それは長〜〜い等価交換

6.大規模な誤謬

 

 

 

 

ごびゅう【誤謬】  まちがえること。また、そのまちがい。

 

 

 

 

東方の資料室に始めて入った十二歳のあの日。

 

書架にあった文献は、背伸びをすればなんとか届きそうで……届かない。

脚立を使えば早い話だけど、それも何だか面倒臭いと言うか……悔しい。

 

後1cm…5mm?………届かない。

 

左腕を一杯に伸ばし、指を掠めた背表紙が憎たらしい。

再度手を伸ばせば、横から伸びて来た手が俺の左手を握り、もう片方の手で難なくそれを書架から取り出した。

 

「あっ!!」

 

その本の行方を追う様に天を仰ぎ見る俺は、視界に文献の表紙だけを見ることになった。

 

コツンッ!

 

額に軽く落とされた文献。それを右手で払えば、口角を上げて胡散臭く笑う大人の視線とぶつかる。

 

「背を伸ばす手段として『背伸び方』があるらしいが、ここでは危険だ。辞めときたまえ。」

「うっせーぞ!何の用だよ!!」

「つれないね。」

「つれなくて結構!」

 

目を細め、俺を見た大佐のニュアンスは、何とも取り難くて……。

握り締めたままの左手が…、その漆黒の瞳からも目を逸らす事が出来ない。

俺は当時、ドキドキと五月蝿い心臓の意味を解からないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

こんな雨の日に傘を差して走っても、その意味を成さない。ズボンの裾は濡れるし、右肩当たりも濡れている。

バシャバシャと水の溜まった道路を走れば、湿気ると無能扱いされる男が姿を現した。

 

「待てよ大佐っ!」

「…………」

 

やっとの事で追い付いた俺を、一瞥食らわせただけで言葉を発しようとはしない大佐は、用意されていた軍用車両の運転席側に回り込んだ。

 

「オイッ!一人でフラフラ出歩くな例え軍施設の中でも危ないだろう『湿気ったマッチ』!!」

「―――!!」

「俺が護衛する。後部座席へ行けよ。」

「………誰が運転するんだ?」

「俺っ!」

 

運転席側の扉前で、親指を自分の胸に指し胸を張って言った俺の一言に固まる大佐。じっと俺の様子を見て一言呟いた。

 

「運転免許が取得できる年齢にしては小さいが。」

「うっせー!!兎に角、アンタは後ろ!!俺が運転するから。」

 

濡れてしまった右手に傘を持ち直し、左手で大佐の身体を押し後部座席へと促したが、一歩後退しただけの大佐は、目を細め運転席の扉を開いた。

 

「鋼のは小さすぎてクラッチペダルに足が届かないだろう。第一、免許書は持っているのか?」

「誰がクラッチペダルに潰されるぐらい小さいってっ!!……てゆーか、免許なんて持ってねーよ、でも運転は出来る。」

 

呆れたのか目を細め大きな溜め、息を付いた大佐は、俺の身体をトンと押し助手席へ行く様促す。

 

「運転は俺自身がする。」

「そりゃー、アンタ仲間少ないから自力しかないだろうけど―――」

「………お前に言われたくない。」

 

雨の中の押し問答も馬鹿らしい。結局俺が折れ、大佐は車を出発させた。

 

 

 

南部の将軍から昼食を兼ねた個人的会議を提案されたのは昨日の夜。

電話の話しは、下官である大佐に選択肢は無く引き攣った顔を受話器越しに表しながらも、その声は何時もと変わらない器用さで受諾した。

場所は郊外のホテル。高級感溢れるそこのメインレストランでの食事。……には裏が有るようで、准尉の情報では『孫娘持参』で来るらしい。

 

様は、『見合い』だ。

 

雨の中を滑る様にロータリーへと入った車は、正面に横付けすれば紳士的な男性が俺達を出迎えてくれた。正確には大佐を出迎えた。

 

「本日はお忙しい中、当ホテルをご利用頂き有り難うございます。」

「今日は世話に成ります。」

 

深深と頭を下げたその男に、大佐は人当たりの良さそうな表情で会釈を返す。そこらへんは流石だと理由無く感心してしまう。

そして、どうやら支配人らしいその紳士は、俺を見て不思議そうな表情を浮かべる。その目を見ればさしずめ『どうしてここに子供が?』と言った所か?

