ豆を何粒か取り出す。そして匂いを確認し一粒口に入れ噛み潰せは、苦味と旨み、そして芳醇な香りが口に広がった。
「これで良いよ、200gね。」 「ハイよ!他に要るかい?モカ当たり安くしとくよ?」 「あぁ……、モカはイイよ。酸味が強いのより苦味が強い方が好きみたいだから。それならトラジャ在る?」 「トラジャはとっておきがあるよ!!」 そう言ってバックから小さな袋を持ってきた店主は、そこから100g紙袋に測り入れると、さっき注文したマンデリンと一緒に俺へと寄越した。
「嬢ちゃんの趣味良いから、トラジャはオマケだ!これからも贔屓にしてくれよ!」 「……サンキュー」 お嬢ちゃん発言にもめげず、奇跡的に満面の笑みが零れた俺は、会計を済ませ店を離れ様と後ろを見る。すると、さっき買った荷物を持った大佐が、険しい顔で俺を睨んで居た。
俺、何か悪い事でもしたのか? そんな俺に言葉を発せず睨む大佐を無視し、俺は肉屋へと足を向ける。後から付いて来てるだろう大佐の不機嫌なオーラは、背後からヒシヒシと感じてしまった。 必要な食材をゲットした俺達は、大佐の家に着いた。 そこでは既に火を起こしている少尉達が待ち切れないとビールを飲み始めていて。 慌ててバーベキュー用に食材をカットし、皿に乗せ庭先へと運ぶ。マスタング家の庭は、残業処理を終えた中尉とアルも加わり『大宴会』の様子が強くなり始めていた。 そもそも、何でマスタングチーム主要メンバー全てがここにいるのか!! まぁ、大佐が中央に赴任して部下が数人増えた事は知っているから……。 東方時代からの馴染みのメンバーが揃っても不思議じゃ無いけど……。 でも……でも……、何で焼き担当が『俺』な訳? でもって、バーベキューがどうしてここ迄酷く成るんだ? …………大人って生き物は、俺が思っている以上に救えない存在 …………らしい……。 「そこの火付け男!早く食いたいからってそんなに火力上げたら生焼けだろう!!ほらっ、ピーマンが炭化しているっ!!! そこっ!!曹長のコップにビールとブランデーをチャンポンで注ぐなっ!で、それを飲むなっ!!倒れるなっ!! そこも!振られたからって月に向かって吠えるなっ!!今更だろう!てー言うか、近所迷惑だっ!! そこの大人も肉ばっかり食うなっ!!野菜を一つでも口に運べっ!! そっち!木に向かってウンチク陳べてんじゃねーぞっ!!聞き飽きたっ!!! お前もブラハと遊んでいるんじゃねーぞっ!!ってそのブラハが遊んでいる猫は何処から来たんだ?って一匹じゃねーじゃんっ!! ……頼むから笑いながら銃の手入れをしないでくれ!マジで怖いぞっ!!」 宴もたけなわの無法地帯……。 この収集できない状態を俺にどうしろって言うんだろう?鉄板の上を見れば、肉と野菜の他に誰かの靴下が乗っている。 どうして? 何で靴下? ってーか、誰か食うの? そんな疑問を口に出したって、まともに返答してくれる大人は……いない。 いる訳がない……本当に見事な状態。 「遣ってらんねー……」 ………俺がここを見捨て、台所に入るのは時間の問題だった。 酒にも肉にも手が伸びなくなった大人達を見て、終焉に差し掛かった頃合と見計らった俺は、キッチンでこの頃はまっている『シン料理』の食材を取り出した。
お湯を鍋に沸かし、もう一つの鍋にも湯を沸かす。 大ぶりの鍋で麺を茹で、その間にネギをとタレを適当に出した器に注ぐ。沸騰したお湯を器に注ぎ入れ茹った麺を入れてカウンターへ乗せた俺は、外で朽ち果てている大人達へ声を掛けた。
「皆、仕上げにラーメン食うか?」 「………って何だ?」 何人か反応が合ったけど、曹長当たりは芝生で死んでいる。それでもアルに起こされ部屋に入ってくれば、ラーメン独特の匂いに鼻をひくつかせていた。