 

「あぁ、これは『オマケ』だ。」

 

不審がる支配人に大佐は一刀両断してくれた。

俺は『グ●コのオマケ』か!!

16近い年齢だからそんな感情は表情に出しはしない。グッと堪え視線を遠くに据えれば、頭上からクスリと笑い声が聞えた。

 

後で覚えてろよ!

 

『無能』

『誑し』

『サボリ魔』

『妖怪薄ら笑い』

『オッサン』

『記憶欠落人間』

『タコ』

『豚』

『ミミズ』!!!(最後は意味不明。)

 

思い浮かぶ罵詈雑言を思い浮かべ奥歯を噛み締めた。

 

「冗談はさて置き、この子は国軍の財産ですよ。支配人も聞いたことはあるでしょう、彼が『鋼』です。」

「はぁ〜、こんな『小さな』子供が!!」

 

地雷を口にした男をギンッと睨み上げれば、支配人は僅かに身体をびくつかせた。俺が鎖ブッチ切って暴れなかっただけ感謝して欲しい。

ニッコリと優しい笑顔に変わる支配人は、その小さな子供に丁寧な挨拶を向けて来た。勿論俺は僅かに頭を下げただけだった。

 

豪華だけれどシンプルな内装のホテルには、俺には縁遠い曲がゆったりと流れている。ブラウンを基調にしたソファーが何脚か離れて設置されていて、この時間らしく所々に高級感タップリの服を身に纏うお高い人々が遠慮下に俺達を見ていた。

 

実際見ているのは大佐の方か?中央でも有名な『イシュバールの英雄』が居るのだから無理も無い。後ろを護衛として歩く俺は、その纏わり付く視線の中に殺気が無いか全身をアンテナの様にし、気配を拾いながら歩く。

案内されロビーの突き当たりに在るレストランへと足を向ける。しかし、フロントから歩み寄って来たコンセルジュが支配人に一枚のメモ用紙を渡した。

それを一読した支配人は、大佐へとその紙を渡す。普段人前ではパーフェクトに繕うその表情を一瞬歪ませた大佐は、それを俺に渡す。

そこには、今から会う予定の将軍が一時間程遅れると言う内容だった。

新手の嫌がらせか?

そんな俺の考えはどうでも良くて、支配人は大佐へと声を掛けた。

 

「お連れ様が到着するまで別室を用意しますか?」

「イヤ、私は構わない。レストラン側に不都合があればそうしてくれ。」

「私共は大丈夫です。では、レストランの方にご案内します。」

 

そう言って案内された部屋は適度に広い個室で、白を基調に凝ったリーフが壁に埋め込まれている綺麗な部屋だった。豪華に飾られた花は、ビビット色が強くインパクトも高い。だけど、シンプルで物足りないこの部屋のアクセントとしては見事にマッチしていた。

 

頭を下げ退室した支配人にお礼を言った大佐は、入口に背を向ける椅子へと腰を下ろす。俺は、入口扉横に凭れ腕を組んで静かに目を閉じる。

 

大佐と俺だけしか居ない空間。

 

居心地が最悪だ!!

何を話せば言いというのか?

 

先日のバーベキュー以来、俺と大佐は極力お互いを避けていた。

なのに一時間は待たされると成ってこの状態!これってどーよっ!!

大佐もそんな気分なのか、何時もは正している姿勢を崩し背凭れに寄り掛かっている。大きく欠伸をし、首を回し天井を仰ぐと目を閉じた。

 

大佐はこの頃『寝不足』らしい。

夢見が悪いと少尉達に話していた。その内容はどんな物なのか聞きはしないが、かなりハードな夢らしい。朝食時も寝不足からか食欲が落ちている。やつれてはいないが、かったるそうな表情は見ていて忍びない。

 

椅子に腰掛ける大佐の背中を見詰めて居た俺もつられて小さな溜め息を吐く。そして意を決して大佐の所に歩み寄り、クルリと背中を合わせ背凭れに体重を掛け口を開いた。

 

「空気中の成分で安定した形の窒素・酸素・アルゴン・二酸化炭素、および水などの分子は、その分子の中の単一原子や電子雲…紫外線に共鳴して、複数の原子を持つ分子は赤外線に共鳴する。だから、可視光は、空気中の反応において、分子の周波数とでは小さ過ぎ、原子・電子の周波数とでは大き過ぎるという狭い間のぎりぎりのところで――――――」

 

光りと空気成分についてのベーシック中のベーシックな内容をズラズラ並べ立てる。そこから俺が考えている『空気中の成分』に対する錬金術におけるエネルギー理論を展開すれば、背を向けて居た大佐は身体を軽く捻り俺へと顔を向けて来る。

 

「空気中の練成に付いては俺の方が上手だな。そんな拙い理論じゃ直ぐに崩れる。だいたいレアガスの生成は、現時点であくまで副産物だ。空気中に微量に含まれる、ネオン、クリプトン、キセノンを取り出すのに工業用として使用する窒素と酸素製造がどれだけ必要だと思う?」

「でも、このエネルギーを副産物として捨てておくには勿体無いだろう?だから、プラント生成を―――」

 

 

『激論!将軍来るまで生論争!!』

 

 

お互い国家錬金術師のプライドが、引くに引けない状態を作り出している。特に大佐の専門分野である『体気』に関する事だ。その知識も理論も隙無く俺にぶつけて来る。俺も空気中の微量な『金属系成分』を利用して練成をする事は在る。しかし、本来の専門は『人体』と『金属』。圧倒的に歩が悪い。

 

お互いその場に立ち上がり睨みを効かせながら論議する。

一時間なんてあっという間に過ぎ、気が付けば部屋の入口には将軍と綺麗な女性が立っていた。

 

「流石、イシュバールの英雄だね。マスタング大佐。」

 

ニコニコ顔の将軍は、大佐に声を掛ける。アッとしていた俺達は、慌てて姿勢を正し敬礼するが今更な展開だったりする。

 

「失礼しました。本日はお招き有り難うございます。」

「いやいや、結構な物を見せて貰ったよ。所で………そちらの少年は?」

 

大佐が俺に視線を寄越したのは解かる。だけど敬礼を解かずその場で口を継ぐんだ俺を見て、大佐は将軍に顔を向けた。

 

「本日、護衛警備を務めます。『エドワード=エルリック』です。」

「君が『最小国家錬金術師』。」

「最・年・少・です。」

 

キッチリ落とし前をつけて遣ろうか!?一歩踏み出した俺を、大佐の腕が遮りそれを止める。敬礼を解き両手を握り締め前方を睨めば、将軍は俺をニヤ着いた顔で舐める様見詰めて来た。

 

「南部では君に会う事が出来ず残念だよ、エルリック君。君は、大総統に気に入られているそうじゃ無いか?どうだね、軍へ入隊して私の元で働かないか?」

「謹んで遠慮するっ!」

 

無礼極り無い態度で返答した俺は、その場を後にして部屋の外へと出る。クスリと鈴を転がしたような笑い声は将軍の『孫娘』で、俺の態度がよっぽど可笑しかったらしい。

何笑ってやがるっ!!

見た目は上の中……って感じの女性は、金とも白金とも説明が付く薄い色の髪を背に伸ばし、白地に胸下で紺の切り返しから広がるワンピースを着て居た。

聡明そうな緑の瞳を俺に向け口角を僅かに上げる。世に言う『プリンセススマイル』って奴だ。

身分の高い親族を持ち、豊富な財産で作られた頭脳と性格。容姿は然程悪くは無ければ『政略結婚』の相方にはもってこいの人物だろう。

これが大佐の横に並ぶ女?