「シン料理で、酒の後の仕上げにはもってこいの食べ物だよ。本当は焼豚とかメンマとか乗ってるんだけど、無いからそこらへんはカンベンな。それと人数多いから少しずつだけど、肉食った後だから良いだろう?」
俺の説明を補足するみたいに准将はラーメンの説明をしているが、誰もそんな事を聞いてはいない。 さっさと自分のラーメンを手にし適当に腰掛けると、フォーク片手にズルズルと啜り始めた。 食べ始めた皆を確認し、俺は自分のラーメンを食べ様とカウンターに目を向けた。 「???……俺の分無い???」 確かに6人分作ったはずだ!中尉に少尉に少尉、准尉と曹長と俺。6人………? 誰か二つ食べているのか?そう思って皆を見れば…… 「あぁぁーー!!大佐っ!俺のラーメン食うなっ!!」 口に麺を入れたままの大佐は、その体制で俺を見る。良い男が売りのアンタには情けない姿だ。 「それ俺のラーメン!アンタには『オレンジのリゾット』作ってあるから!」 その言葉で食すのを止めた大佐は、カランとフォークを器に投げ入れ姿勢を正し俺を見る。それは細く品定めをするかの如く厳し瞳。俺は僅かに顎を引いた。
「なっ……何だよ?ラーメンの方が良いのか?」 「………イヤ、早くリゾットを寄越せ。」 「………ヘーヘー。」 早い奴は食べ終わり、お片付け部隊宜しくシンクへと器を戻しに来る。 その都度「旨かった」とか「また作ってくれ!」とかの返答をしながら俺は食器棚からリゾット用の皿を出し鍋へと向かった。 勝手知ったる何とやらで、食べ終わったしまった皆は、庭へと出て落ちているビンとかを拾いお開きの準備を始める。室内に残ったのは、俺とリゾットを待つ大佐。それと伸びてしまっただろう……俺のラーメン。
しっかし、大佐は何が言いたいのか解からないけど、夕方から見せる仏頂面に俺も苛立つ。だけど、出来あがって居たオレンジのリゾットを白い器に持ってチーズを掛けて大佐へと運べば、俺に礼を言う事も無くそれを口に入れた。 だけど、その手は止まり、暫らくリゾットを眺めゆっくり俺へと視界を移す。俺も負けじと仏頂面を向ければ、苛立った声の大佐が俺の襟を掴み掛かって来た。
「お前は何なんだっ!」 「いきなり何がだよっ!」 「このリゾットは何処で覚えた!?」 「!?」 「何故俺が肉より魚を好むと知っている!」 「………」 「珈琲の好みも、朝のグレープフルーツジュースも、紅茶の銘柄もブランデーを入れる事も!俺は誰にも話した事は無い!!」 締め上げられる俺は、左手拳を大佐の胸へと強く押し当て今の状況を伝える。 答える前に窒息して死ぬ!! 俺の言いたい事に気付いたのか、大佐は掴んだ手を離し咳き込む俺を凝視していた。 「何故だ?」 ケホケホと咳き込んだ俺は、涙目の顔を大佐に向ける。そして、自分が当たり前の様に接して居た事に後悔した。 珈琲の好みも、紅茶の事も……それは全て大佐と付き合って知った事だ。 僅かな時間しか合えない俺達は、それでも相手の事を少しでも理解したいとしていた時に知った事。 大佐も自分の好みを人に話した事は無いと言っていた。その理由は良く解からないけれど、あの時は 「エドだから話すよ。」と、クサイ台詞をオマケで付けて話してくれて。 巡廻するおれの視線を合わせるように瞳を覗く大佐。逃げる事が許されない雰囲気に俺は飲み込まれた。 「アンタが……大佐が教えてくれたんだよ。」 「俺が?」 「忘れちまっただろうけど……俺は覚えている。俺だけは覚えている……………それだけだ。」 そこまで言った俺は、脱兎の如く逃げ出し間借りしている部屋へと飛び込んだ。 そしてベットに飛び込みピローへ顔を埋める。 苦しくて…苦しくて…寂しくて………辛い。 思い出せよ! 俺と話していた頃を思い出せよっ!! 俺の叫びは…………誰の耳にも届かない。 ………………誰にも聞かれてはいけない。 これが俺の選んだ道だから……………。 |