中尉の方が圧倒的に美人だし頭も良い。そう思うとこの女性が哀れで仕方が無い。

大佐とこの女性では『格が違う』!

そう感じると、さっき迄むかついていた気持ちも少し晴れた気がした。

 

 

 

別室に移ろうと扉に手を掛けた時、視界の隅っこに何か引っ掛かるモノを入れた。顔を動かさず、視線だけを動かせば、中庭の遠くの方で数人の彩服を纏った男達が経口の大きい銃を持ち移動している。

どこから話しが漏れたのか?どちらを狙っての行動か?俺には判断する資料が無いから解からないけど、兎に角、この襲撃を阻止しなくちゃいけない事は確かだ。それも銃撃が始まる前!

その存在を将軍達が知る前に!!

廊下へ出た俺は、この土砂降りの中庭へと足を踏み出した。

 

 

 

 

何処かのアクション映画のようだ。

 

配役で言えば、俺は『ヒーロー』って所か?テロリストの数は7名。内、銃器を所持して居る者7名。全員?

リーダー格の指示通り配置に就いた男達を、ゲリラさながらの行動で1人また1人と倒し、ホテルで借りたワイヤーで拘束して行く。

出来る限り『錬金術』は使わない様心掛ける。錬金光によって相手が俺に気付いてしまわない様にする為だ。だけど、世の中そんなに旨く行くわけが無く、4人目を伸した所で俺の存在は嗅ぎ付けられた。

背後からの発砲には『ヤバイ!』って思った。だけど、当たった所ろが俺の右肩当たりだった。衝撃でグラッと体制を崩しただけで済んだのは、不幸中の幸い!狙撃した男へと捨て身で間合いを詰めれば、勝敗は俺に有った!……筈だった。

右腕を振り上げようとした時、その違和感に気付いた。

腕が肩以上うえに上がらない!!

咄嗟に足を横になぎ払い、相手の体制を崩し膝をボディーに突き刺す。崩れ落ちた所ろを錬金術で拘束して次へと向かう。

俺達の攻防が聞えたのか?援護に向かって来た男達2人を発見して直ぐ両手を合わせ地面へと着く。ぬかるんだ芝生を裂き円錐の突起を造りだし相手を伸す。

 

「エルリック様!!」

 

その声に振り向けば、さっきの支配人と屈強の男達が武器を所持しながら俺に駆け寄って来た。

 

 

 

この位の高級ホテルともなると、セキュリティー強化を兼ねて、軍属上がりを雇いこうした自衛策を取っているのは常識だ。

雨降りの中折角濡れて出て来てはくれたけど、仕事と言えば……

 

「賊は皆拘束してあるから、引き取る様に軍へ連絡してくれる?」

「………もう、事が終わったのですか?」

「あぁ、全部で7人ね。あと、悪いけどタオル貸してくれる?洗って返すから。」

 

ずぶ濡れの俺は、顔に掛かる雨水を払い苦笑いを浮かべる。

雨の中の格闘なんて聞えはかっこいいけれど、実際は下着までビショビショで気持ち悪い事この上ない。

 

「部屋を用意します。洋服はクリーニングへ……」

 

心配げに俺の顔を見る支配人。気持ちは有りがたいが、まだ俺は仕事中だったりする。

首を横に振りその提案を断れば、支配人は建物内へと俺を促しながらもう一つの提案を投げて来る。

 

「ロビー横にショップが入っております。宜しければそこで洋服を用意させますが……。ただ……」

「ただ?」

 

支配人の顔は、何とも表現しがたい。言い難そうに言葉を選び、俺の顔色を覗いながらこう言った。

 

「……子供用の店は入っていないのですが。」

「だったらほっとけよ!!」

 

タオルを借り濡れた髪の毛と洋服を拭き終る頃、大佐と将軍達の会談は幕を下ろした。

その内容は俺の預かり知らぬ事で、興味は無い。

にこやかに退室して来たお偉方さん達にずぶ濡れの俺は興醒めかと身を隠せば、将軍は辺りを見回し大佐に声を掛けた。

 

「おや?エルリック君の姿が見えんな?」

「申し訳有りません、私の躾が成っていないので挨拶にも顔を出しません。後で厳重に注意して置きます。」

 

ポーチへと見送る大佐は、苦い顔を浮かべ歩みを進める。その斜め後ろには頬を染めながら歩く女性。完全に大佐の魔力に囚われたのだろう。チラチラその顔を覗っている。

 この話は旨く言ったのだろうか?

   

強力な後ろ盾が出来たのだろうか?

   

あの女性が大佐の横に立つのか?

 

覚悟はしているけれど、胸が絞め付けられる程の痛み。胸の辺りの服を鷲掴みにして唇を噛み締めた。

 

『自分が選んだ道。』

誰かに強制された事じゃ無くて、自分が大佐の為に選んだ事。

 

決めた事なのに…後悔なんてしないと決めているのに………。

 

「イテーよ。」

 

俯き呟く様に出た言葉は、女々しい言葉。

洋服から滴り落ちる水は、俺の周りに水溜りを作り始め惨めさが更に募る。

近付いて来る足音に気付く事無くそれを見ていれば、俯いた俺の額に手を当てた大佐がグイッと顔を上げさせた。

 

「怪我は?」

「………何の問題も無い。」

目を細めじっと見詰める大佐は、俺の身体を上から下まで確認するよう視線を動かす。

 

「泣きそうな顔をしている。何処か痛むのか?」

「なんで俺が泣かなきゃいけないんだ?」

「泣きたければ遠慮せずに泣けば良い。」

「……だから、俺が泣く理由は無い。」

 

大佐の手が冷えた俺の頬に添わされる。意味が解からずその瞳を見れば、大佐が泣きそうな顔をしていた。

 

「どうしたんだよ……、あんたの方が泣きそうな顔をしている。」

 

そう言った瞬間、俺の時間は止まった。

 

 

 

目を見開き身体を固めた俺の目の前には、美麗な男の顔があった。

こう言う時、瞼は閉じるモノだと解かってはいるけれど、俺の脳が出す指令は何処かで詰まっているらしくピクリとも動かない。

押し当てただけの唇は温かく、優しい。

 

時間にしたらほんの一瞬だろう。その時間が長く感じた。

 

 

 

離れ際、俺のそれを軽く舐めた大佐は、至近距離で俺の瞳を覗き蕩けるような声を俺へと掛けた。

 

「冷たいな、軍に変える前に家に寄って着替えないと。それと風呂だな。」

「…………」

 

マジなのか?ジョークなのか?見当が付かない。

大きく息を吸って自分を取り戻そうと務めるが、俺のバクバク言っている心臓が……この行為に喜びを感じて発狂中の脳がそれを拒否する。

 

『自分が選んだ道。』

誰かに強制された事じゃ無くて、自分が大佐の為に選んだ事。

決めた事なのに…後悔なんてしないと決めているのに………嬉しくて仕方が無い。

 

泣きたく成る程の想いが溢れ出てくる。

例え冗談でも……嬉しいと感じている情けない自分。でも、止められない!!

 

「帰ろう……鋼の。」

 

左手を掴み背を向けた大佐は、用意されているだろう車へと歩き出す。俺は凧の様に引っ張られながらその背中を無言で見詰めた。

 

 

 

馬鹿みたいに喜んでいる俺を、冷静な俺が見詰めている。

何処で間違ったんだ?

 

大佐には真っ当な結婚を望んだんじゃないのか?

俺は………一緒に暮らして半月。大きな間違いをしていたのか!?

 

迷う俺の気持ちなど知らない大佐は、自宅へと車を飛ばし建物内へと連れ込む。

シャワーを浴び、浴室で暫らく呆然とさっきの事を考えていれば、温まった身体は急速に熱を奪われ………。

 

 

 

その夜、お約束の通り俺は高熱を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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